”高脂血症について”の概要
平成16年度の”健診結果をふまえた生活習慣病予防教室”の高脂血症の部を担当させて頂きました。平成17年1月29日(土)、上福岡市保健センターで行われたものの概要です。
<目次>
健診を受ける意味は次の2点が重要だと思います
では、“生活習慣病”早期治療の意味は何でしょう
つまり、生活習慣病を治療することは、命に関わる病気を避けるばかりでなく、元気に人生を送る上でも大切なことといえると思います。
脳卒中、心臓病は、動脈硬化が原因と考えられています。そして、動脈硬化の原因として、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙などが重要です。
では、動脈硬化とは何でしょう。
まず、動脈って何でしょう。
動脈は全身に栄養を送るパイプラインの働きをしています。下の図に示したピンク色の線が動脈です。心臓から出て、全身に栄養を送ります。
<図:全身の動脈>
この動脈がつまってしまうと、そこから先へは栄養が送られなくなり、その臓器に障害をもたらします。脳の血管に動脈硬化が起きてつまってしまうと脳梗塞に、心臓の血管がつまってしまうと心筋梗塞になってしまいます。
では、コレステロールがどのようにして動脈硬化を起こすのでしょうか。下の図に、動脈にコレステロールがたまっていく様子を示しました。動脈はパイプラインといいましたが、構造はただのパイプやチューブのような単純なものではありません。3層からなる弾力に富んだ一つの臓器といってもよいものなのです。血液中を流れる悪玉コレステロール(図中)は、血液中に増えすぎると血管の内側に取り込まれて溜まっていきます(図の左上から右上への変化)。このくらいの状態なら血液の流れを妨げることもなく、特に問題はありません。しかし、さらに悪玉コレステロールが溜まると血管の内腔が狭くなり、血液の流れが悪くなってきます(図の左下)。さらに血管壁の中のコレステロールが増えると血管の内側の壁に亀裂が生じます(プラークの破綻といいます)。するとそれは血管の傷なので、修復するために血小板(図中)が集まってきて血栓を作ります(図の右下)。血栓というのは、血管が破れて出血したような場合は、出血を止めるために必要なのですが、このような場合は困ったことになります。急に動脈がつまってしまうことになるからです。つまり、脳や心臓の血管に生じれば、突然、脳梗塞や心筋梗塞を起こす、ということになるわけです。そして、つまったままの状態が長く続けば、麻痺や心不全などの後遺症を残してしまうのです。
<図:動脈硬化の進展>
ここまでのお話をまとめますと、
つまり、高脂血症を治療することは、長く、健康で過ごすための手段ともいえるのです。
高脂血症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪が増える疾患です。コレステロールも中性脂肪も、からだには必要なものですが、食事として摂りすぎたり、肝臓で処理しきれなくなると血液中に増えてしまいます。血液中のコレステロール、特に悪玉コレステロールが多いと、動脈硬化が進みやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などが起こりやすくなります。それらは命に関わる病気であるだけでなく、健康寿命にも大きく関わってきます。
ここで、コレステロールの流れについてお話したいと思います。よく、コレステロールの多い食べ物を食べるから、血液中のコレステロールが増えるんだといわれます。それは確かに正しいのですが、それだけではないのです。むしろ、もう一つの要素のほうが、重要かもしれません。それは、肝臓でのコレステロールの取り込みと合成です。
<図 コレステロールの流れ>
(肝臓と腸管を示す。腸管の右が口、左が肛門側。肝臓と腸管は胆管でつながっている。肝臓、腸管の外側にあるコレステロールは血管内を流れているコレステロール。)
