8.膠原病の治療

Q:ステロイドは何故効くのか、続けることへの疑問

A:膠原病は何らかの素因に加え、様々の環境因子が影響することにより免疫異常がおこり、炎症が起こる病気であることは前に述べました。治療薬であるステロイドは抗炎症作用と免疫抑制作用を有し、膠原病の治療に大きな威力を発します。ステロイドははじめは必要十分な量を投与し徐々に減量するという方法で炎症反応と、免疫異常を押さえます。うまくコントロールされると今度は維持量という少量の投与を継続することになります。ご質問はこの維持量の必要性についてのものと思います。多くの患者さんが同じような疑問を持たれています。今のところステロイドの維持量は必要と考えられています。その理由は膠原病の原因は、素因と環境因子とがあると述べました。環境因子といっても取り除けるものばかりではありませんし、実際にどれが発病の要因となった因子であるかはわからないのです。そして素因は変えることができません。従ってひとたび落ちついてもまた再燃しないとも限りません。また、ステロイドホルモンは、もともとは体の中の副腎という臓器から分泌されているホルモンです。長期間ステロイドを服用していると、副腎自体は自分でホルモンを作る働きが弱くなってしまいます。その状態でステロイドの服用をやめてしまうと、体に必要なステロイドホルモンが足りなくなってしまい、体のバランスが急に崩れてしまいます。従って、ステロイドの維持量は、病気の寛解状態の維持のためと、ステロイドホルモンのバランスの維持のための二つの理由から必要と考えられます。実際に、維持量のステロイドを、患者さん自身が自己判断でやめてしまったために再燃したケースも少なくありません。これらの理由から維持量のステロイドの継続は必要と考えています。もし、非常に状態が安定して、自分の副腎機能も回復していることもわかり、ステロイドを中止してみようということになっても、主治医の指示に従い、定期的な外来通院により確実なフォローを受け続けるようにして下さい。(p. 98〜100, 106〜111, 155〜158)

Q:ステロイドパルスを行った場合減量の期間、入院の期間はどのくらいか

A:一言でステロイドパルスといっても、治療目標とする病態、それまでの治療内容、患者さんの年齢や合併疾患によってその適応は異なります。またパルス後のステロイドの投与量も変わってきます。確かにステロイドパルスは短期間に炎症を抑え、ステロイドの総投与量を減らすことができますが実際に入院期間がどのくらいに短縮できるかは、その後の投与量や治療効果によって異なりますので一概にはいえません。(p. 157)

Q:ステロイドと免疫抑制剤のどちらが体に負担か、どういう人にどちらを使うのか?

A:免疫抑制剤が投与される場合としては、まずステロイドを投与し、十分な効果のみられない場合に免疫抑制剤を使うという使い方が最も一般的だと思います。また、ステロイドで重篤な副作用のみられたような場合にも免疫抑制剤の投与が考慮されます。ステロイドも免疫抑制剤も副作用はあり、一概にどちらの副作用が強いとか、体に負担かというようなことはいえませんが、免疫抑制剤の場合は無月経、無精子症、催奇形性(服用中に妊娠した場合胎児に奇形が生じる可能性)などの副作用があるものがあり、そのような免疫抑制剤は若い患者さんでは投与を控えることになります。(p. 113〜116)

Q:痛みの治療は痛みがとれるまで薬を増やすのか、局所療法がよいか

A:薬の投与量というのは効果の現れる量と、これ以上のむと副作用の出る中毒量との間の量を投与するのが原則です。効果の現れる量は人によって多少異なりますので、効果がみられればそれ以上増やす必要はありませんが、効果のみられない同じ薬をただ増やすのではなく、他の薬に変更するとか、他の薬を併用するなどの工夫が必要です。そのひとつとして局所療法の併用という方法もあります。たとえば湿布や温熱療法などです。痛みの原因にもよりますが、たとえばガンの末期の痛みに対しては痛みがとれるまで量を増やすということはありますが、そのような例外的な場合を除いては一つの薬だけの投与量を増やし続けるということはしません。

Q:ステロイドによる易感染性は何mgになればなくなるのか

A:一般的にプレドニゾロンで20〜30mg以上では易感染性があるといわれています。ですから順天堂医院膠原病内科ではプレドニゾロン30mgが退院の目安の一つとなっています。退院後も20mg以上服用中は、人混みに出るような場合はマスクを着用するなどの注意が必要です。(p. 214〜222)

