“関節リウマチの治療をよりよくするために”

平成26427日(日)

埼玉県リウマチ友の会医療講演会

安藤医院 安藤聡一郎

関節リウマチ治療の進歩

近年、関節リウマチの治療は大変よくなりました。ちょっと前まで(私がリウマチ診療を習い始めた頃)は、治療薬といえば、注射金剤、Dペニシラミン、リマチル、サラゾピリン、カルフェニールなどでした。これらの薬も決して効かない薬ではなく、効く人もいましたが、効かない人も多く、これらの薬をどう組み合わせて効果を引き出すかといったことが専門医の仕事の一部でした。しかし、最近ではメトトレキサート、プログラフ、ブレディニン、生物学的製剤など、非常に有効性の高い、つまり、効かない人は少なく、効けばかなりよくなる、という薬が増えました。

そのような治療薬の進歩により、以前より、疾患活動性の高い(痛みや腫れがつよい)患者さんの割合もずいぶん減ってきました。(東京女子医大のグループの統計がわかりやすいと思います。こちらのリンクをご参照ください。)

本日の講演内容

今日は、いろいろな患者さんがいらしています。そのような新しい治療を受けている方もそうでない方もいらっしゃいますので、どなたにも共通するお話しとして、今皆さんが受けていらっしゃる関節リウマチの治療をもうちょっとよくする工夫、といった視点でお話しさせて頂こうと思います。

3人の架空の患者さんについて、考えていくというスタイルでお話しします。3人の患者さんはいずれも薬がよく効いています。でもちょっと気になるところがあって、そこをもうちょっと変えてみたらもうちょっと、あるいは、もっとよくなるかもしれない,というお話しです。

下線を引いた部分に注目してください。

 

Aさん

48歳、男性

2年前から手首、指関節、肘関節の痛みが現れ、関節リウマチと診断された。

メトトレキサート、アザルフィジン、ロキソニンを投与中。治療の効果があり、仕事は何とかこなしている。最近血圧も高めになってきたため会社の診療所で降圧剤が開始された。

職業:コンピューターシステムエンジニア、時間が不規則

嗜好:寝る前にビール2をほぼ毎日。タバコ120

 

 

タバコについて

ž   タバコを吸っていると関節リウマチになるリスクが約2倍に

ž   関節リウマチの発病と関連の深い抗CCP抗体の産生にタバコが関与

ž   「無煙タバコ」ではそのような傾向は見られない=ニコチンが原因ではなく、タバコに含まれるそのほかの物質が関与しているらしい。

 

睡眠

ž   長さより、質の良い睡眠を

ž   夕方以降は、お茶、コーヒーは飲まないように

*         カフェインのために寝付きが悪くなったり眠りが浅くなったりします

ž   入浴時間の工夫

*         体温が上がって、下がってきたときに眠気が来ます

ž   スマホ、パソコンの画面などは遅くまで見ないように

ž   昼寝は、午後3時前の30分以内で

*         このくらいの昼寝なら夜の睡眠には影響しないと言われています

 

メソトレキサートについて

ž   商品名:リウマトレックス、メトトレキサート、メトレートなど

ž   葉酸(細胞分裂の際に必要なビタミンの補酵素)の働きを抑えて細胞分裂を抑える

ž   もとは抗がん剤として使用されていた薬

ž   リウマチの関節滑膜増殖を抑え、かつ副作用は出にくい使い方が週1回の投与

ž   1回、約12時間ごとに飲む

ž   細胞分裂の周期は約12時間、それに合わせて投与するのがよい

 

アルコールについて

ž   関節リウマチに対して、関節の腫れが強くなる可能性があり、飲み過ぎには注意

ž   Aさんの場合、血圧も高めなので、適量は一日1合まで

ž   アルコールはメトトレキサートの副作用である肝障害を起こしやすくする危険性があります。できるだけ控えましょう。

 

嗜好品について

ž   リウマチと生活習慣との関連の調査では、確実に影響があるのはタバコ。

ž   コーヒーも関連が疑われた時期もありましたがその後の研究によって関連はないだろうとされた

ž   お茶は体によい

ž   風邪、インフルエンザの症状緩和、リウマチにもよいだろうと考えられています

ž   緑茶によってIL-1の分泌抑制、炎症細胞による進展を抑制

ž   そのほか、がん、脳、心臓などにもよい。ただし、カフェインも含まれるので要注意。

 

