第31回健康講座 内臓脂肪とメタボリックシンドローム

内臓脂肪、という言葉を最近よく耳にするようになりました。どうやら皮下脂肪とはちょっと違うみたいです。実は、この内臓脂肪、からだの中でいろいろな問題を起こしているらしいということがわかってきたのです。そして、その問題は、メタボリックシンドロームという病名がつくほどの問題でもあるのです。

今日は、動脈硬化とも関連が深く、また、高血圧、糖尿病、高脂血症などの根底に潜んでいる場合も多い、メタボリックシンドロームについてお話ししたいと思います。

まずはじめに、現在の日本人の死亡原因をみたいと思います。死亡原因の第一位はがんですが、第二位は心疾患、第三位は脳血管疾患です。この心疾患と脳血管疾患は、まとめて心血管系疾患と呼ばれ、ともに動脈硬化が原因と考えられています。つまり、30%の人は動脈硬化が原因でなくなっているということになります。また、寝たきりになってしまう原因としても重要で、寝たきりの35%は脳血管疾患が原因です。これもまた動脈硬化と関連が深いものです。つまり、動脈硬化は命に関わる病気でもあり、生活を大きく変えてしまう病気でもあるのです。

そして、動脈硬化の原因として代表的なのが、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などです。そして、さらに、今日のテーマである、メタボリックシンドロームが挙げられるのです。

では、メタボリックシンドロームがどうして注目されるようになったかをお話ししましょう。高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などは、動脈硬化の原因であり、危険因子、とも呼ばれます。この、危険因子は、人によっては一つだけ持っていたり、複数持っていたりします。複数持っている人の方が動脈硬化はより起こりやすくなります。危険因子がない場合の動脈硬化を起こす危険性を1.00とすると、危険因子が1つの場合、その危険性は5.14、2つの場合5.76ですが、3つ以上の場合となると35.8にも増えてしまうのです。この危険因子には年齢も含まれていますので、65歳以上の人は、それだけで危険因子を一つ持っていることになります。

そこで、危険因子が多い人、というのはどんな特徴があるのかということが詳しく調べられました。するとある事実が明らかになりました。それは、内臓脂肪の多い人に、危険因子を複数持つ人が多いということがわかったのです。そして、さらに調べた結果、脂肪細胞は、アディポネクチンという物質を分泌していて、それが動脈硬化を予防している。そして、内臓脂肪が多いと、そのアディポネクチンの分泌が障害されるということがわかりました。また、ちょっと難しい話ですが、内臓脂肪が多いと、からだの中のインスリンに対する反応も悪くなる、ということがわかってきました。そして、もともと高血圧、高脂血症、糖尿病などの遺伝的素因を持っていて、内臓脂肪が蓄積すると、それらが発病し、動脈硬化が起こる、と考えられています。

では、内臓脂肪と皮下脂肪はどう違うのでしょうか。

まず、内臓脂肪が蓄積すると、リンゴ型の肥満皮下脂肪が蓄積すると洋なし型の肥満となります。また、内臓脂肪はたまりやすいが燃焼しやすい、皮下脂肪はたまりにくく燃焼しにくい、ともいわれています。

内臓脂肪の蓄積が起こるのはどんな場合かというと、まずは食事の内容で、カロリー、脂肪などのとりすぎの場合、運動不足、アルコールの飲み過ぎ、喫煙、ストレス、閉経、加齢などと考えられています。

内臓脂肪が蓄積した状態で、いくつかの動脈硬化の危険因子を持ってる場合をメタボリックシンドロームと呼びます。その診断基準は次のようなものです。

<診断基準>

  • 必須事項
    • ウエスト周囲径
      • 男性85cm以上
      • 女性90cm以上
    • (軽く息をはいてへその高さで測定したものとされています)
  • 上記に加え以下のうち2項目以上
  1. 高トリグリセリド血症(150mg/dl以上)かつ、または 低HDL血症<40mg/dl
  2. 収縮期血圧130mmHg以上 かつ、または 拡張期血圧85mmHg以上
  3. 空腹時高血糖110/mg/dl以上

ウエストのはかり方にはポイントがあります。洋服を買うときのウエストサイズとはちょっと違います。へその高さで息を吐いて測る、のがコツです。男性で85cm以上、女性で90cm以上の場合、内臓脂肪蓄積があると考えられています。女性は、皮下脂肪がたまりやすいため5cm男性より長く設定されています。

ちょっと複雑になってきましたが、高血圧、高脂血症、糖尿病とメタボリックシンドロームの関係は次のようになります。

つまり、メタボリックシンドロームを持っていなくても高血圧、高脂血症、糖尿病になることはあるのですが、メタボリックシンドロームがあると、それらは起こりやすくなり、また、それらを複数持つことも多くなります。また、図には書き切れませんでしたが、メタボリックシンドロームと診断されるけれども、高血圧でも高脂血症でも糖尿病でもない、という状態もあり得ます。

さて、これからは治療の話です。先ほど述べましたように、内臓脂肪は蓄積しやすい反面、燃焼しやすい特徴もありますので、治療効果も出やすいといえます。

内臓脂肪がたまる原因は、先ほど述べたように、カロリー、脂肪などのとりすぎ、運動不足、アルコールの飲み過ぎ、喫煙、ストレス、閉経、加齢などですから、治療の中心は、食事、運動療法ということになります。


運動療法

理想的なのは、有酸素運動です。瞬発的な、息を止めて力を出すような運動は無酸素運動といわれますが、そのような運動ではなく、ジョギング、ウォーキング、サイクリング、スイミングなどの運動が理想的です。

毎日、30分のウォーキング、などと決めて行うことができれば理想的ですが、いきなり始めると長く続きません。まずは、今までしていなかった運動を普段の生活に少し加えるということから始めてみましょう。車を使っていたところは自転車にしたり、自転車で行っていたところへは歩いて行くようにするといったことがポイントです。万歩計ををつけるというのも一つの方法です。まず、普段どのくらい歩いているか万歩計で測ってみて、それを少しずつ増やしていくようにしましょう。


食事療法

食事療法のポイントは、規則正しい食事と、適正カロリーとバランスです。

規則正しい食事は、間食をしないようにするためにも大切ですし、夜遅くたくさん食べることは脂肪蓄積にもつながります。特に、ごはんは腹持ちもよく、低脂肪でもあり、主食としては理想的です。ただし、食べすぎてはいけません。

バランスについては、昨年厚生労働省と農林水産省が発表した食事バランスガイド(こちら)が参考になります。

これは、コマをかたどったもので、上から、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物の順になっており、バランスよく食べるようにする目安とします。これらのバランスが悪いと、食事のコマは倒れてしまうということです。

こちらのリンクでは、実際に皆さんの食事内容を入力するとバランスを診断してくれます。

それぞれの食材の量については、手を使った方法が参考になります。

この方法も参考にしてみて下さい。

これらによってウエストを少しでも減らすことができれば、内臓脂肪の悪い効果は少なくなり、動脈硬化が予防できます。体重よりも効果は現れやすいと思いますので、少しずつ進めていきましょう。

<まとめ>

<出席者の皆さんの声より>

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