Q:ステロイドによる骨粗鬆症が心配

A:ステロイドによる骨粗鬆症の原因としては腸管でのカルシウムの吸収低下、骨芽細胞(骨をつくる細胞)の機能抑制、破骨細胞(骨の吸収をする細胞)の機能亢進などが相互に作用するためと考えられています。現在ステロイドによる骨粗鬆症に対してはビスホスフォネート、カルシウム、ビタミンD、カルシトニンなどが使われています。患者さんの状態にあわせてこれらの薬を併用し、運動の可能な患者さんには散歩などの運動を勧めることにしています。運動によって骨を刺激することは骨を強くする上で重要です。たとえば、無重力状態に何日もいる宇宙飛行士ではその間に骨密度が低下するといわれています。その原因は骨への刺激が少ないためと考えられています。ですから運動によって骨に常に刺激を与えるということも骨を強くする上で重要なことなのです。(p. 109〜111, 224〜226)

Q:漢方はどうでしょうか

A:漢方は副作用のない魔法の薬のように思われがちですが漢方も薬であり、使い方を間違えれば副作用ばかりが出てしまいますし、時には重篤な副作用も出現します。また、漢方だけで膠原病を治療するのは今のところ不可能のようです。しかし中にはレイノー現象や乾燥症状などに有効なものや、ステロイドの減量時に併用するとリバウンドを減らす効果のあるものもありますので、併用する場合もあります。本来漢方は薬草などを煎じたものなわけですが、現在はエキス剤といって顆粒状になったものが主流です。これを服用する際の注意としては顆粒状だからといって普通の粉薬のように水で飲むのではなく、お湯に溶かしてもともとの煎じ薬のようにしてのむのが正しい飲み方だということです。(p. 118〜119)

Q:副作用が心配だが調子のよいときは服用しなくてもよいのか

A:痛み止めなどの目的で、症状のあるときだけ服用すればよい場合もありますが、基本的には、薬は体調に関係なく継続して服用してください。たとえばステロイドを急にやめた場合のことを例に挙げましょう。ステロイドはもともとは副腎という臓器から分泌されているホルモンで、ステロイドの長期服用中は体の副腎の方は休んでいます。つまり副腎ではステロイドホルモンを作らなくなっています。ステロイドホルモンは体のバランスを保つ上で重要なホルモンです。したがってステロイド服用によって副腎が休んでしまった状態で、飲むのを急にやめると体にはステロイドホルモンがないという状態になってしまいます。そうすると体のバランスが急に崩れ、熱が出たり、食欲がなくなったり、血圧が下がったりというような症状が現れる可能性があります。またもともとの膠原病の症状が再燃する可能性が非常に高くなります。これは時には大変危険な状態になります。ですから薬は勝手にやめたりせず規則正しく服用するようにしてください。

Q:生涯服用しなければならないのか

A:おそらくステロイドについてのご質問だと思いますが、ステロイドをどのような症状に対して使っているかということによります。たとえば腎症を伴うSLEや、間質性肺炎を伴う筋炎などの患者さんの場合ではステロイドをやめるということは難しいと考えられています。しかし関節炎や皮膚症状だけの場合などはステロイドを減量して症状の再燃がみられなければ中止して様子を見ることも可能な場合もあります。その場合も定期的な検査は必ず受けるようにしてください。

Q:プレドニンからリンデロンにかわったがこの違いは?副作用は?

A:膠原病の治療にはステロイドが使われるわけですがステロイドにはいくつかの種類があります。内服で使われるものとしてプレドニン(プレドニゾロン)、メドロール(メチルプレドニゾロン)、リンデロン(ベタメサゾン)、デカドロン(デキサメサゾン)が代表的です。それぞれに特徴があります。基本的にはプレドニンがまず使われるわけですが効果が十分でない場合には他のステロイド、たとえばリンデロンやメドロールに換えるという使い方があります。また、副作用によってステロイドの種類を換えるということがあります。リンデロンはプレドニンに比べ血中半減期が長く(体の中に長く残る)、副腎萎縮が起こりやすいという特徴があります。副作用としては胃潰瘍、糖尿病、高血圧はプレドニンに比べ少なく、食欲亢進、満月様顔貌、体重増加が起こりやすいといわれています。(p. 106〜111)

Q:膝に水がたまらないようにするにはどうしたらいいか?心臓や肺にもたまるのか?