デスクワークに際して

ž   ずっと座っているのも,ずっと立っているのもよくない。

ž   デスクワークなら30分ごとに立ち上がって休憩を。

ž   コンピューターを快適に使うために

ž   モニターから5065センチ体を離すように。モニターの上が目の上の高さになるように。腕が体に近い無理のない位置に。

ž   椅子の高さ

²  足の裏が着く、大腿部は水平

ž   キーボードの高さ

²  肘が直角、前腕が水平

ž   ディスプレイの高さ

²  上端が目の高さ。

ž   キーボード、マウスの工夫

²  指の痛みや変形に応じたタイピング

²  様々なキーボード、マウスがあるので試してみる とよいでしょう

ž   腰の安定

²  クッション

ž   首への負担を避ける

²  パソコンのモニターに書類をつける、ハンズフリーのヘッドセットを使うなどして首が痛くならないように

ž   パームレストをキーボードの手前に。

 

気分転換

ž   外に出かけよう:気分転換にもなるし、エネルギー消費もなります

ž   思い切って:エアロビクス、スイミング、水中エクササイズなどを

ž   ハイキングを

*         週に一度はお気に入りの場所で歩いては

ž   運動前にはウォームアップを

*         プールでも遊歩道でもウォームアップを

*         少なくとも5分はかけて

ž   靴は見た目より機能性を

ž   ソールがつま先を保護し、支持するものを

ž   クッションのよいものを

ž   土踏まずのアーチを保護するもの

ž   体をセルフチェック

*         運動後の体調を記録しておきましょう

*         運動後も痛みが続くときは要注意

*         次からの運動量の参考に

 

ストレッチ

ž   運動に限らず、毎日の生活の中でストレッチを

ž   ヨガ、太極拳のようなゆっくりした運動は心と体の連携をよくします

ž   犬の散歩を:ペットはメンタル面でもよい効果がありますし、運動を続けるためにもよいと考えられます。

 

薬の相互作用

ž   複数の医療機関から薬をもらっている場合

ž   必ず飲んでいる薬を医師に見せること。薬の変更があればその都度見せる。

ž   調剤薬局は一つに統一するとよい

ž   痛み止めの重複で胃腸障害、腎機能障害がおこりやすくなる

ž   薬局の市販薬との併用も注意

ž   痛み止めと利尿剤と降圧剤の一部の併用は腎機能障害の原因にも

 

Bさん

62歳、女性

5年前から膝、手首、指の関節が痛くなり、関節リウマチと診断された。プログラフ、プレドニン、セレコックスなどにより関節の腫れは引いている。膝の痛みはまだ残っており、とくに立ち上がるときの痛みが強い。医師からは生物学的製剤を勧められている。最近、歯肉の痛みを感じている。

職業:主婦、農家

食事の好み:肉が好き

やや太り気味

 

体重について

ž   歩行時には体重の3倍の力が膝にかかる

ž   階段昇降時には膝蓋大腿関節には平地の時の7倍の力がかかる

ž   体重が5kg減ると膝の変形性関節症になるリスクが50%減るという研究結果も。

ž   体重のコントロールのためには適量の食事と運動が大切

ž   肉魚は手のひらサイズ、野菜は両手に乗るくらい、果物は両手の親指と人差し指で作る輪に入るくらい

ž   テレビは切ろう:じっと座ってテレビを観ていると代謝も悪くなります。

 

運動について

ž   運動によって関節リウマチの症状が和らぎ、日常の生活機能が向上するといわれています

ž   運動を始める前に主治医に相談を

  柔軟性、関節可動域、有酸素運動、筋力強化など、どの程度行ってよいか確認

ž   足に負担をかけないように

  足踏みのエクササイズは関節によくない。自転車、水泳などがよい。

ž   運動後は風呂に入る

  体を温め、筋肉痛をやわらげ、関節の動きをよくします。運動後の入浴は大切。

ž   記録をとりましょう

  運動の記録をとることは楽しくもあり、治療のためにも有益です。心配事、気分、ストレスを記載することで総合的にみることができるようになります。

ž   マッサージを

  筋肉の緊張をとり,疲れをやわらげます。

 

2分間エクササイズ

ž   関節可動域を意識して

ž   頭頚部:頭を回したり傾けたり

ž   肩:肩の上下運動、肩回し

ž   腕、肘:曲げ伸ばし

ž   指:曲げ伸ばし、横にも開いて閉じて

ž   股、膝、足関節:椅子に座って足伸ばし

ž   太ももの裏側、ふくらはぎ:椅子に座って伸ばす

ž   つま先、足首:座ったままストレッチ

 

関節保護

ž   膝の保護

ž   サポーターを

ž   伸び縮みする包帯でもよい

ž   手首の保護

ž   サポーターやリストバンドを

ž   肩の保護

ž   重いものを持ち上げるときは腕を体につけるようにして

 

関節リウマチによい食べ物?

