アルコール飲料の種類、摂取量と心筋梗塞

”フレンチパラドックス”という言葉があります。フランス人の食事は、他の欧米人の食事と比べ、平均的に油の摂取量が多いにもかかわらず、心筋梗塞の発生率が、他の欧米人より少ない、というものです。その理由は、フランス人は赤ワインを好み、赤ワインに動脈効果を防ぐ効果があるのだろうと考えられています。赤ワインのポリフェノールが注目されているのもそのためです。
今回紹介する論文は、飲酒量、アルコール飲料の種類、飲み方などと心筋梗塞の発生率にどんな関係があるかを調べたものです(New England Journal of Medicine 2003年1月9日号 2003, 348, 109-118)。

対象となったのは、心筋梗塞の既往のない38077名の健康な男性です。1986年から1998年まで12年間にわたって調査が行われました。4年毎にビール、赤ワイン、白ワイン、リキュールの摂取量、飲酒の機会の頻度、飲酒と食事の関係などについて聞き取り調査を行いました。12年間に1418名に心筋梗塞が発生しました。

飲酒量との関係

飲酒回数が週1回以下の人に比べ、週3〜4回以上、5〜7回の人の方が心筋梗塞になりにくく(相対危険度はそれぞれ0.68、0.63)、また、一回に飲むアルコールの量についても1回10g以下の人に比べ、30 g以上の人の方が心筋梗塞になりにくかった、という結果になりました。アルコール量で一日平均12.5gを越えると心筋梗塞の発生率が下がる傾向が認められました。

アルコール飲料の種類の違い

しかし、アルコール飲料の種類で検討した結果では、特定のアルコール飲料が、心筋梗塞の予防効果が強いという結果は出ませんでした。

飲み方

食事との関係でも、食事の機会に対し、アルコールを飲む機会が多いかどうかと心筋梗塞の発症とは一定の傾向は認められませんでした。

酒は百薬の長といわれます。この研究でもアルコールの持つよい効果が強調される結果となっています。しかし、アルコールの飲み過ぎは、明らかに肝臓や胃に悪く、高血圧、糖尿病、痴呆症などの発症との関連も指摘されています。この論文の論評の中に書かれていることが当を得ていると思いますので引用します。”もしアルコールのない時代に、新しく開発された、心筋梗塞を予防する”薬”としてアルコールが発見されたとしても、どこの製薬会社もそれを医薬品として開発することはないだろう。また、それが心筋梗塞を25%あるいは50%予防する効果のある薬であっても、新たながんの発生、交通事故の増加、肝疾患の増加などの原因となることがわかっていて、治療に使う医師はいないだろう”と。

日本人には心筋梗塞より脳卒中の方が多く、このような疫学調査の結果はそのまま日本人には当てはまらないかもしれません。しかし、最近、日本人に多い脳卒中について、アルコール摂取量との関係を調べた疫学調査をまとめた論文が発表されました(Journal of the American Medical Association. 2003;289:579-88)。詳細はいずれこのHPでも紹介したいと思いますが(こちら)、飲酒量と脳出血との関係は直線的な相関、つまり飲酒量が多いほど脳出血も多いという結果となっています。やはり、飲酒量は”ほどほど”にとどめておくのがよいでしょう。ちなみに、糖尿病患者さんではアルコールは原則的には禁止、高血圧、高脂血症の患者さんではビールなら中瓶1本、日本酒なら1合程度までが”適量”とされています。

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