A:リウマチの患者さんの場合、膝の炎症が強いときには関節液がたまることがあります。水がたまるというのはこのことですが、関節液がたまらないようにするためにはその原因である炎症を抑えることが必要です。薬物療法に加え、適度な安静と湿布などによる局所療法が必要です。また関節の炎症が落ちついてきたら、つまり熱が引いてきたら多少関節液がたまっていても動かすことが必要です。椅子に座って足をゆっくり蹴り上げる運動がよいでしょう。また心臓や肺に水がたまるのとは原因が違いますので膝に水がたまったからといって、肺や心臓にも水がたまるということではありません。(p. 126)

Q:薬の内容を知りたい

A:遠慮なく主治医の先生に聞くのがよいでしょう。また、薬局でも薬剤師の方が薬の質問について答えてくれます。

Q:今後どうなったら入院が必要か(混合性結合織病)

A:混合性結合織病の場合は症状も軽くステロイドの効果もよいといわれていますが、外来では治療困難な場合がいくつかあります。発熱が続く場合、肺高血圧を合併しているような場合、筋炎症状が悪化したような場合、腎症が悪化した場合などです。これらの状況では初期治療の導入には入院が必要な場合があります。落ちついたら退院して外来で治療を継続することになります。またこれら以外にも状態が悪ければ入院して治療する必要が出てくる場合もあります。もちろん外来では寛解状態を維持し、家事や仕事もできて入院も必要ないという状態を維持していけるようにするのが目標です。(p. 180〜185)

Q:関節リウマチ、小指が曲がってしまい、腱断裂といわれたが手術で治るのか?

A:腱断裂の治療は切れてしまった腱をつなぐ手術になります。残っている腱をつなぐだけで済む場合もありますし、腱を移植しなければならない場合もあります。当然、前者の場合の方が結果はいいことになります。小指を伸ばすのに働いている腱は手首の甲側を通っていますが、慢性関節リウマチで手首の炎症が強いと関節周囲の組織にも影響することがあり、腱も障害されることがあります。早めに気づいて手術を受ければ治る率も高くなりますので小指が伸びにくいというような症状があったら早めに主治医の先生に相談してください。

Q:週二回飲む薬は何?

A:膠原病領域でこのような飲み方の薬としては関節リウマチの治療に使われるリウマトレックスがあります。この薬は週1回服用します。もともとは抗がん剤で、抗がん剤として使うときは毎日5〜10mgを服用しますが、慢性関節リウマチでは2〜8mgを週1回のみ服用します。同じくリウマチの治療でDペニシラミンという薬も週2回とか3回というのみ方をする場合もあります。また、特殊な場合ですが、抵抗力の落ちた患者さんで、予防的に抗生物質を週2回とか、3回服用していただくこともあります。多くは入院患者さんで行われる治療です。どんな薬なのかは主治医の先生に確認してください。

Q:肝障害、貧血、ポリ−プ、高尿酸、胃潰瘍があるが内服中の薬との関連は?

A:どのような状態で、どのような薬を飲んでいるかわかりませんので答えるのは難しいですが、ポリープ以外はいずれも薬の副作用である可能性はあります。また肝障害、貧血はもともとの膠原病の症状である可能性もあります。主治医の先生によく聞いてみてください。

Q:発熱、下痢などのときの市販薬との併用は?

A:膠原病の患者さんでは、薬に対するアレルギーの出る頻度が高く、一方、市販薬にはいろいろな薬の成分が含まれていますので市販薬の併用はさけた方がいいでしょう。といって風邪や下痢などを放っておくことはよくありませんので早めに治療は受けた方がよいでしょう。主治医の先生からそのような時のための薬をもらっておくのも一つの方法でしょう。

Q:現在プレドニンを10mgと1/4錠を服用している。1/4で大きく変るほどの薬であることがかえって不安

A:プレドニンはもともとは副腎という臓器から分泌されるホルモンを薬剤としたものです。5mgがだいたい一日に分泌されるステロイドホルモンの量といわれています。ステロイドを服用するとホルモンのバランスが一時的に変わりますので体の方が順応するまでに少し時間がかかります。その間は体の変調を感じるでしょう。同じことはステロイドの減量の時にも起こります。ごく少量でも減量した後、数日は体調の変化を感じるかもしれませんがその後は落ちつくはずです。1週間以上体調が悪いとか、熱が出てきたというような場合は減量を見直す必要もあるかもしれませんので、主治医の先生に相談してみてください。

