ヘルパー養成研修”難病の基礎知識II”

2010年12月9日(木)、埼玉県朝霞保健所で、ヘルパー養成研修”難病の基礎知識II”の講義をいたしました。介護の仕事をされている皆さんが50名も参加され、熱心に講義を聴いて行かれました。
難病の中から、膠原病の関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、そして、神経難病であるパーキンソン病について、症状、治療の概要と、それらの患者さんの日常生活における注意点などを解説いたしました。
以下の書物、サイトを参考にいたしました。
ヘルパーの皆様、日々の介護のお仕事お疲れ様です。講演の際にちょっとお話しした患者さんのように、回復に10年以上かかる人もいます。決してあきらめずに、希望を持って地道な努力を続けることが大事なのです。そのサポートを皆さんはしているわけです。もしかしたら、その患者さんが回復する頃には、皆さんはもう他の事業所に移っていたり、担当が変わっていたり、ということはあるかもしれません。そのくらい時間はかかるかもしれません。だからこそ、患者さんが希望を持てるような関わりを皆さんにはお願いしたいと思います。
今回お話ししたような、いわゆる難病のの患者さんを担当されることはそれほど多くはないと思いますが、今回の講演がお役に立てましたら幸いです。


・難病の基礎知識U ホームヘルパー養成研修

・朝霞保健所 2010129日(木)

研修会でお話しした内容のダイジェスト版です。講演のときは図表や動画を使ってお話しいたしましたが、著作権の問題もありますので、ここでは掲載いたしません。あしからずご了承ください。図表としては、主に、最後にお示しした参考文献の図表を用いました。)

 

難病患者さんの介護の特徴
年齢が若い、長期にわたる
感覚、運動障害を伴うこともある
身体面、精神面、両面からアプローチが必要(医療、介護、看護に対する不信も)
疾患に特有の介護が必要な場合も多い
疾患の理解、介護者同士の連携が不可欠

難病患者さんの心理的援助
長期に及ぶ難治性疾患であることに対する理解
指導的助言より患者さんへの敬意を表す
傾聴、共感
信頼関係
状態の観察
守秘義務

難病130疾患のうち膠原病に含まれる病気
関節リウマチ、悪性関節リウマチ
全身性エリテマトーデス
強皮症
多発性筋炎・皮膚筋炎
シェーグレン症候群
混合性結合組織病
抗リン脂質抗体症候群
血管炎症候群(高安病、結節性多発動脈炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、側頭動脈炎)
成人スティル病、ベーチェット病、
など

膠原病に共通する症状の特徴
発熱、関節痛、筋肉痛、こわばり、倦怠感など
関節変形(関節リウマチの場合)
レイノー現象(指先などが寒冷刺激に対して敏感に反応し、血流が低下し、指先が冷たく真っ白になる)
乾燥症状(シェーグレン症候群の場合)

関節リウマチの症状
脱力感、微熱、全身の痛み、こわばり
関節症状:朝のこわばり、複数の関節が腫れる、痛む、動きが悪くなる、変形
皮膚にしこりや潰瘍。手・足のしびれ
血管に炎症が生じ、内臓の障害(皮膚潰瘍、神経障害など)がみられる場合に、「悪性関節リウマチ」(特定疾患)と呼ばれることがあります。

関節リウマチの治療
10数年前までは、痛みに対して痛み止めを使い、それでも抑えられなければ抗リウマチ薬やステロイドを使い、さらに手術も検討する、という考え方でした。
しかし、最近では、大変よい抗リウマチ薬ができ、診断がついたら早期に抗リウマチ薬を使うという考え方に変わってきました。

関節リウマチ治療の3つの柱
薬物治療、手術、リハビリの3つの柱が大事です。そして、その3つの柱を下から支える「サポート」が欠かせません。在宅の患者さんにおいては、ヘルパーの皆さんにはサポート役の一翼を担って頂きたいと思います。

強皮症の症状
レイノー現象
皮膚が硬くなると手指がこわばる、つっぱる感じ、しわが少なくなる、関節を曲げたり伸ばしたりすることが困難、口を大きく開けられない、指先が短くなる、潰瘍ができやすい、皮膚の色が黒ずんだり白くぬけてくるなどの症状
食道病変:げっぷや胸やけがするなど
肺病変:せき、息切れなど
腎臓病変:高血圧

強皮症の治療
皮膚硬化に対して;Dペニシラミン、コルヒチン、ステロイドなど
皮膚潰瘍、指先の壊疽に対して:血管拡張薬、抗血小板薬、手術
腎臓や肺の病変に対して:プロスタグランジン製剤、ボセンタンなど

全身性エリテマトーデスの症状
発熱、だるい、体重が減る、関節が痛む、リンパ節が腫れる、レイノー現象など
皮膚症状:顔に蝶形の紅斑がでる、指、手のひら、耳、前胸部、足の裏などに紅斑がでる、日光過敏、脱毛、口の中に潰瘍ができやすい
尿に蛋白や血尿がでてむくむ
てんかん様のけいれん、精神症状