上図に示すように、食べ物は胃で消化され、腸を通り、便として排泄されます。その間に主な栄養素は腸から吸収されます。コレステロールもそのひとつです。ですから、たくさんコレステロールをとれば血液中のコレステロールは上がります。しかし、血液中のコレステロールは、肝臓のコレステロール受容体(LDL受容体)を通じて肝臓に取り込まれ、そこで分解されます。ですから、たくさんコレステロールをとっても、肝臓の働きがよければ、すなわち、コレステロール受容体の働きが正常ならば血液中にコレステロールが増えることはありません。しかし、この肝臓のコレステロール受容体の働きが悪いと、コレステロールをとりすぎた場合はもちろん、コレステロールをそれほどとっていなくても、血液中のコレステロールは増えることになります。この、コレステロール受容体の働きが低下する場合として、大きく分けると2通りあります。一つは生まれつきの体質によるもの。もう一つはバランスの悪い食生活(カロリ−オーバー、脂肪摂取量過多)や運動不足によって起こる場合の2通りです。痩せていて、野菜をよく食べているのにコレステロールが高い人がいますが、そういう方は前者の”生まれつきの体質”にあたる可能性があります。
また、肝臓ではコレステロールの合成も行われます。その一部は再び血液の中に放出されます。また、肝臓で作られたコレステロールは胆汁の一部として腸管に排泄され、一部は便に排泄され、一部は再び吸収されて肝臓で合成されるコレステロールのもととなります。
したがって、高コレステロール血症の原因は次のようになります。
では、血液中のコレステロールがどのくらい高いとよくないのでしょうか。検診の結果表には、基準値が示されています。それが一つの基準です。つまり、
たとえば、総コレステロールは220を越えると、高ければ高いほど動脈硬化になりやすい、といわれています。他の数値についても同様です。コレステロールには、2種類あって、動脈硬化を防ぐコレステロールがHDLコレステロールで、動脈硬化を進めるコレステロール(悪玉)がLDLコレステロールというわけです。総コレステロールが高ければ多くの場合、悪玉のLDLコレステロールも高くなるのですが、正確には計算によりLDLコレステロールを求めます。その計算式は以下のようなものです。
たとえば、総コレステロールが270、HDLコレステロールが50、中性脂肪が150の場合、LDLコレステロールは、270- 50- (150/5)= 190となります。
このLDLコレステロールが140を越えるようだと、やはり動脈硬化がおこりやすくなります。
しかし、数字だけにとらわれず、その人その人の状況に応じた対応が必要になります。つまり、年齢、家族歴(血縁の方に、心筋梗塞や高脂血症の人が多いかなど)、喫煙習慣の有無、高血圧、糖尿病もあるかどうか、いわゆる善玉コレステロールといわれるHDLコレステロールはどうか、などによって判断する必要があります。
個人個人の治療方針についてはそのように考える必要がありますが、疫学的なデータ(J-LIT)から、次のようなことが示されています。
たとえば、高脂血症がなく(つまりLDLコレステロールが120、HDLコレステロールが50)で喫煙習慣はなく、糖尿病もなく、高血圧もない55歳の女性の場合、6年以内に動脈硬化性疾患の代表である心筋梗塞や狭心症を起こす率は、0.2%というデータがあります。それが、高脂血症がある(LDLコレステロールが170、HDLコレステロールが40、)となると、0.7%になり、さらに、高血圧、糖尿病、喫煙習慣もある場合は10.4%となります。つまり、動脈硬化の危険因子といわれる、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙などが重なると、動脈硬化を起こす危険性が高まるのです。それを示したのが上の棒グラフです。
では、どのような方が、治療対象となるのでしょう。前述したように、数値だけで決まるのではなく、他の動脈硬化を起こしやすい要素があればより厳密に、つまり、その値より低くても治療の対象と考えたほうがよい場合もあります。そして、数値としては総コレステロールよりLDLコレステロールの値が重要です。
具体的には、やや複雑ですが、日本動脈硬化学会の基準では、以下のように考えられています。
まず、以下の危険因子をいくつ持っているか数えます
危険因子の数 | 総コレステロール目標値 | LDLコレステロール目標値 |
---|---|---|
0 | 240 mg/dl未満 | 160 mg/dl未満 |
1〜2個 | 220 mg/dl未満 | 140 mg/dl未満 |
3個以上、または上記の5にあてはまる | 200 mg/dl未満 | 120 mg/dl未満 |