Q:間質性肺炎を合併しており、咳がひどいが何とかならないか

A:間質性肺炎そのものは落ちついていても咳が出ることはあります。咳止めを使うことが必要となる場合もありますが日常生活の中で注意することがいくつかあります。まず部屋をほこりっぽくしないこと。こまめに掃除機をかけて布団も日光に当てて干すようにすること。掃除機をかけるときは、かえってほこりを舞い上げることにならないように、掃除機を部屋の外において長いホースを使うのもよいでしょう。加湿器などを使ってのどに適度な湿り気を与えること、気温の極端な変化をさけること。なども大切です。

Q:関節リウマチの治療は内科でよいのか

A:関節リウマチの時期によります。関節の変形が進んでしまって手術が必要となったような場合には内科では無理ですので整形外科のリウマチ専門医に診てもらう必要があります。その前の段階や発病初期では内科的な治療が中心ですので内科でみてもらうのがよいでしょう。しかし手術の時期を逸してしまうようではいけませんし、リウマチの薬の使い方にも多少こつがありますので、リウマチ専門の内科でみてもらうのがよいでしょう。リウマチ専門医については、日本リウマチ財団(03-3946-3551)に問い合わせていただけば各地域の専門医を紹介してくれます。

Q:サポ−タ−、湿布、ホカロンなどを行うがかえって痛むことがあるがよい方法は?

A:関節の炎症が強い状態の時は関節は腫れ、熱を持っています。そのようなときに暖めるとかえって痛みが増します。またサポーターできつく締め付けると痛みは増してしまいます。そのようなときはむしろ冷湿布で冷やし、圧迫はせずに安静を保つ方がよいです。炎症が軽くなってくると腫れや熱は引いてきます。そうなったら暖めて少しずつ動かすようにしてください。その時サポーターをしていた方が楽な場合もあります。特に手首、肘、膝、足首などは腫れが引いて動かしたときに痛むようでしたらサポーターを使ってみるのはよいでしょう。(p. 138)

Q:薬がだんだん増えているのが不安

A:もっともなことだと思います。もしあなたが自分の服用している薬一つ一つの目的を知らないとしたらまずそれを主治医の先生に聞いて確認してください。中には他の薬の副作用を抑えるために服用しているものもあると思いますが、一つ一つ意味があるのです。それを確認すれば不安は少し解消するのではないでしょうか。また、それぞれの薬は必要性があって処方されていますが、中には減らしたりやめたりすることができるものもあるかもしれませんので主治医の先生に薬の整理を相談してみてはいかがでしょうか。

Q:SLEだがブレディニン、イムラン、エンドキサンを使った。この先はどうなるのか

A:おそらくステロイド抵抗性のループス腎炎でこのような免疫抑制剤が使われているものと思われますが、これらの効果がないかあるいは副作用のため使えないとすると確かに難しい面はあります。しかし、新しい免疫抑制剤でSLEに有効なものもありますのでそれに期待することもできますし、血漿交換療法の適応があればそれも可能でしょう。生物学的製剤などの新しい治療法も次々開発され、効果が認められていますので悲観しないで下さい。(p. 158〜159, 255〜256)

Q:エンドキサンの副作用

A:エンドキサンは代表的な免疫抑制剤で、もともとはガンの化学療法薬として用いられてきました。膠原病領域では主にステロイドだけでは十分な効果の得られないようなループス腎炎、間質性肺炎、中枢神経ループスに対して用いられます。副作用としては吐き気、食欲不振、肝障害、白血球減少、血小板減少、貧血、脱毛、出血性膀胱炎、感染症(帯状疱疹など)などです。また長期投与により悪性腫瘍の発生が見られることもあります。最近では月1回のパルス療法も行われています。(p. 113〜116)

Q:ステロイドを使っているがカルシウム剤はいらないのか

A:ステロイドによって骨粗鬆症が起こりますが、その原因はカルシウムの吸収低下や骨芽細胞の機能低下といわれています。治療法もこれが確実というものはまだなく試行錯誤の段階です。カルシウムを多くとることも重要ですがカルシウムの吸収をよくし、骨にカルシウムがつくようにすることなどが重要です。カルシウム剤の必要な場合もあります。さらにはカルシウムの吸収を助けるビタミンD、骨へのカルシウムの吸収を助けるビタミンKなども重要です。ビスホスフォネートと呼ばれる薬剤が効果があり、使用可能な患者さんでは使われます。もちろん患者さんの状態に応じてカルシウム剤の併用するという場合もあります。詳しくは主治医の先生に聞いてみてください。(p. 224〜226)

Q:皮疹がひどく、入院が必要といわれた。どんな治療をするのか?日数はどのくらいかかるのか?

