BMIと避けられる入院の関係

平成20年から健診のシステムが大幅に変わり、特に、肥満やメタボリック症候群とその予備軍の人を早く発見し、治療しようということに重きがおかれるようになります。その健診を有効に活用するには、国としては、生活習慣改善のための指導やそのフォローが必要となり、それにも多くの財源が必要となります。しかし、そのくらいお金をかけても、病気になってから治療のための医療費がかかる方が国としての支出は大きいと試算しているわけです。その根拠の一つともなるような論文が発表されました。

Archives of Internal Medicine 2007年11月12日号(2007; 167(20): 2220- 2225)に発表された論文です。医療費節約の問題では日本より深刻となっているアメリカでの研究です。肥満度と避けられる入院の関係を調査分析したものです。ここでいう「避けられる入院」というのは、入院の原因となる疾患のうち第一の診断名が以下のものをさします。狭心症、喘息、蜂巣炎、慢性閉塞性肺疾患、鬱血性心不全、脱水、糖尿病、壊疽、胃腸炎、てんかん大発作とてんかん性けいれん、高血圧、低血糖、低カリウム血症、免疫のつけられる疾患、腎泌尿器感染症、肺炎、虫垂炎破裂、耳・鼻・のどの重症感染症などです。

調査は、25〜74歳の6,833人を1971年から20年間にわたり追跡調査しました。その期間中に1,023人が前述の「避けられる入院」をしていました。この避けられる入院と対象者の肥満度との関係を検討しました。肥満度はBMIを用いました。BMIは、体重/(身長(m)x身長(m))で計算され、標準は22とされており、25以上は肥満とされています。この論文ではBMIが30以上の人について特に調査しています。

その結果、BMIが30以上の人は、BMIが正常の人と比べて、避けられる入院のハザード比は、25〜44歳では1.82、45〜64歳では1.29、65歳以上では1.46というように、肥満の人ほど避けられる入院が多かったという結果でした。また、若いときの肥満度に特に着目しており、25歳の時点でのBMIが30以上の場合、調査開始時45〜64歳の人たちの避けられる入院のハザード比は1.91、65歳以上の人たちでは1.87でした。

これらの結果に基づき、論文の著者らは、治療を外来で長く続け、医療財源を圧迫しないようにするために、若いときの肥満に特に重きをおいて生活指導などの介入を行うべきだと述べています。

日本の場合、医療事情はアメリカとは異なりますので、日本でも同様のことは言えるのかはわかりません。上記の「避けられる入院」の疾患の中には、予防薬の投与や治療をちゃんと受けていれば、あるいは、早く病院に行けば入院しなくて済むような、肥満とは関係ない病気も含まれていますので、このデータだけから肥満を何とかすれば医療費は削減できると言ってしまうのは乱暴かもしれません。他の論文でも同様のことが報告されていて、アメリカでは、肥満による医療費の超過分は年間470億ドルになるという試算もあるそうです。そのようなことから肥満やメタボリック症候群を国として何とかしようという流れとなっているのですが、日本はアメリカと違って、今のところ国民皆保険制度により風邪や軽い症状でも医療機関を受診することができます。このことは大変重要ですし、日本の医療のよいところだと思います。上記の避けられる入院も、皆保険なら入院を避けられたという面もあるでしょう。つまり、日本で同様の調査を行ったら、結果は少し違うものとなるでしょう。確かに、食事、運動などの生活習慣の改善によってBMIを減らすと、糖尿病、高血圧、高脂血症などの発症予防や改善につながることは多くの研究から明らかです。

来年から始まるメタボリック健診や、今年すでに始まった健診での腹囲測定の目的にはこのような背景があります。個人レベルでも肥満の解消は多くのメリットがありますので、BMIが大きい方は、食事や運動などの生活習慣の見直しを是非してみてください。

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