生活習慣病予防セミナー

あなたもできる生活習慣病予防ー脂質異常症についてー

  日時:2009年3月5日 

  場所:ふじみ野市立上福岡保健センター

 

本日の予定

 

はじめに

今回の生活習慣病セミナーでは、「脂質異常症」について解説したいと思います。脂質異常症は、以前は高脂血症、高コレステロール血症などと呼ばれていた疾患を含みます。後ほど述べますが、コレステロールの中でもいわゆる悪玉コレステロールが高い、善玉コレステロールが低い、あるいは、中性脂肪が高い、といった病態を総称して「脂質異常症」と呼びます。

 さて、このようなセミナーに興味を持たれている皆さんの関心事は、「これからもずっと元気でいたい」、あるいは、今もちょっと調子が悪いところはあるけどこれ以上悪化することなく元気でいたい、といったことではないかと思います。その願いを阻むものが、病気であったり、けがであったりします。私たちの健康を阻む病気にはどんなものがあるかというと、心臓病、呼吸器疾患、肝臓病、腎臓病、脳血管疾患(脳卒中)、がん、骨折、認知症、などがあげられるかと思います。

今日お話しする脂質異常症は、心臓病、脳血管疾患、認知症と特に深い関わりがあります。心臓病や脳血管疾患は血管の動脈硬化が原因で起こり、両者はあわせて心血管系疾患とも呼ばれます。認知症の一部は脳の血管の動脈硬化と関連があります。

 

心血管系疾患の疫学

この心血管系疾患は、日本人の死亡原因の約30%を占めます。また、寝たきりになる原因の第一位は脳血管疾患で、35%を占めています。

この、心臓病と脳血管疾患をあわせた、心血管系疾患の原因は「動脈硬化」で、動脈硬化の原因にはいろいろなものがあります。高血圧、糖尿病、喫煙、メタボリックシンドローム、そして脂質異常症です。そして、これらはいずれも生活習慣と深い関わりがあるのです。

 健診と動脈硬化の予防

今まで市が行ってきた基本健診もそうでしたが、昨年から行われるようになった特定健診では、特に、動脈硬化の予防という点が重視されるようになりました。特定健診になって変わった点の第一は腹囲を測るようになったことだと思います。腹囲を測る目的は、腹囲が内臓脂肪の量と関係するからです。どうして内臓脂肪が重要かというと、内臓脂肪の多い人は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの動脈硬化の原因を持つことが多くなるからです。そして、高血圧、糖尿病、脂質異常症が軽くても、動脈硬化が起こりやすくなる、というデータがあるからなのです。そして、今日は詳しくはお話し致しませんが、内臓脂肪の蓄積によって起きてくるのがメタボリックシンドロームというわけです。

脂質異常症の診断

さて、脂質異常症は、血液を検査して診断されるのですが、脂質異常症に関連した検査項目は次の3つです。

一昨年の基本健診までは、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の3項目を検査していました。昨年からそれが変わったので戸惑った方も多いかと思います。総コレステロールが高くても、善玉コレステロールであるHDLコレステロールが高い場合と、悪玉コレステロールであるLDLコレステロールが高い場合とでは、動脈硬化になりやすさが違います。そこで、昨年からは、HDLコレステロールとLDLコレステロールを直接測って動脈硬化の危険性を判断することになったのです。

ちなみに、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪からLDLコレステロールを計算する方法があります。それは以下の式で計算されます。一昨年までの健診結果の数値から計算して、昨年のLDLコレステロール値と比較してみてください。

LDLコレステロール=(総コレステロール)-(HDLコレステロール)-(中性脂肪/5)

 

そして、脂質異常症は次の基準で診断されます。

以上です。ただし、高血圧もある、糖尿病もある、喫煙をしている、など、動脈硬化の原因となりうるほかの因子(危険因子)も持っている場合はもう少し厳しく判定することもあります。

脂質異常症と動脈硬化

では、脂質異常症などがあると、本当に動脈硬化が起こりやすくなるのでしょうか。データをお示ししましょう。

次のグラフを見てください。

 

