第34回健康講座 インフルエンザについて
平成18年12月18日(月)
<本日の予定>
- インフルエンザとは
- 症状、合併症
- インフルエンザの予防
- インフルエンザの治療
- トリインフルエンザの発生状況、新型インフルエンザ発生の可能性など
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インフルエンザの特徴
- 普通の”かぜ”とはちょっと違います
- 普通の”かぜ”より感染力も強く、症状も重いことが特徴です
- インフルエンザウイルスが感染することによって起こる感染症です
- つまり、ヒトからヒトへうつっていく(感染する)病気です
- 突然の発熱で始まることが多く、普通の風邪よりも症状は重い
- 毎年冬に流行
- 年によっては大流行する
- 高齢者では肺炎を併発し、重症化することも多い
インフルエンザの症状
- 潜伏期間1〜2日
- 家族の中の誰かがかかると1〜2日後に別の家族が発病する、ということがよくあります
- 発熱、全身倦怠感、食欲低下、筋肉痛、関節痛などの全身症状があります
- くしゃみ、鼻水、咳、痰など呼吸器症状があります
- 顔面紅潮、結膜充血なども認めることがあります
- 合併症がなければ、5日くらいで軽快に向かいます
- 合併症があると治るまでに時間がかかります
- 肺炎、脳炎を合併することもあります
- 特に、高齢者では肺炎、小児では脳炎の合併に注意が必要です
インフルエンザの合併症
- 肺炎:
- 成人のインフルエンザの3〜25%に肺炎を合併するといわれています
- 高齢者では重篤になりやすい特徴があります
- したがって、予防が重要です
- 脳炎:
- 主に小児の合併症です
- 非常にまれですが、重篤な後遺症を残したり、致命的になる場合もあります
- 解熱剤との関連も指摘されています
年齢別罹病率と死亡率
- 罹病率(かかりやすさ)は小児に多いが、死亡率は高齢者ほど高いことがわかっています
そのようなインフルエンザを予防する方法について考えていきましょう
インフルエンザの予防には次のようなものが挙げられます
予防接種
- 平成13年より65歳以上には公費負担の制度ができました。任意接種です(ご本人の希望で)。
- 65歳以下の人は受けなくてもよい、という意味ではありません。できるだけ多くに人に受けていただきたいものです。
- ワクチンの効果1:発病予防の効果
- 65歳以下の成人での発病予防有効率80%といわれています
- 予防接種を受けずに発病した人たちがもし受けていれば80%の人が発病せずにすんだという意味
- ワクチンの効果2:高齢者の入院を減らす効果
- 高齢者の入院を減らす効果は50%とされています
- 予防接種を受けずにインフルエンザになって入院することになった人が1000人いたとすると、その人達が予防接種を受けていれば500人は入院しなくてすんだ、と考えられます
- ワクチンの効果3:高齢者の合併症による死亡を減らす効果
- 高齢者の合併症による死亡を減らす効果は、アメリカ、日本とも80%とされています
このようにワクチンには、発病を防ぎ、重症化を防ぐ効果があると考えられます。
脳炎・脳症の合併予防効果
- 1999年1月から3月のインフルエンザシーズンに厚生省が全国集計した、インフルエンザの臨床経過中に認められた脳炎・脳症の症例は、0歳から60歳までで217例。
- このうちインフルエンザワクチンを受けていた人は一人もいなかったとされています。
インフルエンザ予防接種はいつ頃うつのがよいでしょうか?