A:膠原病の治療にため入院が必要となるのは内臓の障害が出た場合ばかりではありません。皮膚症状の悪化した場合にも必要となります。その場合、治療としてはステロイドの増量もしくはパルス療法が必要となります。日数としてはもともとの皮疹の状態や、治療の効果にもよりますので一概にはいえません。詳しくは主治医の先生に聞いてみてください。(p. 160〜161)

Q:強皮症、膝が痛い、人工関節はどうか

A:一般的に強皮症に伴う関節痛はリウマチなどと異なり、関節の破壊や変形を残すようなことはありませんので人工関節の適応にはなりません。人工関節にすると痛みはとれますが、痛みをとるために行う手術ではありません。

Q:異物で症状が悪化すると本に書いてあったが人工関節は大丈夫か?

A:異物を体の中に入れた場合、免疫反応の原因となることがあります。美容整形に使われるシリコンが代表的です。人工関節を始め、治療の目的で体内に人工物を入れるような場合はその材質に関してかなり詳しく調べられていて、免疫反応が起こりにくいものが使われています。人工関節によって症状が悪化することは非常に稀と考えてよいと思います。

Q:鎮痛剤はどうして腎臓や胃に良くないのですか

A:体の中で炎症が起こるときにはプロスタグランジンという物質が作られていて、そのプロスタグランジンが発熱や痛みの原因となっています。非ステロイド抗炎症剤はプロスタグランジンの産生を抑える働きがあります。そのためにプロスタグランジンが作られなくなり、炎症による発熱、関節痛などが抑えられます。しかしプロスタグランジンには炎症以外に、体の中でよい働きもしています。例えば胃の粘膜や腎臓への血流を増加させる、などの作用があります。ですからプロスタグランジンの合成が抑えられることにより胃の粘膜への血流が減り、腎臓への血流が減るといったことも起こる可能性があります。その程度が大きいと胃が荒れたり、腎臓の機能が障害されたりします。現在、胃や腎臓に対する副作用の少ない非ステロイド抗炎症剤や腎臓への影響の少ない非ステロイド抗炎症剤も開発され、実用化されています。

Q:多発性筋炎で、今腰痛で家事ができなく休んでいる。ステロイドのためでしょうか?なにかステロイドに代わるものはないのでしょうか?

A:この患者さんの場合、腰痛の原因は3つほど考えられると思います。一つは多発性筋炎そのものによる痛み、二つめは多発性筋炎で筋力が低下してしまったための痛み、もう一つはステロイドミオパチーによる筋力低下のための痛み、などです。筋炎そのものによる痛みであれば今は安静が必要です。多くの場合、入院が必要な状態です。二つめの筋炎による筋力低下の場合、筋炎そのものが落ちついてきても筋力が回復するのには時間がかかります。それまでの間、腰をささえる筋力が弱いと腰痛の原因となります。筋力の回復のためのリハビリが必要です。時期が来れば治りますが根気よくリハビリを続けましょう。ステロイドミオパチーはステロイドの副作用としてはまれなものですが、ステロイドの種類を換えたり、量を減らすことによって回復します。筋炎の筋力低下や長い入院生活のための筋力低下と間違われやすいので、筋力の低下が長く続いたり、逆に悪くなっていくように感じたら主治医の先生に相談して下さい。腰痛の原因には、ほかにも背骨に原因があるものや、内蔵に原因があるものなど様々ですので、主治医の先生によく相談して下さい。また、ステロイドに代わる薬のご質問ですが、残念ながら筋炎をはじめ、膠原病の治療薬としてはステロイドが第一選択の薬です。いろいろな副作用に悩まされておられると思いますが、量が減ってくれば副作用も軽くなります。病気そのものは良くなってきたのに、副作用が出てきてこれからが不安という、つらい時期なのだと思います。この時期を早く乗り切れるように、ストレス、過労、風邪をこじらせるなど病気を悪化させる要因をできるだけさけて、療養して下さい。

Q:前は体重が45キロだったのが今は60キロになり、おなかがパンパンになり、顔は丸く、外に出るのが恥ずかしく、家にこもり、夜は眠れなく、何をするのもいやでうつのような状態です。

