リウマチの治療 ー副作用の不安を減らすためにー

<2008年7月17日(木)日本リウマチ友の会埼玉支部医療講演会 フォーシーズンズ志木ふれあいプラザにて>

生物学的製剤の登場で、リウマチの治療も最近ずいぶん様変わりして参りましたが、いろいろな患者さんのお話を伺うとやはり心配なのは薬の「副作用」のようです。今日は、薬の副作用をどうしたら減らせるか、副作用が出たときの対処はどうしたらいいか、といったお話をさせていただきたいと思います。

今日は、ここにあげた4つの薬に絞って解説いたします。

リウマチの治療薬

  • 非ステロイド消炎鎮痛剤
  • ステロイド
  • リウマトレックス
  • 生物学的製剤
薬の効果と副作用
  • “副作用のない薬はない”
  • 治療効果の有用性が副作用を上回る
  • 副作用はあっても、治療が優先される
  • 副作用の頻度が少ない
  • 副作用の程度が軽い
  • 薬剤アレルギーの予測は困難
    • 薬剤の中止により軽快

薬は期待にこたえてくれる効果が得られる場合が多いのですが、まれに、あるいは、ときどき副作用が現れてしまうことがあります。


非ステロイド消炎鎮痛剤の副作用対策
  • 胃腸障害
    • 空腹時の服用は避けましょう
    • 胃潰瘍予防の薬の服用も必要です
  • 腎機能障害
    • 痛みが軽くなればできるだけ服用は減らしましょう
    • 水分は多めにとるようにしましょう
    • 定期的な検査を受けましょう

非ステロイド消炎鎮痛剤(いわゆる“痛み止め”)はリウマチ患者さん共通の悩みである痛みを軽減してくれます。根本治療ではないとはいえ、治療に欠かせないものです。


ステロイドの副作用対策 
  • 骨粗しょう症
  • 肥満、糖尿病

かつて、関節リウマチに始めてステロイドが使われたとき、それまで痛みのためにベッドから起き上がれなかった患者さんが、ステロイドを投与された翌日にはベッドの横でダンスを踊っていたというエピソードが伝えられたほどだったそうです。しかし、当時のステロイドの投与量が多すぎたために、副作用が問題となり、ステロイドが敬遠された時期もありました。しかし、今では少量をうまく使うことによって日常生活が非常に楽に過ごせるケースが多くなっています。ステロイドの副作用は、投与量や投与期間によってさまざまですが、骨粗しょう症と肥満・糖尿病が関節リウマチ患者さんでは問題になると思われます。

骨粗しょう症
  • 骨は常に新しく作られ(骨形成)、古くなった部分は削り取られ(骨吸収)、新しい成分に置き換わります
  • 20〜40代が骨密度のピーク、加齢とともに徐々に低下する。更年期以降、1年間に約2%ずつ低下

骨は、古くなると削られ、新しい成分が置き換わっています。それを骨回転といいます。20〜40代で骨は一番強く、それから徐々に低下していきます。特に、女性では閉経後にその速度は速くなります。

どのくらい起こる? 予防は?
  • プレドニン5.6mg/日を服用
  • 腰椎骨密度:年間2.0%減少
  • 大腿骨骨密度:年間0.9%減少
  • カルシウムとビタミンDで予防可能
  • ステロイドを中止すると回復する
    • Ann Intern Med 1996 Dec 15;125(12):961-8

ステロイドによる骨粗しょう症の報告はたくさんありますが、これは一例です。この当時はまだビスフォスフォネート製剤がありませんでしたが、カルシウムとビタミンDによるステロイド骨粗しょう症予防効果が報告されています。

ステロイド骨粗鬆症はなぜ起こる?
  • 小腸でのカルシウムの吸収が低下
  • 血中カルシウム濃度の低下
  • 骨のカルシウムが溶出(骨吸収の促進)
  • 筋力低下にともない骨形成が低下
対策
  • ステロイドはできるだけ少なく=減量、中止へ
    • でも、勝手に急に止めてはダメ
  • タバコ、アルコールはだめ
  • カルシウム摂取一日1000〜1500mg
  • 一日30分以上の運動