ワクチンの接種時期
- ワクチンの効果が出るのは2週間後から
- ワクチンの効果は3〜6ヶ月間持続
- インフルエンザの流行は1月〜4月
- ワクチンは11月中、遅くても年内にうっておくのがよい
ワクチンの効果をまとめますと次のようになります
- 発病予防効果は100%ではないが、十分な効果がある
- 肺炎、脳炎などの合併症を予防する効果もある
- 接種は11月から12月中旬がよい。
そんな効果の高いワクチンですが、薬である以上多少の副作用はあります。ワクチンの場合は”副反応”といいます。
ワクチンの副反応
- 接種局所の発赤、疼痛、発熱などの全身症状が起こることがあります
- 約11%の人に起こるといわれています
- 多くは2〜3日で自然に軽快します
- 卵による重症なアレルギー反応を起こす人は接種を控えた方がよい、とされています
毎年接種することが望ましい
- ウイルスの型が、年によって異なる可能性があるので毎年受けた方がよい
- 毎年受けている人の方が、罹患率、死亡率ともに低下するというデータがあります
- 毎年受けていて、途中で中断した場合は効果は低下しますが、再度受け始めることによって効果は戻ります
インフルエンザウイルスの型について
- A型とB型があります
- A型には、ウイルスの表面に2種類の蛋白質があります
- ヘマグルチニン(Hと略します)とノイラミニデス(Nと略します)
- HはH1, H2, H3の3種類
- NはN1, N2の2種類
- A型インフルエンザウイルスはHとNによって分類される
たとえばH3N2型インフルエンザウイルスというと、図のようにウイルス表面にH3という蛋白質とN2という蛋白質を持っているということになります
これらの蛋白質に対して抗体がつくられ、インフルエンザウイルスに対する免疫が出来上がります
今シーズン(2006〜2007年)のインフルエンザウイルスはA/H3N2カリフォルニア、A/H1N1ニュカレドニア、B/上海というウイルスと予想されています
- 今シーズンのインフルエンザワクチンはこの3種類に対するワクチンです
予防接種以外の予防法には次のようなものがあります
一般的予防
うがい
- ウイルスに対しては15〜30倍にうすめたヨードうがい液で10秒間、6回以上うがいすることでウイルスが減る、とされています
- 最近、水道水のうがいでも十分効果があることがわかってきました
- 学童のデータでは、うがいを行ったクラスではインフルエンザ罹患率も低く、欠席日数も少なかった、というものもあります
手洗い
- インフルエンザは飛沫感染によって感染が広まります
- ウイルスを含んだ飛沫の付着した物は多くの場所に存在します
- くしゃみや咳をしたときにだ液が手について、その手でいろいろなところを触ると、それを触れた人の手にウイルスが付着します。それを洗うことによって感染予防効果が期待できます。
- ”手洗いとうがいをセットにする!”を実行しましょう
マスク
- インフルエンザウイルスは小さな粒子であるために、ウイルスそのものはマスクも通過してしまいます。残念ながら今のところ、インフルエンザの予防効果を示す科学的データはありませんが、くしゃみ、咳による大きい飛沫を吸い込まない効果はあります。
- ウイルスは飛沫に混入して飛散するのでそれを吸い込まないようにすることは重要です。
- また、自分が感染しているとき、他人に感染させない効果もあります。
また、、次のようなことも重要です
一般的予防 〜日常生活〜
- 体力の維持、生活の摂生
- 栄養維持、睡眠を十分に
- 感染者の多い場所への出入りを避ける、つまり、通勤電車、人混みを避けることも大事です
- どうしても出かけなければならないときはマスクを忘れずに
- 室内の環境
- 湿度を高くする
- インフルエンザウイルスは、低温、乾燥に強いウイルスです。
- 空気を入れ換える
これらの予防をしていても、インフルエンザにかかってしまうこともあるかもしれません。
インフルエンザにかかってしまったら
- 安静、睡眠を十分にとりましょう
- 水分、栄養の補給を
- 食欲が落ちて、食事が進まなくても、水分はとりましょう
- 早期治療(有効な薬あり)
- 他者への感染を避けることも大事です
早期診断の重要性
- 発病後48時間以内であれば有効な抗ウイルス薬が使われるようになりました
- 合併症の予防は早期治療が大切です
- 予防接種をしていてもかかることもあることは忘れずに
- 予防接種を受けたんだから、インフルエンザじゃない、と考えずに、それらしい症状があったら早めに受診を。
インフルエンザの薬物治療
- 発病初期
- 合併症があれば
- 病状によっては入院も必要となります
タミフルの副作用について
- 昨年、タミフルによる異常行動という副作用があるのではないかと問題となりました
- タミフルによるものなのかを明らかにするために行われた研究です
- 今年10月に発表されたデータです
- 0〜61歳、主に12歳以下を対象に行った検討です
- インフルエンザにかかった患者さんのうち、異常行動のあった人たちの比率とタミフル投与との関連を調べたものです
- タミフルを投与された患者さんのうち11.8%に、タミフルの投与されなかった患者さんの10.6%に異常行動があったそうです
- この差はないに等しいもので、つまり、インフルエンザにかかるとタミフルの投与の如何にかかわらず異常行動がみられるという結果でした