A:残念なことですがステロイドの副作用がかなり出てしまった方のようです。ステロイドはもともとは体の中の副腎という臓器から分泌されているホルモンです。ステロイドホルモンには炎症を抑える働き以外に、脂肪代謝、血圧調節、血糖調節などの作用を有しています。膠原病の治療にステロイドを使うのはステロイドの炎症を抑える効果を期待して使うわけです。ところが治療薬のステロイド剤には炎症を抑える作用以外の作用もあるために、ステロイドホルモンのいろいろな作用が出てしまいます。それがステロイドの副作用なわけです。ステロイドの脂肪代謝に対する作用のために、脂肪が付きやすくなります。それも、特に、体の中心につきやすくなるというのが特徴で、顔、おなかの回り、背中などについて、腕や足には付かないという脂肪の付き方になります。また、ステロイドのために食欲が増します。そのために肥満になりやすくなるのです。ですから、ステロイド服用中で、体重が増えてきたら要注意です。カロリーのとりすぎに注意し、間食や、甘いもの、脂っこいものはさけるようにしましょう。また、軽い精神症状も出ることがあります。イライラ、不眠、ゆううつなどです。逆に少しハイな気分になる場合もあります。ステロイドの減量とともに軽快することが多いですが、症状によっては、カウンセリングや向精神薬を使用する場合もあります。ためらわずに、主治医の先生に症状をお話になって下さい。

Q:関節リウマチですが、今は漢方の先生に診てもらっています。今の治療でよいのか他の専門の先生にも診てもらいたいのですが、今の先生が気を悪くされないか心配です。

A:最近はこのように”セカンドオピニオン”を求めるケースが増えています。今では、これは患者さんの権利と理解されてきています。このような要望に対しては主治医は応じることが求められています。
 そうはいっても人間どうしですし、主治医が専門医となるとなかなか言い出しにくいのは十分理解できます。いくら患者の権利といってもやはりマナーは守った方がよいと思います。医者も人間ですから確かにいろいろなタイプがありますし、自分が信用されていないと感じれば気分としてはよくないところもあります。しかし一番大事なのはあなたの体ですし、十分納得して治療を受けたいというあなたの気持ちですから、主治医とよく話し合うことが大切でしょう。
 まずは今の主治医に率直に相談してみることでしょう。そして、セカンドオピニオンを求める前にまず、ファーストオピニオン、つまり今の主治医の考えをよく聞くことが大切です。当然のことですが、セカンドオピニオンは今の主治医に対する”オピニオン”ではなく、あなたについての、あなたの治療についてのオピニオンで、その後の選択につながるわけですから、まずは今の主治医の考えを確認することが大切です。それを十分理解した上で、他の先生の意見も聞いてみたい、自分の身体のことだから、というスタンスで話してみて下さい。それでも主治医が理解を示してくれないときはやむを得ませんので、検査データのコピーや今まで使った薬の情報などをできるだけ集めて専門医にかかるしかないかもしれません。
 セカンドオピニオンの求めに応じてくれる医師は患者さんのことを第一に考えているともいえます。セカンドオピニオンが今の主治医の治療方針と一致するようであれば医者を変えない方が賢明といえるかもしれません。
 膠原病は、ほかの疾患や、手術をするかしないかといったような病状に比べ、説明する方にとっても難しい面はありますが、やはり、じっくり時間をかけて説明してくれる専門医が望ましいと言えるでしょう。

Q: 20年前発症の関節リウマチで、4年前には人工膝関節の手術も受けています。高血圧、糖尿病も治療を受けています。リウマトレックスを週8mg服用していますが、肩、肘が痛く、特に最近肘が曲がらなくなってきており、主治医からはレミケードを勧められていますがちょっと不安です。(66歳、女性)