カルシウムの吸収が低下しているのですから、その分多くのカルシウムをとるようにしましょう。普通日本人の食事では一日600〜800mgくらいのかるしうむを摂っています。ですから、今の食事にさらに200mgのカルシウムを摂るとよいでしょう。

いつもの食事にカルシウム200mgを加えましょう
  • 牛乳1本 200cc(118kcal) =Ca 200mg
  • 豆腐2/3丁=Ca 240mg
  • 丸干しいわし小1尾=Ca 210mg
  • わかさぎ4匹= Ca 214mg
  • 小松菜80g=Ca 232mg
  • 大根の葉生100g=Ca 210mg

カルシウムが200mgくらいになる食材を挙げました。これを参考にして毎日の食事のカルシウムの量を増やしましょう。これは、”骨粗鬆症と関節痛の総合情報サイト、RICH BONE(http://www.richbone.com/index.htm)”より引用したものです。さらに詳しい情報が載っていますので、ぜひ参考になさってください。

運動療法の効果
  • 温水プール歩行の効果
  • 運動習慣のない人では1年間で骨密度は低下。プール浴をはじめた人、すでに行っている人では骨密度は増加

宇宙飛行士のように、無重力空間で1週間くらい過ごすと骨密度が急に低下するそうです。骨に刺激が与えられないと骨は弱くなってしまうのです。逆に、体に抵抗を与えるような運動は骨によい刺激となり、骨を強くする刺激となります。

閉経後の女性で、運動をしたことがない人が、そのまま運動をしない生活をしていると一年で0.9%骨密度は低下。運動をしたことがない人が水中歩行を行うと、1年後の骨密度は2.16%上昇した、という報告があります。

転倒予防
  • バランス訓練
    • 水中歩行、直線歩行、軽いスクワット
  • 手すりの設置
  • 杖の使用

骨粗しょう症の予防の目的は、骨折しないようにすることです。そのためにもうひとつ大切なのは、転ばないようにすることです。そのためには体のバランスをよくして、ちょっとつまずいた時や、ちょっとバランスを崩したときに倒れないバランス感覚を身につけておくことが大切です。

水中歩行はバランスをつけるのにも効果がありますので一石二鳥です。また、普通に歩くのではなく、線の上をまっすぐ歩くような練習をすると、体を横から支える筋力がつきます。軽いスクワットも有効です。転ばないために手すりや杖を活用しましょう。

  • カルシウム
  • ビタミンD
  • ビスフォスフォネート

あとは薬も必要です。ビタミンDにはなぜか転倒予防の効果もあるのではないかといわれています。ビスフォスフォネートは空腹時に飲むことが重要ですので注意してください。

ステロイドの副作用
  • 肥満、糖尿病対策
なぜ起こる?
  • ステロイドにより食欲が増す
  • ステロイドにより脂肪が付きやすくなる
  • 皮下脂肪は身体の中心につきやすくなる
  • 運動不足も原因のひとつ
  • ステロイド糖尿病の原因にはその人の体質も関与
    • 糖尿病の家族歴のある人は要注意

ステロイドで太ってしまうのは、皮下脂肪がつくからにほかなりません。糖分、動物性脂肪などは極力控えましょう。

ステロイド糖尿病は、ステロイドを服用すると誰でもなってしまうわけではありませんが、糖尿病の素因のある人、すなわち、糖尿病の家族歴があるとか、以前健診で尿糖が出たことがあるとか、糖尿病の予備軍といわれたことがある、というような方は気をつけてください。

