第14回健康講座 コレステロールは下げた方がいいのはなぜか

コレステロ−ルはからだには不可欠なものであると同時に、多すぎれば動脈硬化の原因となってしまいます。高コレステロール血症の多くは食事療法で改善しますが、食事に気をつけていても下がらない場合もあります。それはどうしてなのでしょう。そして、コレステロールを下げると本当に動脈硬化になりにくくなるのでしょうか、また、薬をずっと続けていても安全なのでしょうか。今回はコレステロールと高脂血症の治療について解説します。

コレステロールの流れ

このような流れの中で、血液中のコレステロール、特にLDLが多くなると動脈硬化を起こしてくるのです。血液中のコレステロールが動脈硬化を起こすのは、次のような機序と考えられています。

このように考えられています。ですから、逆に、血液中のコレステロールを下げることによって肥ったマクロファージをやせさせて、狭くなった血管を再び広くすることもできるのです。動脈硬化というと硬くなってしまって元に戻らないように思いますが、決してそうではないのです。

コレステロールと動脈硬化

動脈硬化が原因で起こる主な疾患は以下のものです。

  1. 虚血性心疾患
  2. 脳梗塞
  3. 閉塞性動脈硬化症など

虚血性心疾患とは

脳梗塞とは

閉塞性動脈硬化症とは

動脈硬化性疾患の重要性

このように、コレステロールは、命にかかわることにもなりますし、クオリティーオブライフにも大きく影響することになります。

コレステロールが高いままだとどうなるのでしょうか?

では、実際にコレステロールが高いままだとどうなるのか、これまで明らかとなっていることを紹介しましょう。

@海外のデータ

1970年代に35〜57歳の心筋梗塞を起こしたことのない男性35万人を6年間追跡調査(MR-FIT研究、JAMA 1986, 256, 2835-2838)。

コレステロールが200を越えると、高ければ高いほど虚血性心疾患、総死亡が増える。

しかし、コレステロール180以下でも総死亡率が高くなっていくという問題点も指摘された。(この点は後述します。)

A日本のデータ1

B日本のデータ2

これらのデータを総合すると、血清コレステロールは220を越えると、高ければ高いほど動脈硬化が起こりやすくなることがわかってきました。

リスク計算の例(欧米人の場合)

欧米の多くのデータから、コレステロールやその他の危険因子を分析すると虚血性心疾患の起こりやすさが計算できます。たとえば、60歳の非喫煙者、糖尿病はなく、心臓肥大もない、血圧は150/80。という人の場合、

このように、コレステロールが少し違うだけで、動脈硬化のリスクも変わってくるのです。(ただし、数値はあくまでも欧米人の場合ですので参考までに)

では、どうしてコレステロールは高くなるのでしょう?食事の問題でしょうか?体質もあるのでしょうか?

食事は気をつけているのにどうしてもコレステロールが下がらない方もおられます。そのような場合は体質的なものが考えられ、治療には薬が必要となります。

ここでちょっと心配なデータがあります。日本人の食事の栄養素についてです。栄養素を糖分、タンパク質、脂肪に分けて考えると、若い世代で食事中の脂肪摂取割合が増えているのです。ということは、将来日本人の疾病構造の変化(欧米化)が起こる可能性が危惧されています。つまり、欧米並みに虚血性心疾患が多くなってくるのではないかということです。バランスのよい食事は若いうちから心がけましょう。

では、次に、コレステロールを下げたらどうなるのでしょうか?本当にいいのでしょうか?薬も飲み続けて大丈夫なのでしょうか?

まず、生活習慣の改善でコレステロールを下げた場合についてです。

  1. オスロ研究
  2. ロサンゼルス退役軍人研究:食事療法の効果

このように、食事療法などでコレステロールを下げることは、動脈硬化の予防につながることが示唆されています。

では、薬を使った場合はどうでしょう。厳密にこのような研究をするためには、患者さんを2グループに分け、一方の人たちには治療薬を投与し、他方の人たちには何の作用もない薬(偽薬)を投与して比較することが必要です。このような研究により、薬によってコレステロールは本当に下がるのか、薬によって動脈硬化などの合併症は減るのか、薬を飲み続けていて大丈夫なのか、といったことがわかります。残念ながら日本ではこのような研究はあまり行われません。欧米でのデータが中心となります。

  1. WOS研究(New England Journal of Medicine 1995, 333: 1301-1307)
  1. 4S研究(Lancet 1994, 344; 1383-1389)

このようにスタチン系といわれるコレステロール低下剤を投与することにより、コレステロールは下がり、動脈硬化を予防することも、すでに発症した人でも再発を予防する効果があるということがわかります。そしてこれらのデータからは、スタチン系の薬を使った人たちに特に有害な副作用が多かったということはなかったようです。

日本でも、薬を使った場合のデータがあります。

  1. J-LIT(Current Therapeutic Research, 2000, 61, 219-243)
  1. KLIS研究(Journal of Atherosclerosis and Thrombosis、2000;7:110-121)

日本の研究でも、やはり薬によってコレステロールを下げると動脈硬化性疾患は減るということがわかります。

ここで一つ問題なのはコレステロールが低くてもよくなく、薬によって下がりすぎた場合はよくないのではないか、という点です。この点については、コレステロールが低い(160以下)人たちでは、がん、事故死、自殺の頻度が高いという事実があります。もともとがんがあって、衰弱傾向としてコレステロールが下がったのか、コレステロールを下げたためにがんになったのかは不明ですが、今のところ薬による発ガン性は指摘されておらず、前者が理由として考えられます。しかし、経過中にコレステロール160以下になった場合には、がんなどがないか要注意です。また、上に示したようなデータは60歳代までが中心です。70歳以上の高齢者の場合はどうなのか、まだはっきりしたデータはありません。高齢者ではそれほど下げなくてもよいのではないかという意見もあり、私も今後出てくる新しい知見を参考に慎重に治療を続けて参りたいと考えています。

では、治療の柱となる、食事療法、運動療法について簡単に解説しましょう。

食事療法について

  1. 適正なカロリー:まずは肥満の解消が大切です
  2. コレステロール摂取の制限:一日250〜300mg以下に
  3. 飽和脂肪酸(動物性脂肪)の制限:飽和脂肪酸は肝臓のLDL受容体の働きを低下させてしまいます
  4. 食物繊維を多くとりましょう

食物線維はなぜコレステロールを下げるのでしょうか、

運動療法については以下のような効果があります

薬について

食事、運動で下がらない場合は薬を使うことになりますが、コレステロール低下剤でもっともよく使われているスタチンはなぜコレステロールを下げるのでしょう。

薬はコレステロールを20%程度下げるといわれています。つまり250の人では200に下げると期待できます。しかし、薬を飲むのをやめてしまうと元に戻ってしまいます。動脈硬化の予防のためには、コレステロールが低い状態を続けておくことに意味があるので、薬は続けましょう。

コレステロールを下げる意味、治療のポイントについて概説しました。治療は長く続けなくては意味がありません。食事や運動は生活の一部となるように、少しずつ生活習慣を変え、しっかり続けていくようにしましょう。

<参考文献>

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