A: 発症後年数も経っていますがいまだにリウマチの活動性は高く、痛みも強く、関節の予後も心配です。今の治療に何か加えるとなると、やはり生物学的製剤(現時点ではレミケードとエンブレル)になるでしょう。レミケードの効果には個人差はありますが、発病後の年数が経過していても効果は認められますし、効果があれば、まず痛みから解放されることでしょう。痛みが軽くなると、気分も明るくなりますよ。肘がすでに曲がらなくなってきているとのことですが、それは、関節破壊が進んできているということだと思いますが、生物学的製剤が効けばその進行を防ぐこともできます。ただし、生物学的製剤の使用に当たっては副作用の予防が重要です。中でも、感染症が問題になることがあります。感染症の副作用がおきやすい要因として、高齢、ステロイド使用、肺疾患、糖尿病、喫煙などがあります。ご質問くださった方の場合、ステロイドはプレドニン5mgを使用していらっしゃいますし、糖尿病もあるということですから、感染症には特に注意が必要です。事前の検査で結核の予防薬が必要かどうか検査されるはずですから、もし、それで必要と判断されたら、抗結核薬の予防内服は必ず行ってください。これにより、生物学的製剤使用中の結核の発症が劇的に減ったという事実もあります。また、肺炎球菌のワクチンを受けることもよいと思います。肺炎の原因となる病原体の??%は肺炎球菌といわれています。さらに、毎年のインフルエンザの予防接種は必ず受けてください。これらのリウマチの治療薬を使っていても予防接種は効果があるといわれています。そして、日常の感染予防として、うがい、手洗い、風邪の流行期に人ごみに出るときはマスクをする、などを心掛けてください。また、大事なことは、咳やだるさを感じたら感染症の初期徴候の可能性がありますから、すぐに医療機関を受診するようにしてください。予約制の外来の場合で、予約が少し先の場合でも、予約外で受診してください。生物学的製剤を使用していると、感染症の初期にはあまり熱が出ないということもあるようですから注意して下さい。

Q:6年前発症の関節リウマチです。リウマトレックスを週4錠(8mg)飲んでいます。市の健診のときに「4錠は多いねえ」といわれ、気になっています。

A:お話をよく聞いてみますと、リウマトレックスは7カ月ほど前に始めていて、少しずつ量を増やし、4錠になった5カ月前から検査値のCRPもMMP-3も低下し始めているようです。リウマトレックスは、ある用量を超えるとよく効くようになる、ということがあります。たとえば、2錠では効かなかったが、3錠に増やしたらよく効き始めた、というようなことがよくあります。この方の場合は、4錠に増やして効き始めたようです。リウマトレックスの量としては、欧米では15mgとか20mg以上使う場合もよくあるようです。確かに、日本では8mg=4錠が保険で認められている最大用量ですし、健診でいわれたひと言も気になっていらっしゃるようですが、リウマチの治療という観点からは、通常の用量と考えられますので、もちろん副作用に対する注意は必要ですが、その量で効き始めているようですから、このまま続けた方がよいでしょう。

Q:3カ月ほど前からこわばりが出現し、1カ月前に関節リウマチと診断されました。リウマトレックスを飲んでいて少し効いてきた気がします。しかし、発症早期に生物学的製剤を使うとよいと本で読みました。私の場合はどうなのでしょうか。新しい治療を受けてみたいと思っています。(51歳、女性)

A:お話からは確かに急性発症型の関節リウマチのようです。リウマトレックスが効いてきたといってもまだ関節の腫れやCRP高値(3.5)もあるようですから、生物学的製剤の適応もあるといってよいでしょう。むしろ、早期に使って治療をやめることができる場合もあるようですから、検討する価値はあると思います。通院されている病院で行っていない場合もあるかもしれませんから、まずは主治医の先生によくご相談なさってください。我々医師が、患者さんの治療方針を決めるとき、患者さんの状態をみる客観的な指標(関節の腫れが何カ所あるか、CRPがいくつかなど)や現在の治療内容などはもちろん判断の材料となりますが、もう一つ大事なことは、患者さんの治療に対する意欲ということがあります。お電話からその意欲は十分伝わりますので、そのお気持ちを率直に主治医の先生にお話になってみてください。

Q:エンブレルを始める予定になっていますが、ツベルクリン反応が陽性でした。結核の薬を飲むことになりましたが、エンブレルを初めても大丈夫なのか心配です。(77歳、女性、関節リウマチの患者さん)

A:エンブレルをはじめ、生物学的製剤を使用中の副作用として結核があげられています。これは、新たに結核にかかるということではなく、体の中に潜んでいる結核菌が、再活性化されて体の中で広がるために起こります。生物学的製剤を始めるときに活動性の肺結核にかかっていたら、生物学的製剤は使うことはできません。副作用としてまれに問題となるのは、過去に結核菌が体の中に入ったことがあって、リンパ節の中などに菌が潜んでいることがあり、それが再活性化されることです。過去に結核菌が体の中に入ったかどうかを知る手がかりとなるのがツベルクリン反応です。ツベルクリン反応は、結核菌に対する免疫が体にあるのかどうかを知る検査です。従って、BCGを受けたことがあっても陽性となります。ツベルクリン反応が陽性の場合、体の中にごくわずかな結核菌が残っている可能性があるため、結核の治療薬を前もって服用し、生物学的製剤開始後もしばらく服用します。治療開始前の1か月を含めて、計9か月服用すればよいことになっています。この方法が確立する前は、生物学的製剤による結核の副作用報告がありましたが、最近では激減しています。この方法が結核の予防に有効であることの証拠といえると思います。ツベルクリン反応陽性となる方は結構多く、半数くらいを占めると思います。つまり、生物学的製剤を開始する前にあなたと同じように抗結核薬を開始する方はかなり多い、ということです。薬の数が多くなってしまいますが、大事な治療ですので、きちんと服用して予防に努めて下さい。