対策
  • 体重チェック
    • 目盛りの細かいグラフに記入
    • デジタル体重計
  • 食事の管理

ステロイドの服用を開始したら、こまめに体重を量りましょう。デジタル体重計を用いて、グラフに記録しましょう。それも1kgの目盛りが大きいグラフにかきましょう。つまり、たとえば縦軸の1cmを1kgとするのではなく、4cmくらいを1kgとして、ちょっとの体重の変化も大きな変化に見えるようなグラフにするとよいでしょう。

食事
  • バランスのよい食事
  • 糖分、動物性脂肪を控える
  • 緑黄色野菜を多く摂る

食事では、バランスに気をつけましょう。ここに示したように、毎回の食事に、主食(ご飯、パンなど)、蛋白源(肉、魚、卵、大豆製品など)、野菜の3種類が必ず入るようにしましょう。野菜といっても、かぼちゃやイモ類は、栄養学的にはご飯に近いものなので、気をつけましょう。そして、糖分、動物性脂肪は控えることに注意しましょう。


リウマトレックス

ジェネリック:メトレート、メトトレキサートなど

リウマトレックス(ジェネリックのメトレート、メトトレキサートなども同様)は、今では関節リウマチ治療の中心といわれるほどの薬となっています。有効率も高く、効果も優れています。一方で副作用が他の薬よりは多いこともあり、服用中はいくつか注意していただきたいことがあります。

リウマトレックスの副作用対策
  • 血液異常
  • 肝機能障害
  • 間質性肺炎
  • 血液異常
白血球減少、血小板減少
  • リスクファクター
  • 70歳以上、低体重、腎機能低下、脱水、NSAID過剰
  • 対策
    • 定期的な血液検査

白血球減少や血小板減少という副作用は血液を採ってみないとわかりませんので、定期的な検査は必ず受けるようにしてください。

肝機能障害
  • 約13%にGPT上昇がみられる
  • 飲酒により肝機能障害は起こりやすくなる、また、重症化もしやすい
  • 定期的な検査をうける
  • GPT上昇を認めた場合、リウマトレックスの量が多い場合などは葉酸の投与も

肝機能障害は血液検査のGPTの上昇という形でまず現れます。GPTというのは普段肝臓の中にある控訴で、これが血液中で増えているということは、肝臓の細胞が壊れていることを表していて、数字が大きいほど、たくさんの細胞が壊れているということを示します。リウマトレックスの肝機能障害は、飲酒によって起こりやすくなりますので、アルコールはやめてください。また、ウイルス肝炎がある場合は、重症化する恐れがありますので、B型肝炎、C型肝炎の患者さんには使えません。また、GPTの上昇も軽度であれば葉酸(フォリアミン)という薬の投与で治ります。リウマトレックスの投与量が多い場合などははじめからフォリアミンが投与されている場合もあると思いますが、副作用予防のためには有効な薬です。フォリアミン自体に副作用はほとんどありません。

間質性肺炎
  • 肺の間質に炎症が起こる
  • 薬剤の直接作用、アレルギー、ウイルス感染などが原因と考えられている

間質性肺炎というのは、普通の細菌などによる肺炎と少し違います。人が呼吸をすると、空気は鼻から入り、気管を通って何本にも枝分かれした気管支を経て肺胞という袋状の部分に到達します。この肺胞には毛細血管があって、ここで、血液中からは二酸化炭素が放出され、空気中からは酸素が血液中に移行し、体は酸素を取り込みます。細菌感染による肺炎は、肺胞の中で起こり、細菌を白血球が食べて死滅させた結果として、痰が出ます。しかし、間質性肺炎というのは、肺胞の中ではなく、肺胞と毛細血管の間に炎症が起こるのです。ですから、あまり痰は出ないのが特徴です。

どんな症状?
  • 乾性咳嗽(痰のからまない咳)
  • 発熱
  • 息切れ
  • 特に、急性型はリウマトレックス服用日かその翌日に発熱とともに発症するともいわれている

風邪のような症状が長引いたり、日に日に悪くなるようでしたら早めに診察を受けましょう。リウマチを診て頂いている先生か、あるいは、近所の先生にリウマトレックスを飲んでいるということを伝えたうえで診てもらってください。