これは55歳の男性と女性を対象にした調査です。6年間追跡調査して、その間に心筋梗塞、狭心症など動脈硬化によって起こる心臓病の発症した割合を示したものです。そして、脂質異常症、高血圧、喫煙、糖尿病などのある人とない人で分類しています。これらの要素が全くない人でも心臓病は起こってしまいますが、きわめてわずかです。それに比べ、脂質異常症をはじめ、高血圧、糖尿病、喫煙のある人、特にそれらを重複して持っている人では、心臓病を発症する率が非常に高いということが分かります。

今回お話しするのは脂質異常症ですが、他の危険因子も持っていると、より動脈硬化は起こりやすくなり、その危険因子の数が多いほど、その危険性は高くなります。

 脂質異常症の原因

では、脂質異常症の原因は何でしょうか。それは、体質的な「素因」と「生活習慣」といわれています。脂質異常症は家系内、家族内での発症が多く、何らかの素因があると考えられていますが今の医学ではまだ十分解明されていません。それ以上に重要なのが、生活習慣といわれています。特に、食生活の変化、中でも脂肪摂取量の増加、それから、運動量の低下が関係するということが多くの疫学調査から分かっています。

 脂質異常症と診断されたら

脂質異常症と診断されたらどうすべきでしょうか。まず大切なことは生活習慣の問題点を探り出し、生活習慣をよい方向へと変えていくことです。

具体的には、日常生活に運動を多く取り入れ、食生活を改善することです。

 運動のポイント

ウォーキングの実際

 食事のポイント

次に大切なのは食事です。いろいろなポイントがありますが、今日はバランスと食物繊維を中心にお話します。

生活習慣改善の効果

これらの生活習慣改善によって、血液中の脂質が正常化、つまり、悪玉コレステロールが減り、中性脂肪が減り、善玉コレステロールが増えるという変化が現れることが多くの研究で証明されています。そして、数年単位で調査すると、動脈硬化の発生も減ることが示されています。

生活習慣の改善だけでは脂質異常が十分に改善できない場合には薬も使うことになります。薬も副作用の少ない、よい薬が開発されていますので、どうしても薬が必要となった場合でも、安心して治療を受け、動脈硬化の危険性を減らすようにしてください。

 <まとめ>


<質疑応答>

Q: 腹囲測定で基準のオーバーしていないとコレステロールなどの検査はしないんですか?

A: メタボリック症候群の診断基準では、腹囲が男性で85cm、女性で90cmが必須項目となっていますので、メタボリック症候群の診断をする上では腹囲の基準をまず満たしていなければ検査結果に関わりなく、メタボリック症候群とは診断されません。しかし、健診では腹囲測定値に関わりなく、血清コレステロールをはじめ、脂質、肝機能、血糖値などの検査は行います。また、ちなみに、メタボリック症候群の基準を満たしていなくても、つまり、腹囲が基準をオーバーしていなくても(内臓脂肪はそれほど多くなくても)検査結果で血圧やLDLコレステロールや血糖値が高かった場合はやはり動脈硬化のリスクにはなります。

 

Q: LDLコレステロールが、運動をすると下がるというのはどういうメカニズムなのですか?

A: 血液中の脂質は肝臓で代謝されます。LDLコレステロールは肝臓で吸収され、分解されるのですが、LDLコレステロールの吸収には、LDL受容体というものが必要です。肝臓にはこのLDL受容体があって、血液中のLDLコレステロールを肝臓内に吸収しています。肝臓でのLDLの代謝のレベルはいろいろな要素で変わってきますが、最も影響の大きいのがLDL受容体の働きなのです。LDL受容体の働きがよくなると血液中のLDLコレステロールがより多く肝臓に吸収され、代謝されますので、血液中のLDLコレステロールが減ることになります。運動をすると、筋肉でリポ蛋白リパーゼという酵素の合成が増し、この酵素によって脂肪酸の分解が行われます。それ自体でまず中性脂肪が下がりますし、脂肪酸が分解されると、肝臓のLDL受容体の働きがよくなります。そのような仕組みで、運動によって血液中のLDLコレステロールが下がると考えられています。

 

Q: コレステロールが肝臓で代謝されるという話でしたが、C型肝炎を持っている場合はどうなりますか?