Q:リウマチの治療中ですが、口の中が痛くなります。先生は何か薬があるようにおっしゃっていましたが・・・(83歳、女性、関節リウマチの患者さん)

A:ご本人のお話を伺い、唾液の分泌が少ないことが考えられます。電話などで話していても口の中が乾きやすい、おせんべいなどは食べると口の中でくっついてしまうなどの訴えがありました。眼もゴロゴロするとおっしゃっていましたので、涙液の分泌も少ないかもしれません。おそらく、シェーグレン症候群を合併しているのでしょう。その場合は、唾液の分泌をよくする薬がいくつかあります。主治医の先生が考えていらっしゃるのはそういった薬だと思います。そのような薬で症状は軽減されると思いますので、先生からよくお話しをうかがって、治療を受けて下さい。

Q:リウマチで治療中ですが、CRPもMMP-3も低いのに痛いのですが・・・(64歳、女性、関節リウマチの患者さん)

A:関節リウマチの状態を確認するのに、CRPやMMP-3はよく使われますし、大変優れた検査方法です。しかし、患者さんの中には、これらの数値が全く上がらないのに関節は腫れていて、炎症がある、という方もいらっしゃいます。特に、膝などの大きい関節ではなく、指などの小さい関節の炎症が主体の場合などはその傾向があるようです。その場合は、関節の腫れ具合や、痛みを目安に治療を行うことになります。関節の痛みや腫れの程度をメモしておいて先生に見て頂くとよいかもしれません。

Q:リウマチの治療中で、薬の副作用が以前あって痛み止めだけ飲んでいます。主治医の先生は週1回の薬を始めようかおっしゃっています。大丈夫か心配です。また、アルコールは飲んでもいいでしょうか。(76歳、男性、関節リウマチの患者さん)

A:薬の副作用が出たのはリドーラという薬だったようです。リウマチの治療は、表に出ている痛みという症状を抑えるための痛み止めだけでなく、リウマチの元の方を抑えるための抗リウマチ薬を一緒に使うのが標準的です。むしろ、痛みが軽ければ、抗リウマチ薬を優先させるくらいです。リドーラも抗リウマチ薬の一つですが、比較的かゆみなどの副作用が多い欠点があります。週1回の薬というのはおそらくリウマトレックスのことだと思います。今は、抗リウマチ薬の中心といわれている薬です。確かに副作用も心配ですが、定期的に検査を受け、気になる症状があれば早めに先生に見て頂くということを心がけていただけば、副作用がもし現れても軽いうちに見つかります。いい薬ですので、主治医の先生のお話をよく聞いて治療を受けるようにして下さい。ただし、リウマトレックスには肝機能障害という副作用があり、アルコールはやめた方がよいです。アルコールを飲み続けていると肝線維化という副作用が起こりやすくなるといわれています。

Q:温水プールで水中歩行のリハビリをしたいが、人混みが心配です。主治医からは「風邪をひかないように」といわれているので・・・(56歳、女性、関節リウマチの患者さん)

A:(こちらの患者さんの場合、お話ししていて、リハビリの必要性は分かっていても気持ちが前向きになれないそうで、その背景には、いろいろ精神的な要素も多いことが分かりました。電話では私にお答えできる範囲でお答えしましたが、その点には触れず、一般的な回答をここに掲載します。)水中歩行はリウマチの患者さんのリハビリとしては理想的なものなので、それを受けられる環境にあるのでしたらぜひ行って下さい。風邪をひかないようにするというのは実際には難しいことで、私たちもつい患者さんにはそのようにお話ししてしまいますが、要は、風邪をひいてもこじらせないように、ということが大切です。プールも確かに人混みになるかもしれませんが、風邪の人はあまり来ないでしょうし、湿気の多い室内プールの建物の中は、むしろインフルエンザウイルスなどは繁殖しにくい環境です。ご自分の体調さえ悪くなければ怖がらずにリウマチのリハビリを優先させて欲しいと思います。