上記の6にあてはまる | 180 mg/dl未満 | 100 mg/dl未満 |
このように、危険因子をたくさん持っていること、あるいは、糖尿病を持っている、あるいは、すでに心筋梗塞、狭心症をを起こしている、といった点は重要視されます。
具体的な治療方法に話を進めましょう。治療は、食事、運動がまず大切で、それでも下がりにくければ、薬の使用を検討します。
それぞれの治療法がどこに効くのか理解すること、つまり、どうして運動が重要なのか、とか、どうして食物繊維が必要なのか、などを理解することは大切です。
食事の要点は次のようなものです。
1 バランスのよい食事
バランスのよい食事といってもわかりにくいと思います。バランスについて詳しく解説するとすると、糖尿病の食品交換表を使うのがもっともよい方法です。しかし、それではちょっと細かすぎますので、こんな風に考えてみてください。食品を、(1)主食(ごはん、パン、芋類)、(2)蛋白源(肉類、魚類、大豆製品)、(3)野菜類の3種類に分け、毎食必ずこの3種類をとるようにする、という具合です。簡単なようで意外と難しくもあります。毎回の食事に、必ず、この3種類の食材が含まれ、なおかつ、いろいろな食材(できれば1日30品目)をとるようにしましょう。
2 適正なカロリー
次に適正なカロリー。これは標準体重から求めます。その人の運動量、労働量によって変わってきます。次のように計算します。
標準体重x25〜30
たとえば、身長160cmの人で、デスクワークが中心の方の場合、
だいたい、1400〜1600kCalを基準に考えればよいでしょう。
これらの食事療法は、前述した、コレステロール受容体の働きをよくし、肝臓でのコレステロールの取り込みをよくするために大切です。
3 食品中のコレステロールの制限
つぎに、食品中のコレステロールを減らしましょう。食品中のコレステロールの量は、食品成分表を参考にしてください。1日のコレステロール摂取量を300mg以下にするのがよいとされています。コレステロールの多い食材の一例を示します。
食材 | コレステロール含有量 | 食材 | コレステロール含有量 |
---|---|---|---|
卵1個(50g) | 210 mg | ししゃも3尾(60g) | 174 mg |
鰻蒲焼き1串(100g) | 230 mg | 鶏もも肉(皮付き100g) | 98 mg |
たらこ1/2腹(40g) | 140 mg | 鶏レバー 50g | 185 mg |
4 飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸
脂肪のとり方にも工夫をしてください。飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸のほうがよいといわれています。飽和脂肪酸は常温で固まる油、不飽和脂肪酸は固まらない油、と思っていただいてよいと思います。前者は動物性脂肪、つまり、ラード、バターなどが代表です。後者は、サラダオイル、オリーブオイル、魚油などが含まれます。
次に、多く食べた方がよいものは食物繊維と抗酸化物質です。
5 食物繊維を多く
食物繊維は、海草類、茸類、豆類、芋類に多く含まれます。ただし、芋類、豆類はカロリーも高くなりやすいので気をつけましょう。
6 抗酸化物質を
抗酸化物質は動脈硬化を防ぐ働きがあり、βカロチン、ビタミンC、ビタミンEなどが代表的です。食材としては次のようなものです。
いずれの食材も、それだけとればよいというものではありませんので、常にバランスを考えてとるようにして下さい。
運動については、ジョギング、ウォーキング、水泳、水中歩行、サイクリングなどのような運動がよく、一日30分前後、週2日以上行うのがよいでしょう。
これらを行ってもコレステロールが下がらない場合は薬が必要となります。薬については、主治医の先生によく聞いて使ってください。
薬を飲んでいる場合はもちろん、食事療法、運動療法で治療を続けている場合も、定期的な検査も必ず受けるようにしてください。
年は誰でもとりますが、いつまでもみなさんに元気で過ごしていただきたいと思います。そのために高脂血症を克服し、健康を維持して頂きたいと思います。今回のお話が少しでもお役に立てたら幸いです。