私の大腸内視鏡体験

今年(平成14年)夏休み期間中に大腸内視鏡検査を受けました。そのときの体験をまとめました。これから検査を受ける人の参考になれば幸いです。

きっかけ

ちょっと恥ずかしい告白だが、もともと私には痔があるらしい。ずいぶん前からあるように思うが、痛みもなく、たまに出血することがある程度で、それもたいていは1日ですんでしまう。だからほとんど気にはなっていない。今年(平成14年)5月にも同様の出血があったが、やはり1日でおさまった。

患者さんだったら・・・と考え

このときふと考えた。もし、患者さんから同じ症状で相談を受けたらどうするだろうか。こんな風に言っただろう。
”おそらく痔によるものでしょう。念のため診察しておきましょう。”と、そして直腸診をしたかもしれない。そして、”痔は確かにあるようですし、ここからの出血でおそらく間違いないでしょう。指で直腸の診察をしてみたところ、がんもないようです。大腸にできるがんの50%は直腸、つまり今指で診察できた範囲に出きるといわれています。ですから今回の出血は痔によるものの可能性がさらに高くなったわけですが、痔からの出血だと思っていたら、実は大腸がんだった。ということもまれにはあることなのです。ですから、おそらく心配はないと思いますが、念のため大腸の検査を受けてみてはどうでしょう。”こんな風に説明しただろう。
そして、”ちょうど40歳という節目の年ですし、お父様も大腸がんを克服したことがありますよね。一度受けてみてはどうでしょう。”と付け加えたかも知れない、と思った。

それに、一度検査というのも受けてみたい、という気持ちもあった。患者さんに検査を勧める以上、一度自分も受けておきたいという気持ちがあった。

いつ検査を受けるか

検査は急ぐこともないのでお盆の休み中を選んだ。それもあって、今年は1週間お盆休みをとることにした。8月17日土曜日、順天堂で受けることにした。その日は、同級生で信頼できるT医師が検査を担当することもわかっていたからだ。Tの検査はすぐに予約が埋まってしまうが、さすがに2ヶ月先なら大丈夫だった。時間は朝イチの9時を選んだ。深い意味はない。ただ早く終わりからというだけにすぎない。

木曜日の順天堂での外来診療が終わった後、自分の検査のために必要な採血を受けた。B型肝炎、C型肝炎、梅毒、エイズウイルスを持っていないかを調べるためだ。これらがあると、検査を受けられないわけではないが検査後の器具の消毒などに影響があるためだ。前日から服用する薬も処方した。薬を持ち帰り、自宅の机のすみに置いた。その薬は2ヶ月間、そこでほこりをかぶることになった。

検査前日

いよいよ検査前日となった。この日もお盆休み中なので気は楽だった。大した緊張感もなかった。まず朝から毎食前に飲む薬があるのを忘れてはいけない。そして食事の内容にも注意が必要だ。形が残るようなものはとってはいけない。海草、豆など繊維の多いもの、肉類もひかえるように指導されている。

朝、食前薬を一錠飲んだ。朝食はパン、ヨーグルト、チーズ、梨だった。実はチーズはとってはいけないものになっていた。昼からは注意しよう。

朝の食前薬を飲んだためにおなかの具合が気になっていたが、特に変化はなかった。患者さんによってはこの薬だけでかなり便通が促進されるそうだが、自分の場合はそうではなかった。

昼食は13時頃とった。親戚のおばさんが作ってくれた赤飯があった。小豆が入っているので検査前には好ましくないが、よく噛んで食べることにした。食事中、食前薬を飲むのを忘れたことに気づいた。あわてて服用。食後何となくおなかはゴロゴロする。いつもとは確かに少し違う。便意を催すほどではないが、トイレで座れば少しは出そうな感じだ。外出することになっていたので、出かける前にトイレに行ってみたらやはり少し排便があった。その後は違和感はない。

夕食、豆腐、刺身などを食べた。また食前薬を飲み忘れた。あわてて服用。

食前薬というくせ者:患者さんにはよく食前の薬を処方している。どうしても飲み忘れるという患者さんがいるが、理解できる。何かいい工夫が必要だ。患者さんによっては、昼の弁当箱に薬を貼り付けたり、食事の準備の時、ハシと一緒に置いたりして忘れないようにしている人もいる。良いアイデアだと思う。