全身性エリテマトーデスの治療
皮膚症状に対して:軟膏、クリームなど
全身的治療:ステロイド、免疫抑制剤、血漿交換療法など
薬の副作用対策:胃粘膜保護薬、カルシウム、ビタミンDなど

ステロイドについて
膠原病の治療によく用いられる
炎症を抑え、免疫異常を正す効果がある
減量すると再発することがある
副作用の問題:ムーンフェイス、肥満、骨粗鬆症、血糖値上昇、感染、皮膚の脆弱化など

膠原病の経過
「寛解」と「増悪」を繰り返すことがある
患者さんの気持ちも前向きになれるときと落ち込んでしまうときがある
社会復帰を果たしても制限があったり、なかなか社会復帰できないストレスを抱えていたりする
自宅療養を余儀なくされるケースもある


パーキンソン病とは
振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害の四つの症状を主徴とする運動障害を来す脳の病気
大脳基底核の神経伝達物質であるドパミンの不足が原因
パーキンソン病と、パーキンソン病と同じような症状を来すパーキンソン症候群とがある

パーキンソン病の症状
振戦ーふるえ
筋強剛ー筋肉が硬くなる
無動ー動きが鈍い
姿勢反射障害ーバランスが悪くなる

 

ヤールの重症度分類
ステージ1:症状が一側のみ
ステージ2:症状が両側
ステージ3:姿勢反射障害が見られる(倒れやすくなる)
ステージ4:歩行は介助なしである程度はできる
ステージ5:介助なしには歩けない

 パーキンソン病の非運動症状
便秘
頻尿
起立性低血圧
不眠
過眠
においの障害
うつ状態
認知症
しびれ、痛み
体重減少

進んだときにみられる症状
嚥下障害
姿勢の異常、腰曲がり
ジストニア (足の筋肉が硬くなる)

転倒しやすいのは
歩き始め
方向転換、向きを変えるとき
椅子に座るとき

すくみ足とは
合図があるととれることがある
線があるとまたぐことができる

パーキンソン病の治療
エルドパ:ドパ脱炭酸酵素阻害薬との合剤、メネシット、ネオドパストン、イーシードパール、ネオドパゾール、マドパーなど
ドパミンアゴニスト:ドパミン受容体刺激薬、パーロデル、ペルマックス、カバサール、ドーミン、ビ・シフロール、レキップ
コムド阻害薬:コムタン
マオB阻害薬:エフピー
その他:アマンタジン(ジスキネジアに)、ドロキシドパ(すくみ足に)

治療中におきてくる問題
ウェアリング・オフ(エルドパ  の効果が短くなる)
ジスキネジア(体がくねくね動く)
幻覚
衝動コントロール障害
むくみ


膠原病患者さんの在宅介護における留意点
家族以外の理解者の一人であること
患者さんのプライドを尊重
明るい介護、コミュニケーション
栄養バランス
疼痛を考えた介護
関節などの保護を考えた介護
褥瘡の予防
疼痛に対する理解

関節リウマチの場合
朝のこわばり
朝は特に痛みも強く、介護の必要性が高い

手関節、指関節の痛みのために困ること
物を握る、つまむ
顔を洗う、歯を磨く、髪をとかす
ズボンをはく、靴下をはく、ボタンをはめる
箸を使う、ふたを開ける
字を書く
お金を受け取る
疼痛に対する理解

肩関節痛のために困ること
服を着る
ベッドから起き上がる
手を延ばして物を取る
排便後のあと

肘関節痛のために困ること
洗面、歯磨き
洗髪
飲食

股関節痛のために困ること
ベッドから起き上がる
歩行
着替え、靴下

膝関節痛のために困ること
立ち上がり
歩行
床にある物を拾い上げる
用便
疼痛に対する理解

股関節痛のために困ること
立ち上がり
床にある物を拾い上げる
車いすへの移乗
寝返り

足関節痛のために困ること
立ち上がり
歩行

強皮症の場合
指先の潰瘍の痛み
レイノー現象の痛み

レイノー現象
寒冷刺激、精神的ストレスなどが誘因となり、四肢末梢の血管が収縮し、血行不良となる
痛みを伴い、四肢末梢は白色、紫色になる
暖めることで回復
足浴、手浴:入浴剤は有効、終わったらよく拭いて乾かす

乾燥症状
シェーグレン症候群の特徴
目の乾燥:涙液の分泌低下による、角膜に傷ができ、視力の低下につながることもある
口の乾燥:常に水分が必要、食事の工夫も必要、虫歯の原因となる
それにともなう慢性的なイライラ感

感染
免疫異常に伴い、感染症にかかりやすい
使用しているステロイドや免疫抑制剤により感染症にかかりやすい
うがい、手洗い
怪しいと思ったら早目の受診を促す

じょくそう、皮膚潰瘍
関節リウマチ患者さんでは、足や腸骨部などにもできやすい
強皮症患者さんでは指先の潰瘍ができやすく、じょくそうと同様の注意が必要
体位交換に伴う痛みに注意

