アルコールと痴呆の関係、オランダの報告

日本では人口の高齢化とともに、痴呆患者さんのケアも大きな社会問題となっています。また、痴呆の原因についても多くのことがわかってきており、動脈硬化との関連も指摘されています。一方、虚血性心疾患や脳卒中に代表される動脈硬化性疾患は、アルコール摂取量との関連があることも指摘されています。すなわち、大量のアルコール摂取は動脈硬化を進めてしまうが、少量のアルコールはむしろ動脈硬化を抑制し、虚血性心疾患や脳卒中の発症を減らす、というものです。

今回紹介する論文はアルコールの摂取量と痴呆の発症との関連を検討したものです。

オランダで行われた疫学調査(Lancet 2002; 359: 281-186)で、55歳以上の7983名を対象にしています。対象者には、毎日どのくらいアルコールを摂取するかを質問し、平均6.0年間追跡調査を行いました。アルコール摂取量により、対象者を(1)全く飲まない、(2)週1杯以下、(3)週1〜3杯で一日1杯以下、(4)一日1〜3杯、(5)一日4杯以上のグループに分けました。調査期間中、197名に痴呆症状が出現しました。痴呆症状の出現率は、(1)の全く飲まない人たちを1とすると(2)〜(5)の人たちではそれぞれ、0.82、0.75、0.58、1.00となり、一日3杯までならアルコールを飲んでいる人たちの方が痴呆症状の出現率が低かったということになっています。この論文ではアルコールの種類、つまり、ビール、ウイスキー、ワインなどによる違いは明らかとならなかったということです。

1997年に発表された、フランスのボルドー地方で行われた調査(Rev Neurol (Paris) 1997; 153: 185-192)でも、ワインの摂取量と痴呆の発症との間に同様の結果がでています。

虚血性心疾患の発症とアルコール摂取量と間にも同様のことが指摘されており、少量のアルコール摂取はHDLコレステロールを増やし、動脈硬化に抑制的に働くことがその理由とされています。痴呆と動脈硬化の関連も指摘されており、同様の理由で痴呆発症に関係しているものと考えられます。また、低濃度のアルコールにより脳のアセチルコリン分泌の刺激するという動物実験の結果もあり、痴呆症状の出現を抑制したことと関連があるかもしれません。ワインとの関連では、ワインのポリフェノールの抗酸化作用が痴呆を抑制する可能性も指摘されています。

しかし、アルコールの飲み過ぎはビタミンB1の欠乏を介し、精神症状を来すことは明らかで、飲み過ぎはよくないのは確かなようです。

ここで紹介した2つの論文のように適量のアルコールのメリットはあるようですが、現時点では、”痴呆の予防のためにアルコールを飲んだ方がよい”と結論づけるのは早計のようです。

”酒は百薬の長”といわれます。人とのコミュニケーションを円滑にする効果もあります。無理のない飲み方を心がけましょう。

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