ž   食べ物で症状を和らげることはできるのか 、多くの研究があります

ž   野菜と魚を中心に

ž   低脂肪乳製品と蛋白源として脂身の少ないものを。

ž   魚をとりましょう。

ž   エクストラバージンオリーブオイルは炎症を起こす酵素の働きを抑えるとされている

ž   しかし、実験結果に基づくと、スプーン3.5杯のオリーブオイルが必要で、それは400キロカロリーもある。

ž   食物繊維とフルーツをとりましょう

ž   炎症を軽減。CRPが下がるという報告も。

ž   強い骨を作ろう:カルシウムを多く摂りましょう。牛乳、ヨーグルト、小魚、豆腐、納豆、カルシウムサプリメントも

 

炎症を悪化させる食べ物?

ž   糖:サイトカインの分泌を促進し,炎症を促進するというデータもある

ž   飽和脂肪酸(動物性脂肪):心疾患、炎症に悪影響。ピザ、チーズには多い。バター、洋菓子も。

ž   トランス脂肪酸:フライ、スナック菓子、クッキー、ドーナツ、マーガリン。

ž   ω6脂肪酸:アラキドン酸、リノール酸。ω3脂肪酸とのバランスでω6脂肪酸が多くなると炎症が進む。コーン、サフラワー、ヒマワリ油、グレープシードオイル、ピーナツ、植物オイル、ドレッシングなどに

ž   ハンバーガー、チキン、などの肉は血液中のAGE(advanced glycation end product) 量を増やす。炎症性疾患の患者さんの血液ではAGEが高い

ž   MSG(モノソディウムグルタメイト):ファーストフード、インスタントスープなどにフレーバーとして入っている。慢性炎症の経路を刺激。

ž   アルコール:大量摂取で肝障害、炎症の要因。

 

食べ物について まとめ

ž   いろいろなデータがあり、ある食材が絶対によいとか絶対に悪い,ということは言えない

ž   あまり考えすぎると食べるものがなくなる

ž   要は、野菜と魚を多め、と意識してバランスよく、いろいろなものを食べるように

 

転倒予防

ž   室内で転倒することが多い

ž   滑りやすい床、足元の障害物(おもちゃ、コードなど)、バランスを失うなどが原因

ž   高齢者では筋力も低下、関節の柔軟性も低下、姿勢の変化も影響

ž   飲んでいる薬がふらつきの原因となることも

ž   睡眠導入剤、安定剤など注意

ž   転倒予防法

ž   靴の中でつま先が広がるようなものを履く。軽く青竹踏み、足浴で足趾の体操を。

ž   ベッドから起きる前にストレッチを(ゆっくり)

ž   適度な運動を毎日

ž   薬について,主治医、薬剤師と相談

ž   視力にも注意、白内障手術も考慮

ž   室内の照明、緩いカーペット、滑りやすい床に注意

 

歯周病とリウマチ

ž   リウマチ患者さんには歯周病が多い

ž   歯周病がある人の方がリウマチの発症率が高い

ž   歯周病菌が関節リウマチの進行に関与?

ž   ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤を使うなら歯のケアを

ž   歯磨き、定期的な歯のクリーニング

 

Cさん

58歳、女性

5年前から手首、指の腫れ、痛みが現れ、関節リウマチと診断された。現在、メトトレキサート、エンブレル注射によって落ち着いている。

インターネットで調べたサプリメントなどをよく飲んでいる。旅行、グルメが趣味。

旅行や食事会の幹事役を頼まれることが多い

 