服薬
薬の数が多いケースが多い
“たくさんの薬”を飲んでいることに対して患者さんは何とかしたいと思っている
副作用の不安を常に抱えている

日常生活の工夫
安静のとり方
薄い布団を使いマットレスや高い枕は使わない
ベッドは硬いものを
頭を床におしつけ、背筋が伸びた状態を5分間続け、その後は楽な姿勢で休む
仕事の合間の休息
椅子で休むときは両足底が床につき、背筋がまっすぐに伸びる椅子を使う
柔らかいソファ−はよくない

リウマチ体操
関節痛を和らげ、筋肉を強くするために
普通、一日2〜3回、特に温浴のあとで行うと効果的です。運動のあと、痛みが増しても、1〜2時間で元に戻るようなら続けても構いません。ご自分の症状を調べながら適度に行うようにして下さい。

痛みに対する考え方
よくある質問
温めた方がいいいのですか?冷やした方がいいのですか?
動かした方がいいのですか?動かさない方がいいのですか?
基本的な考え方
炎症の強い時期(腫れ、熱感がある)は動かさない。痛みに対して冷やすのはよい。温めない方がよい。
炎症が軽くなってきたら温、冷どちらでもよい。他動的に動かす。痛みが残るようならやりすぎ。
炎症がなくなったら(痛みは軽くなっている)自動的に動かす。リウマチ体操を積極的に行う。

リウマチの関節保護
一日10〜12時間の休養、昼寝を含む
努力しすぎない
同じ姿勢を長く続けない
以下の場合は運動量過多。翌日は少なめに
運動中、作業中に痛みがでる、
運動中、作業中に痛みが増す、
運動後、作業後に痛みが1時間以上続く
変形を増長させるような方法、肢位をとらない
毎日適切な運動
1日2回最大可動域まで動かす
自助具の使用

関節リウマチ患者さんの日常生活の工夫、住環境の工夫など参考文献の図を提示して解説しました

強皮症患者さんの日常生活
皮膚硬化の起きているところに傷ができると治りにくい
皮膚を清潔にし、傷をつけないようにする
レイノー現象に対して・寒冷を避け、保温を
感染の予防
マスク、手洗い
食事の工夫
塩分制限、消化のよいものを

全身性エリテマトーデス患者さんの日常生活
安静、休息、睡眠
保清、保温
食事
避けること:糖分、脂肪分のとりすぎ
よいこと:カルシウム、緑黄色野菜
服薬
ステロイド
感染予防
手洗い、うがい、予防接種

パーキンソン病患者さんの日常生活
便秘対策
 水分を多めに、果物・野菜・食物繊維を
適度な運動
便秘薬で調節、時には浣腸も
起立性低血圧:血圧を測定、ゆっくり起立

睡眠障害対策
睡眠と動きは関連あり
夕方以降のお茶、コーヒーは避ける
あまり早く床につかない

過眠
パーキンソン病の薬の副作用のことあり

パーキンソン病患者さんの日常生活
うつ状態
食欲低下、不眠、早朝覚醒、集中力低下、自分をだめだと思う、不安になる、イライラする、やる気が出ない
認知症
幻覚、妄想(レビー小体型認知症)

 

嚥下障害
食事の時の姿勢はまっすぐに、あごを引いて、とろみをつけるなど工夫を
痰がらみが実は嚥下障害のサインであることも

 

嚥下について
食べ物も空気も喉の奥を通り、食べ物は食道へ、空気は気管に入っていきます。気管に食べ物が間違って入ってしまうと、咳反射がおきます。つまり、むせこみです。気管の入り口には喉頭蓋という、気管の入り口の蓋があり、食べ物を飲み込むときはそれが閉じて、間違って気管に入らないようにしています。そして、食べ物を飲み込み終わると喉頭蓋は開いて空気が気管に入るようになります。この、のどの飲み込みの運動と喉頭蓋の動きがきちんと同期するには脳や神経がきちんと働いていることが必要です。脳梗塞やパーキンソン病では、これらの一連の動きに障害が生じ、嚥下がうまくいかないために誤嚥が生じてしまうのです。とろみをつけたりして飲み込みがスムースに行くように工夫する必要があります。

喀痰吸引について
吸引チューブの挿入は気管分岐部まで。気管の長さは11cmです。
チューブを入れるときは吸引を止める
チューブを動かしながら吸引し引き上げる
吸引できないときは吸引圧を上げるのではなく加湿を
咳をしているときは吸引チューブを入れない

パーキンソン病患者さんで注意したいこと
転倒→骨折
歩き始め、方向転換、椅子に座るとき
誤嚥→肺炎
廃用症候群
精神錯乱
腸閉塞

パーキンソン病患者さんの住環境
手すりをつけましょう 
風呂には滑り止めマットを
コード類はまとめましょう(床にコード類がちらかっていると足を引っかけて転倒の原因となります)
ベッドを利用しましょう
足下灯をつけましょう
音楽のある生活を:リズムがあると動きがスムースになることがあります


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