どんな場合におきやすい?=リウマトレックスによる間質性肺炎のリスクファクター
  • 呼吸器疾患がある
  • 高齢者
  • 糖尿病を合併
こんな症状があったら早めに受診を
  • 発熱・せき(からせき)
  • 息切れ・息苦しさ・口内炎
  • (ひどく)疲れやすい
  • のどの痛み・からだがむくんだ・かぜのような症状
  • 尿の量、回数が急に減った
    • リウマトレックスのシートより抜粋


生物学的製剤の登場は、関節リウマチ治療の新しい時代の夜明けと表現されることもあります。しかし、すべての患者さんがその恩恵にあずかれるわけではなく、また、副作用で使えない場合があることも事実です。

生物学的製剤
  • 現在使用されている生物学的製剤
    • レミケード
    • エンブレル
  • TNFαという物質を特異的に抑える抗体

生物学的製剤は“抗体”製剤で、TNFαという標的物質以外には何も作用を及ぼしません。つまり、ピンポイントで作用する薬なので、基本的に副作用は非常に少ないのです。ただ、TNFαを抑えてしまうために起こる副作用があります。

関節リウマチの病態

生物学的製剤の副作用
  • TNFαを抑えてしまうために起こる副作用
    • 感染症
  • アレルギー反応
    • レミケード:投与時反応
    • エンブレル:投与部位反応
  • TNFαが抑えられているということ
  • TNFαは炎症が起きたときに増え、全身倦怠感、発熱などの原因となる
  • 感染症になっても熱が出ないことがある
感染症

TNFαは感染症などから体を守るときに働いている物質でもある

  • 一般細菌
  • 結核、非結核性抗酸菌、真菌(カビ)
    • 肉芽腫性を形成する
      • 肉芽腫:菌が体内に侵入し、白血球などがその菌を食べてしまうが、その白血球の中で生き続ける状態。TNFが関与。

TNFαは感染が起きたときに体の中で増えます。それによって熱が出たり、だるくなったりもします。ですから、生物学的製剤を使っていて感染症になると、最初はあまり熱が出ない、という場合があります。

また、普通の細菌は体の中に入ると白血球に食べられて死滅します。しかし、結核菌などの特殊な菌は白血球の中でも生き続け、肉芽腫という塊を作ります。この肉芽腫を形成するのにTNFαが関わっていて、TNFαを抑えることによって、結核菌が再活性化されて増えてしまうということがあります。

結核予防策
  • 生物学的製剤を始める前に結核の既往を確認
  • レントゲン
  • 胸部CT
  • ツベルクリン反応
結核予防薬の効果

レミケードが市販されてから最初の5000例までの調査結果です。棒グラフは結核患者さんの発生数を表しています。残念ながら何人かの患者さんに結核が発生しています。しかし徐々に減っています。折れ線グラフは結核予防薬を投与された患者さんの数です。つまり結核予防薬の使用が普及したことによって結核の発生が減っていることがわかります。また、結核予防薬を投与していて結核が出てしまったというケースはないそうです。

一般的注意 
  • うがい、手洗い
  • マスクの着用
  • たばこはやめる

感染予防に、うがい、手洗い、マスク、禁煙は有効です。


まとめ
  • 薬の特性を理解して、治療を受けましょう
  • バランスのよい食事、適度な運動、感染予防(うがい、手洗い)、定期的な受診
  • 気になる症状があったら早めに主治医に相談を

大切なことは主治医とのコミュニケーションだと思います。普段の様子とちょっと違うこともわかってもらえるような関係が築けるといいと思います。

質疑応答は、皆さんの個人的な質問が多かったので、ここでは割愛させていただきますが、医師の説明の内容が正しく患者さんに伝わっていないことを感じるケースもいくつかあり、今後私たちも、よりわかりやすい説明を心がけていくべきだということを痛感致しました。

今日の話が皆様の療養のお役に立てれば幸いです。

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