サプリメントについて

ž   ヒアルロン酸、グルコサミン、コンドロイチンなどは、口から飲んでも胃で消化されてしまうし、吸収されるとは限らない。

ž   ビタミンDはリウマチのリスクを減らすともいわれている。転倒予防効果もある。

ž   カルシウムはよいが、とりすぎには注意。特に活性型ビタミンD製剤を使っている場合。

ž   葉酸のとりすぎはメトトレキサートの効果を弱めることもあるので注意

 

薬の保管

ž   湿気、日光、高温によって薬の成分の分解が起こりうる。

ž   分解されたからといって毒になるわけではないが、効果が落ちてしまうことも

ž   風呂場に保管、はもってのほか。高温と湿気は避ける。

ž   子供の手が届かないように。

ž   直射日光が当たらないように。

ž   毎日使う棚に置くように

ž   箱に入れてしまうと見えないので忘れる原因となる。

ž   温度について

ž   メーカーは,通常、2025を推奨。1430は許容範囲

ž   錠剤はシートから出さないように保管。特にOD錠は注意。

ž   薬がたまってしまったら、古い順に飲むように

ž   時々、余った薬は処方日数を合わせてもらう

ž   この薬は日分余ってます

ž   冷所保存の薬剤は必ず冷蔵庫に。

ž   特に、生物学的製剤は熱で分解されやすい。冷蔵庫で保管を

ž   エンブレルの場合、室温では有効期限は7日以内。

ž   駐車している車に置きっぱなし、はダメ

ž   車で買い物のついでに薬局に寄るのであれば薬局は最後に寄る。

 

飲み忘れ予防

ž   飲んだらチェック。飲んだら次の薬を出しておく

ž   1回の薬は携帯電話のカレンダー、アラームを利用。スマホアプリもある。

ž   メトトレキサートを飲み損ねた場合

ž   一日ずれるくらいは大丈夫、次の週には元の曜日に戻してよい

ž   フォリアミンを飲む間隔は変えない

ž   フォリアミン

ž   副作用の予防薬なので一回飲み損ねたくらいでは大きな問題はないので慌てない

 

旅行などの場合

ž   飛行機で旅行の時

ž   薬は機内持ち込み手荷物に。

ž   預ける荷物の方に入れてしまうと、荷物が届かない場合もあるし、温度調節されていないところに置かれてしまう。

ž   保冷バッグなどを用意

ž   時差がある場合、短期間なら日本時間に合わせて飲めばよい

 

食べ物と薬

ž   乳製品

ž   鉄剤、抗生物質、特にキノロン系、サイクリン系の薬、甲状腺ホルモン、ペニシラミン、DMARDの効果を抑えてしまう

ž   りんご、オレンジ、グレープフルーツ

ž   MTX、シクロスポリン、βブロッカー、抗がん剤、アレンドロネート、アレグラ、キノロンなどの作用を減弱させる

ž   グレープフルーツで降圧剤のカルシウム拮抗薬の作用が増強される

ž   グレープフルーツの影響は数日残ると言われている

ž   コーヒー

ž   フォサマック、ペニシリンの効果を減弱させる

ž   薬を飲んでから3-4時間経てばよい

ž   まったく効果がなくなったり、効果が何倍にもなるわけではないので、あまり神経質になりすぎることもない

 

痛くない注射法?

ž   皮膚をしっかりつまみ上げて

ž   垂直に刺す。

ž   皮下脂肪の深さに

 

心のセルフケア

ž   自分だけの趣味、自分だけの時間を持ちましょう

ž   病は気からというけれど・・・イメージすることは大切

ž   痛み、思い通りにならないイライラなどありますが、まずは気持ちをリラックスさせる時間を持ちましょう

ž   深呼吸、音楽鑑賞、瞑想、ヨガなど

ž   510分間、朝と寝る前に

ž   セルフケアの データ

ž   一日45分間、週6日の瞑想を6か月続けると、精神的な苦しみは3分の1に減った,という報告も

ž   慢性疼痛の患者さんに,一日30分の瞑想を2年以上続けると,通院回数が36%減った、という報告も

ž   “瞑想”とは

ž   時間を計ったりしないで、じっと自分の呼吸に耳を傾け、落ち着く言葉を繰り返す

 

まとめ

ž   関節リウマチの薬物治療は飛躍的に進歩しています

ž   薬にばかり頼るのではなく、日常生活の中で、様々な工夫によって症状はさらに和らげることができます

ž   患者さんどうしの情報交換も大切に

ž   疑問があれば主治医に相談を


<質疑応答>

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