夜は病院の近くのビジネスホテルに泊まることにした。当日の朝のことを考えそうすることにした。入院して受ける患者さんもいるくらいだから決して大げさではないだろう。

家を出る前にもう一度トイレに行ってみた。少量の排便あり。家族に送られ夜の京浜東北線に乗り込んだ。夜8時にチェックインし、すぐに8時に飲むことになっているコーラック3錠を飲んだ。3錠はちょっと多い気がしたが、中途半端で検査に影響するのも困るので素直に飲んだ。眠くなるまでこの原稿を打つことにした。

夜中のゴロゴロ

夜11時就寝。おなかは何となくゴロゴロして安眠できない。

午前1時、便意を感じ覚醒。夜8時のコーラックが効いてきたようだ。立ち上がるときふらつく。これは高齢者では要注意だ。排便後は落ち着き、再び就寝。しかし一度目が醒めるとなかなか眠れないものだ。

検査当日

4時30分起床

検査の4時間前にニフレックという下剤を飲むことになっていたので、5時には飲む準備ができていなければならない。4時30分に起きて、顔を洗い、ひげを剃り、準備を整えた。

4時55分、決められたニフレック1リットルを飲む。塩水のような味。はじめてポカリスエットを飲んだときに感じたような味か。聞いていたほどまずくはない。説明書によれば、30分間で1リットル飲み、その後10分間で200mlずつ飲むことになっている。1時間くらいで排便が始まるらしい。

起きたときに少々便意あり、5時5分、排便。これはコーラックの効果だろう。

5時25分、5時35分、5時45分、と10分おきに200mlを飲んだ。

5時47分、排便あり。どのくらい出たかは不明だが、完全に水様便である。最初の1リットルを飲んでから50分後。だいたい予定通りだ。おなかはキリキリ痛むというようなことはない。オナラが出そうな感じがしてトイレに行くと水がシャーッと出るという感じだ。

5時55分、200ml服用。

二度目の水様便。

6時5分、最後の200mlを服用。

朝のニュースを見ていたが、6時30分頃から仮眠をとることにした。そのくらいの余裕はあった。7時10分頃おなかが張って目覚め、トイレに行った。7時45分頃にもう一回行って、それが最後となった。結局ニフレックを飲んでから排便は計6回。”滝のように出る”と聞いていたので、それほどでもなく、ちょっと拍子抜け。

8時20分、おなかは少しゴロゴロしているが、トイレに行っても出そうにはないので出発することにした。

受付8時40分

病院に入り、検査室の受付に名前を告げ、診察券と予約票を出した。問診票を渡され、記入するように指示される。麻酔薬のアレルギーや、現在治療中の病気や常用薬について、検査に使うブスコパンという注射を使えるかどうかについての質問だ。

待つこと約15分。看護婦さんに名前を呼ばれ、ロッカーを案内される。貴重品などはその中に納めるよう指示された。

そのとき、”セデーションは大丈夫ですか?”と聞かれた。どうやらこちらがドクターであることはわかっているらしい。カルテを見れば職員ということは書いてある。セデーションというのは検査中の緊張をほぐすために使う鎮静剤のことだ。内容を聞いたらサイレースとオピスタンということだった。前者は睡眠導入剤だが、主に麻酔前投薬として使われる。後者は麻薬に分類される薬だ。夕べ眠れなかったので、注射されたら熟睡してしまうかもしれないと言った。

着替えを終え、指示されたいすに座って待った。後輩の消化器内科の医師に声をかけたが、私が検査を受けるのでびっくりしていた。

スリッパに履き変えるのを忘れているのを看護婦さんに指摘された。やはり少し緊張しているのかもしれない。

待っているとTが入ってきた。私の検査があるのはすっかり忘れていたようだ。無理もない、彼と話をして予約をとったのは2ヶ月も前だ。聞くと今週はドクター関係の検査が多いのだそうだ。やはりお盆休みを利用して健康チェックを受けるドクターが多いということか。

