健診結果をふまえた生活習慣病予防教室(高脂血症の部)の概要

平成15年度の”健診結果をふまえた生活習慣病予防教室”の高脂血症の部を担当させて頂きました。平成16年2月1日(日)、上福岡市西公民館で行われたものの概要です。

<目次>

高脂血症がなぜ重要か

アメリカのある大学の卒業生を追跡調査したデータ(NEJM 1998, 338, 1035)にこのようなものがあります。卒業生を、喫煙習慣があり、肥満があり、運動習慣もない人たちのグループAと、たばこは吸わず、肥満もなく、運動習慣がある人たちのグループCとその中間のグループBの3グループに分けて、その人たちが、自分の身の回りのことが何歳までできるか(いわゆる”健康寿命”)、というものです。これによると、グループCの人たちのほうが、グループA の人たちに比べて平均10年も、身の回りのことができる年齢が高かった、つまり、喫煙や肥満や運動不足などのある人の方が、健康寿命が短かったということなのです。
さらに、数字で表される、より具体的なものについて調べた多くの疫学調査の結果、高血圧、糖尿病、高脂血症などがあると動脈硬化が進みやすく、平均寿命や健康寿命が短くなるということがわかり、それらの治療が注目されるようになってきた訳です。今日は高脂血症、つまり、血液検査でコレステロールや中性脂肪が高いことについて、お話したいと思います。

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高脂血症とは

高脂血症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪が増える疾患です。コレステロールも中性脂肪も、からだには必要なものですが、食事として摂りすぎたり、肝臓で処理しきれなくなると血液中に増えてしまいます。血液中のコレステロールが高いと、動脈硬化が進みやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などが起こりやすくなります。それらは命に関わる病気であるだけでなく、健康寿命にも大きく関わってきます。

ここで、コレステロールの流れについてお話したいと思います。よく、コレステロールの多い食べ物を食べるから、血液中のコレステロールが増えるんだといわれます。それは確かに正しいのですが、それだけではないのです。むしろ、もう一つの要素のほうが、重要かもしれません。それは、肝臓でのコレステロールの取り込みと合成です。

<図 コレステロールの流れ>
(肝臓と腸管を示す。腸管の右が口、左が肛門側。肝臓と腸管は胆管でつながっている。肝臓、腸管の外側にあるコレステロールは血管内を流れているコレステロール。)

上図に示すように、食べ物は胃で消化され、腸を通り、便として排泄されます。その間に主な栄養素は腸から吸収されます。コレステロールもそのひとつです。ですから、たくさんコレステロールをとれば血液中のコレステロールは上がります。しかし、血液中のコレステロールは、肝臓のコレステロール受容体(LDL受容体)を通じて肝臓に取り込まれ、そこで分解されます。ですから、たくさんコレステロールをとっても、肝臓の働きがよければ、すなわち、コレステロール受容体の働きが正常ならば血液中にコレステロールが増えることはありません。しかし、この肝臓のコレステロール受容体の働きが悪いと、コレステロールをとりすぎた場合はもちろん、コレステロールをそれほどとっていなくても、血液中のコレステロールは増えることになります。この、コレステロール受容体の働きが低下する場合として、大きく分けると2通りあります。一つは生まれつきの体質によるもの。もう一つはバランスの悪い食生活(カロリ−オーバー、脂肪摂取量過多)や運動不足によって起こる場合の2通りです。痩せていて、野菜をよく食べているのにコレステロールが高い人がいますが、そういう方は前者の”生まれつきの体質”にあたる可能性があります。

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なぜ、高コレステロール血症になるのか

したがって、高コレステロール血症の原因は次のようになります。

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血液中のコレステロール、中性脂肪の値について

では、血液中のコレステロールがどのくらい高いとよくないのでしょうか。検診の結果表には、基準値が示されています。それが一つの基準です。つまり、

たとえば、総コレステロールは220を越えると、高ければ高いほど動脈硬化になりやすい、といわれています。他の数値についても同様です。コレステロールには、2種類あって、動脈硬化を防ぐコレステロールがHDLコレステロールで、動脈硬化を進めるコレステロール(悪玉)がLDLコレステロールというわけです。総コレステロールが高ければ多くの場合、悪玉のLDLコレステロールも高くなるのですが、正確には計算によりLDLコレステロールを求めます。その計算式は以下のようなものです。

たとえば、総コレステロールが270、HDLコレステロールが50、中性脂肪が150の場合、LDLコレステロールは、270- 50- (150/5)= 190となります。

このLDLコレステロールが140を越えるようだと、やはり動脈硬化がおこりやすくなります。

しかし、数字だけにとらわれず、その人その人の状況に応じた対応が必要になります。つまり、家族歴(血縁の方に、心筋梗塞や高脂血症の人が多いかなど)、喫煙習慣の有無、高血圧、糖尿病もあるかどうか、いわゆる善玉コレステロールといわれるHDLコレステロールはどうか、などによって判断する必要があります。

