飲む小腸カメラ

8月1日、アメリカFDAは小腸を映すCamera Pill(飲む小腸カメラ)を認可したことを発表しました。この新しい医療技術について、私が調べられた範囲でご紹介したいと思います。


これは全く新しい技術による画期的な小腸カメラといってよいと思います。
正確なサイズについては記載がなくわかりませんが、開発元のGiven Imaging社(こちら)やCNNのホームページに載っていた写真によると単4電池の長さを半分にしたくらい、あるいはカメラに使う電池くらいと言ったらいいでしょうか、そのくらいの大きさのものようです。
これを患者さんが飲み込み検査が始まるのです。秒2コマで撮影を行い(FDA Talk Paper, August- 1- 2001)、画像は腰に巻いた受信機に送られ保存されるそうです。その受信機については“ウォークマンのよう(Reuters Health Information 2001-01-18)”な物だそうです。
このカメラのバッテリー駆動時間は8時間となっています。この間患者さんは日常の活動をしてよいのだそうです(Given Imaging社ホームページ)。もっとも食事はとれないと思いますが。そして8時間後、患者さんは病院に戻り、腰につけた受信機をはずし、医師はそこに保存された画像を静止画像または30分のビデオ画像に取り込むということだそうです。
気になる費用はコンピューターワークステーションが2万ドル、小腸カメラ一つが450ドルだそうです(CNN.com HEALTH)。


この装置は小腸を見るのが目的の装置のようで、残念ながら胃カメラの代わりになる物ではないだろうと思います。実際小腸を内視鏡で見なければならないケースはそう多くはありません。しかし、まれに、小腸から出血が続いて貧血の原因となるようなことがあります。その場合は診断には小腸内視鏡が必要となります。しかし、小腸は胃の先にある約6メートルの管なので、その小腸を内視鏡ですべて観察することは不可能です。ですから、このようなカメラは小腸病変を探すときには力強い武器となるはずです。実際、20例の患者さんに検査を行ったところ、従来の方法(内視鏡)では35%しか小腸の異常を発見できなかったのに対して、この小腸カメラによって60%が発見できたそうです。また、57人の健常者に行い、安全性を確認しているそうです(CNN)。New England Journal of Medicine誌にも4例の小腸病変の診断に有用であり、また、病変の位置も確認できたことが報告されています(NEJM 344, 232-233, 2001)。


このようなカメラで胃の検査もできたら、と胃カメラでつらい思いをした経験のある方なら誰でもが思うことでしょう。しかし、胃となるとちょっと難しいだろうと思います。
胃は内側にたくさんの襞(ひだ)を持ち、普段は小さくしぼんだ状態で、食べ物や飲物が入るとふくらむようになっています。胃カメラの検査の時には胃の中に空気を送り込み、胃を膨らませて胃の中を観察します。襞の間に病変が隠れないようにするためです。胃の内側の襞や胃の大きさには個人差があるので、検査をする医師は胃の膨らみ具合を観察しながら送り込む空気の量を調節して検査を行っています。


今回発表されたカメラでも胃の検査が行われ、その画像もホームページに公表されています(こちら)。患者さんに苦痛を与えることなく胃に空気を送り込む技術が確立されればよりよい胃の検査ができることでしょう。将来、胃の検査は、病院で予約をとり、(あるいは病院にも行かずにインターネットで検査を申し込むことも可能?)、渡された、あるいは郵送されてきたカメラを注意書きに従って飲み込み、受信機に記録された画像ファイルを再び病院に郵送、またはインターネットで転送する。すると数日後に結果が送られてくる。そんな方法も技術的には可能かもしれません。
もちろん、患者さんの症状を聞き、診察をして、検査について十分な説明をし、結果についても時間をかけて説明することが大切なことは変わらないでしょう。しかし、科学技術の進歩によって、検査による苦痛や、時間の拘束などが大幅に軽減されることを期待したいと思います。

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