携帯電話と脳腫瘍?

アメリカの医学雑誌New England Journal of Medicineの2001年1月11日号に掲載予定の記事が、公共への情報としての重要性からインターネット上で先行公開(こちら)されました。心配するような結果ではありませんでしたが、ここに簡単に紹介します。

この研究では、1994年から1998年にかけて、脳腫瘍で入院した患者さんからの聞き取り調査を行っています。電話の種類(いわゆる携帯電話、自動車電話、本体とバッテリーが別のタイプのものなど)、携帯電話を使うようになってどのくらいたつか、一日にどのくらいの時間携帯を使うか、どちらの手で携帯を持つか、などについて調べ、携帯電話の影響を検討しています。脳腫瘍といっても比較的良性のものと悪性のものがあり、良性の脳腫瘍の患者さん(799人)と、悪性の脳腫瘍の患者さん(782人)とで比較を行い、悪性腫瘍の発生と携帯電話使用との関連があるかを検討したわけです。

結果は、携帯電話の使用に関して両者の間に差はなかった、つまり、悪性の脳腫瘍の患者さんには、携帯電話を使っていた人が多かった、というような結果にはならなかったということです。また、脳腫瘍の発生した側と携帯電話を持つ手の側との間にも関係はありませんでした。

以前から、携帯電話が発生するマイクロ波の健康への影響が懸念されてきました。動物実験ではDNAの損傷が見られたとする報告(Int J Radiat Biol 1996; 69, 13-21)もあることから、発ガンの危険性も指摘されていますが、この論文を含め、他の報告(Int J Oncol 1999; 15, 113-116)でも今のところ、ヒトでは発ガンその他の健康被害との関連が明らかになったという報告はないようです。携帯電話から発生するマイクロ波は、体内に入ると減衰し、皮膚から5センチの深さでは表面の10%以下に減衰するといわれています。従って、最も影響を受けやすいところがあるとすれば脳であり、それも携帯を持つ側の脳だろうということになるわけです。そこでこのような研究が行われたわけですが、悪性の脳腫瘍の発生と携帯電話の使用との間には関連はないという結果でした。

携帯電話を常用している者としてはとりあえずはひと安心といえるかもしれません。しかし、この論文の著者らも述べているように、長期間使った場合や、一日何時間も使うようなヘビーユーザーについては、健康への影響は不明というです。

人との連絡が手紙が中心だった時代には考えられない心配事かもしれません。便利なモノが増えましたが、使用は常識的な範囲にしておくのが無難でしょう。

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