白内障手術により高齢者の交通事故が減少

白内障手術を受けた高齢者と受けなかった高齢者とを比べると、手術を受けた人の方が交通事故を起こす率が少ないという調査が報告されました。米国医師会雑誌8月21日号(JAMA 2002,; 288: 841- 849)に掲載されたものです。

白内障というのは、目の水晶体という、カメラでいえばレンズにあたる部分が濁ってしまう病気です。これはある程度高齢者になると避けて通れないところもあり、アメリカでも65歳以上の半分は白内障を持っていると言われています。

一方、最近は紅葉マークがあるくらい我が国でも高齢者のドライバーが増えています。そうなると白内障を持ったドライバーも増えることになり、事故の危険性は大丈夫だろうかという心配がでてきます。今回の調査は、白内障の手術を受けた人と受けなかった人を比べて交通事故を起こす頻度に差があるかを調べたものです。

55歳から84歳までの277名の白内障の患者さんを登録し、4〜6年間フォローしました。174名の患者さんは白内障手術を受け、103名の患者さんは手術を受けませんでした。

その結果、調査期間中に事故(警察に報告された衝突事故、police- reported motor vehicle crash)を起こした件数は、手術を受けた人たちでは27件、受けなかった人たちでは23件でした。件数では手術を受けた人たちの方が多いのですが、走行距離が違い、前者はマイル、後者はマイルでした。走行距離で計算すると、100万人マイルあたりの件数では前者は5.77、後者は8.95となりました。さらに手術前の段階で視力も異なりますのでそれをあわせて計算すると、相対危険は0.47。つまり、”手術を受けなかった人たちの事故を100件とすると、そのうち47件は手術を受けていれば防げただろう”という計算になるというのです。

しかし、ここで、手術を受けた人と、受けなかった人たちの間では、交通安全に対する意識が違うのではないかとか、夜間走行が多いのではないかなどの疑問もわきます。それらの点について、この論文の著者らは、シートベルトの着用、スピード、夜間走行の時間などを勘案して統計処理しても、やはり同様の結果となっており、事故が少なかったのは手術の効果であろうと結論づけています。

白内障手術というのは、濁った水晶体を人工のレンズに取り替える手術です。最近は手術器具も進歩し、外来でも行う医療機関が増えています。手術を受ければ視力が若いときと同じように元通りになるわけではなく、矯正のための眼鏡が必要になったりする問題はありますが、濁りがとれて明るくなることは確かなようです。

医学の研究にも変化が見られます。治療によって検査値が正常になるとか、合併症を防ぐことができるとかといったデータだけでなく、このように日常生活に密着したデータが示されるようになりました。このようなデータは、今回のものが初めてで、このデータだけで、白内障の手術を受けていない高齢者の運転は危険だなどと判断することは正しくないと思います。今後さらに調査が進み、手術のメリット、デメリットが示されるようになれば、治療を選択する上で大きな参考となることと思います。このようなデータが発表されたらこのHPでも紹介していきたいと思います。

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