トリインフルエンザについて
- H5N1という新しいタイプのA型インフルエンザウイルスが原因です
- 鳥に対しては感染力も強く、病原性も強い
- まれにヒトへの感染がある
- トリインフルエンザによって死亡した大量の鳥を処分した人に感染が起きています
- ヒトからヒトへの感染はありません
- 通常のインフルエンザウイルスは上気道(鼻やのど)に定着して増殖し、また、他人への感染源となりますが、トリインフルエンザウイルスがヒトに感染した場合は、上気道には定着せず、下気道に定着し、増殖すると考えられています
- H5N1インフルエンザウイルスがヒトに感染した場合、ヒトの免疫細胞からサイトカインという物質が大量に作られ、これが重症化の要因と考えられています
ヒトへの感染例の臨床像
- 健康な小児と若い成人(9.5〜22歳)
- 初発症状は高熱
- レントゲンで異常陰影(肺炎像)は平均第7病日に出現
- 死亡例は第8〜23病日に死亡
トルコ、インドネシアにおけるトリインフルエンザのヒトへの感染の発生状況
- トルコでのトリインフルエンザのヒトへの感染例
- 2005年12月から2006年1月にかけて、トルコ国内で12例の、トリインフルエンザ(H5N1)感染例が確認された
- トルコ東部で発生の8例についての報告
- 5歳〜15歳、いずれもトリとの濃厚な接触があった
- 潜伏期間は平均5.0日
- 半数は死亡
- トルコ国内での発生状況
- 全土に広がったが、東部に集中
- インドネシアでのトリインフルエンザのヒトへの感染例
- 2005年7月〜10月にかけて発生
- インドネシア国内の3ヶ所で集団発生
- 集団発生はいずれも家族内。ヒトからヒトへの感染は確認されなかった。
- 1〜38歳の8例。小児は軽症の傾向。
- 4例は死亡
- インドネシアでの感染例
- 肺炎症状で入院
- 短期間で亡くなっている
中国本土における鳥からのH5N1ウイルスの検出率
- 毎年冬になるとH5N1ウイルスの検出率が増えており、ここ3年連続して増加傾向にある
タイで新型インフルエンザが発生した場合の予想
- H5N1インフルエンザウイルスがヒトからヒトへ感染するように変異したと仮定
- 特に対策を講じなかった場合
- 約6ヶ月でタイ全土に広がってしまう
全世界では
- 最も悲観的な予想として
- 感染者16億人、死亡者数1.2〜2.7億人、日本での死亡者数100万人以上、という予想もあります
新型インフルエンザが流行すると生活はどう変わるのでしょうか?
- 海外で発生している段階では
- 発生地への渡航は避けるよう勧告されます
- 発生地からの入国者に対する検疫が強化されます
- 国内発生の段階
- 患者さんに対しては入院が勧告されます
- 患者さんに接触した人(家族、職場の人など)の監視が必要になります
- 国内外の移動自粛が求められます
- 集会の自粛、休校、公共の場でマスク着用などが必要になります
新型インフルエンザが流行した場合
- ワクチンの開発までに6ヶ月はかかります
- 流行を最小限にとどめ、その間にワクチンを製造、順次接種することになります
- タミフルのような抗インフルエンザ薬は、普通のインフルエンザに対しては使わないようになります
- したがって、普通のインフルエンザにならないためにワクチン接種をしておくことは大切
<まとめ>
- インフルエンザの予防のために、うがい、手洗い、マスク、予防接種を
- インフルエンザにかかったかなと思ったら早めに受診を
- 新型インフルエンザは今のところ発生していませんから、あまり心配する必要はありませんが、もし発生した場合は、ニュースなどをチェックし、冷静な行動をとりましょう
<参考文献>
- 加地正郎編、インフルエンザワクチン接種の実際とコツ、南山堂
- Robert B. Belshe, The origins of Pandemic Influenza- Lessons from the 1918 virus, New England Journal of Medicine, 2005年11月24日号, vol 353, p 2209- 2211
- 里村一成、北村哲久、うがい、手洗い、マスクによる予防は有効か、EBMジャーナル、2005, vol 6, p 14- 17
- Proceedings of National Academy of Science, 2004年5月25日号, vol. 101, p8156- 8161, 2004
- New England Journal of Medicine, 2006年11月23日号, vol 355, p2174- 2177, 2006
- Nature, 2005年9月8日号, vol 437, p209- 214, 2005
- Nature, 2004年7月8日号, vol 430, p209- 213, 2004
- New England Journal of Medicine, 11月23日号, vol 355, p2186- 2194
- New England Journal of Medicine, 11月23日号, vol 355, p2179- 2185
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