A: C型肝炎の状態にもよりますが、肝臓の機能が低下すると血液中のLDLコレステロールは増えてしまうことがあります。その場合は薬を使って下げる必要も出てきます。

 

Q: 脂質異常症の薬といってもコレステロールが高い場合と中性脂肪が高い場合とでは薬が違うのですか?

A: コレステロールが高い場合はスタチン系といわれる薬が使われます。中性脂肪が高い場合はフィブラート系という薬が使われます。実際には中性脂肪だけ高い場合は少なく、コレステロールも高い場合が多いので、スタチン系を使うことが多くなるかと思います。

 

Q: 配布されたパンフレットの中の説明に、LDLコレステロールを減らす3原則の3番目に、「コレステロールや胆汁酸を排泄させる食物繊維をたくさん食べる」とありますが、胆汁酸というのは脂肪を消化するのに必要だと思うのですが、排泄させてしまっていいのですか?

A: 大変鋭い質問だと思います。胆汁は肝臓で作られ、胆のうに蓄えられ、食事をすると十二指腸に出てくる消化液で、脂肪を分解するのに必要です。胆汁酸は胆汁の主要な成分で、コレステロールを多く含んでいます。肝臓が胆汁酸を作るためには肝臓がLDLコレステロールを取り込んで、胆汁酸に合成する必要があります。消化液として腸管内に出た胆汁は、脂肪の分解などの仕事を終えると、腸管から再び吸収されます。そして、肝臓に再び入り、胆汁酸の合成に使われます。食物繊維を多くとった場合、食物繊維が胆汁酸の再吸収を阻害します。そうなると、肝臓に戻ってくる胆汁酸が少なくなります。そして、肝臓は新たに胆汁酸を作るためにはLDLコレステロールをたくさん取り込んで、胆汁酸に合成することが必要になります。その結果、LDL受容体の働きを増やし、LDLコレステロールの取り込みが増えます。そして、血液中のLDLコレステロールが肝臓に取り込まれて、血液中にのLDLコレステロールが低下するというメカニズムになっています。

 

Q: アテロームとはどんなものですか?

A: 血管は血液を運ぶ管なのですが、水道管のようなものとはちょっと違います。コレステロールが血管の内側にたまって、血管が狭くなるというと、水道管に水垢がたまって通りが悪くなるような状態を想像するかもしれません。しかし、実際には、血管の内側には、内皮細胞という細胞が張り巡らされていて、その細胞のところどころに、血液中の異物を取り除いてくれる細胞もあります。その細胞が、血液中のLDLコレステロールを取り込んで、内皮細胞の下の層で太ってしまい、血管の内側に盛り上がるようになったものがアテロームです。このアテロームが大きくなって内皮細胞の膜を破ってしまうと、血栓といって、血液の塊ができて、場合によっては血管を詰まらせてしまいます。それが心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。

 

Q: アテロームは一度できてしまっても小さくなるのですか?

A: アテロームの中に入ったコレステロールは、HDLコレステロールが取り除いて肝臓に運んでくれます。HDLコレステロールが多ければ、アテロームの中のLDLコレステロールは肝臓に運ばれるので、アテロームは小さくなります。HDLコレステロールが「善玉」と呼ばれる所以です。

 

Q: 血管年齢を調べる検査を受けたら100歳という結果が出てしまいました。まだ70代です。どのように考えたらいいのでしょうか?また、血管年齢を若くすることはできるのでしょうか?

A: 血管年齢の検査で調べていることは、動脈の中を流れる血液の流速と、左右の血圧の差です。それが血管の硬さや、血管のつまりを間接的に示すことから、動脈硬化の指標のひとつとして検査されます。年齢とともに動脈硬化は進んできますので、血液の流速は年齢とともに速くなります。検査の結果を流速で表してもあまりぴんとこないので、年齢の平均値と対比させて、血管年齢として表示することが一般的になっています。平均値といっても幅はありますので、その検査で算出された血管年齢を気にすることはないと思います。多少動脈硬化はあるという目安だと思ってください。また、検査を繰り返してもあまり変化はないかもしれません。検査するのは腕や足の血管ですから、それらの動脈硬化の程度と、心臓や脳の血管の動脈硬化が必ずしも並行するとは限りませんので、あくまでも目安と思ったほうがいいと思います。

 

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