個人個人の治療方針についてはそのように考える必要がありますが、疫学的なデータ(J-LIT)から、次のようなことが示されています。

たとえば、高脂血症がなく(つまりLDLコレステロールが120、HDLコレステロールが50)で喫煙習慣はなく、糖尿病もなく、高血圧もない55歳の女性の場合、6年以内に動脈硬化性疾患の代表である心筋梗塞や狭心症を起こす率は、0.2%というデータがあります。それが、高脂血症がある(LDLコレステロールが170、HDLコレステロールが40、)となると、0.7%になり、さらに、高血圧、糖尿病、喫煙習慣もある場合は10.4%となります。つまり、動脈硬化の危険因子といわれる、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙などが重なると、動脈硬化を起こす危険性が高まるのです。それを示したのが上の棒グラフです。

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治療対象となる場合とは

では、どのような方が、治療対象となるのでしょう。前述したように、数値はあくまでも目安ですが、一応、総コレステロール 240、中性脂肪 150といわれています。しかし、他の動脈硬化を起こしやすい要素があればより厳密に、つまり、その値より低くても治療の対象と考えたほうがよい場合もあります。また、逆に、そのような要素が一つもなければ多少は甘目にみてもよいかもしれません。

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治療法の考え方

具体的な治療方法に話を進めましょう。治療は、食事、運動がまず大切で、それでも下がりにくければ、薬の使用を検討します。

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食事療法

食事の要点は次のようなものです。

  1. バランスのよい食事
  2. 適正なカロリー
  3. 食品中のコレステロールの制限
  4. 飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸
  5. 食物繊維を多く
  6. 抗酸化物質も取り入れる

1 バランスのよい食事

バランスのよい食事といってもわかりにくいと思います。バランスについて詳しく解説するとすると、糖尿病の食品交換表を使うのがもっともよい方法です。しかし、それではちょっと細かすぎますので、こんな風に考えてみてください。食品を、(1)主食(ごはん、パン、芋類)、(2)蛋白源(肉類、魚類、大豆製品)、(3)野菜類の3種類に分け、毎食必ずこの3種類をとるようにする、という具合です。簡単なようで意外と難しくもあります。毎回の食事に、必ず、この3種類の食材が含まれ、なおかつ、いろいろな食材(できれば1日30品目)をとるようにしましょう。

2 適正なカロリー

次に適正なカロリー。これは標準体重から求めます。その人の運動量、労働量によって変わってきます。次のように計算します。

標準体重x25〜30

たとえば、身長160cmの人で、デスクワークが中心の方の場合、

だいたい、1400〜1600kCalを基準に考えればよいでしょう。

これらの食事療法は、前述した、コレステロール受容体の働きをよくし、肝臓でのコレステロールの取り込みをよくするために大切です。

3 食品中のコレステロールの制限

つぎに、食品中のコレステロールを減らしましょう。食品中のコレステロールの量は、食品成分表を参考にしてください。1日のコレステロール摂取量を300mg以下にするのがよいとされています。コレステロールの多い食材の一例を示します。

食材 コレステロール含有量 食材 コレステロール含有量
卵1個(50g) 210 mg ししゃも3尾(60g) 174 mg
鰻蒲焼き1串(100g) 230 mg 鶏もも肉(皮付き100g) 98 mg
たらこ1/2腹(40g) 140 mg 鶏レバー 50g 185 mg

4 飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸

脂肪のとり方にも工夫をしてください。飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸のほうがよいといわれています。飽和脂肪酸は常温で固まる油、不飽和脂肪酸は固まらない油、と思っていただいてよいと思います。前者は動物性脂肪、つまり、ラード、バターなどが代表です。後者は、サラダオイル、オリーブオイル、魚油などが含まれます。

次に、多く食べた方がよいものは食物繊維と抗酸化物質です。

5 食物繊維を多く

食物繊維は、海草類、茸類、豆類、芋類に多く含まれます。ただし、芋類、豆類はカロリーも高くなりやすいので気をつけましょう。

6 抗酸化物質を

抗酸化物質は動脈硬化を防ぐ働きがあり、βカロチン、ビタミンC、ビタミンEなどが代表的です。食材としては次のようなものです。

いずれの食材も、それだけとればよいというものではありませんので、常にバランスを考えてとるようにして下さい。

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運動療法

運動については、ジョギング、ウォーキング、水泳、水中歩行、サイクリングなどのような運動がよく、一日30分前後、週2日以上行うのがよいでしょう。

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薬が必要な場合

これらを行ってもコレステロールが下がらない場合は薬が必要となります。薬については、主治医の先生によく聞いて使ってください。

薬を飲んでいる場合はもちろん、食事療法、運動療法で治療を続けている場合も、定期的な検査も必ず受けるようにしてください。

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まとめ:

  1. 高脂血症は動脈硬化の原因となります
  2. 食事、運動などの生活習慣改善により克服できます
  3. 薬が必要となる場合もあります
  4. 定期的な検査を受けながら適切な治療を続けましょう

年は誰でもとりますが、いつまでもみなさんに元気で過ごしていただきたいと思います。そのために高脂血症を克服し、健康を維持して頂く上で、今回のお話が少しでもお役に立てたら幸いです。

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