看護婦さんから連絡がいっていたと見えて、再びTからも鎮静剤のことで確認された。結局サイレースだけ使うことになった。患者さんの状態で前投薬まで変えるのはよいことだと思った。座って待っていると別の女医さんにより問診の確認がされた。既往歴、家族歴、ブスコパンを使えるかなど再確認された。

いよいよ検査台へ

検査室担当の看護婦さんに検査室に誘導された。検査台に仰向けに寝た。台は看護婦さんが足でレバー踏むと上がるようになっている。

Tと先ほどの女医さんが入ってきた。”さあ、安藤君、始めようか”と元気のいい独特の口調は学生の頃から変わらない。

左横を向くようにいわれた。女医さんによって左腕に点滴が刺された。全く痛みは感じなかった。点滴を刺すのもがうまかったのだろうが、これからの検査の痛みの方が大きいだろうと思っていたこともあるかもしれない。

点滴のルートからブスコパン、サイレースが投与された。サイレースが効いて寝言でも言うんじゃないか心配だった。”変なこと聞かないでくれよ”などと冗談を言って笑った。

思っていたほど眠くなることもなく、検査は始まった。

検査開始

局所麻酔剤の入ったゼリーを肛門に塗り、指を挿入された。ゼリーを塗るためもあるだろうが、肛門部の緊張をほぐし、病変がないか指でまず確認するためでもあるのだろう。

ファイバーが挿入された。S状結腸のあたりで少し手間取った。このときは少し痛かった。緊張して腹筋に力が入るとよけいよくないのだそうだ。どうもそうなっていた。力を抜いておなかを押さえたりして通過できた。するとすぐに回盲部、つまり大腸内視鏡の終点まで到達した。あとは戻しながらの観察となる。ディスプレーをみながら、自分でも確認できた。しかし、Tは、大学に残っている同級生が少なくなったことなど話しながら終始リラックスした雰囲気で検査をしてくれた。最後に出口のところで痔があることを確認して検査は終わった。幸いポリープやがんは見つからなかった。

点滴を抜く前にアネキセートという薬が投与された。サイレースなどベンゾジアゼピン系の薬の中和剤だ。なるほどこれで薬の効果が遷延するのは防げるだろう。

しかし、検査台から降りるときはまだぼーっとしていて看護婦さんに手を支えてもらった。Tがいうには今度やるときはオピスタンも使った方がS状結腸のところの通過は楽だと思うよ、とのことだった。今回でも十分楽に受けられた方だと思うが、次回はそうしよう。検査が終わったのは多分9時25分頃だったように思う。ファイバーが入っていたのは正味10分くらいだろうか。

検査後は安静室で寝ているように言われた。

検査後

1時間ほどたった10時30分、看護婦さんに起こされた。以前整形外科病棟にいた、顔を知っている看護婦さんだった。まだぼーっとしていたが、起き上がり、着替えた。おなかはまだ張っていたのでトイレに行ってみたら、かなりガスが出て楽になった。検査室で消化器内科の後輩に声をかけられ返事をしたがボーっとしていてろくに話はできなかった。病院の1階で会計を済ませた頃にようやく目はさめてきた。

腹が減ってきた

病院をあとにして、朝食を食べようと思ったが、おなかは減っているが何となく張っていて、食べたあとが不安だったので、本郷三丁目のマクドナルドに行った。ミニパンケーキとコーヒーを頼んだ。ハンバーガーを食べる勇気はなかった。腸を刺激するんじゃないかと思ったからだ。私の記憶違いか、ここのトイレにはウォシュレットがあったと思ったが残念ながらついていなかった。しかし、幸い問題はなかった。ここでもガスが出てだいぶ楽になった。

最後の排ガス

昼過ぎに家に着いて、もう一度トイレに行き、ガスが出た。これで検査の影響はほとんどなくなった。夜には肉もご飯もしっかり食べることができた。

まとめ

検査の前処置、検査中のことをまとめるとこうなります。これはあくまでも私の場合で、人によってかなり違うと思います。

行ったこと 結果
毎食前の薬を飲む 昼、夕食後にも排便あり
夜8時に下剤のコーラックを飲む 夜10時頃からおなかがゴロゴロ
夜中1時に便意を催し目覚める、排便あり
朝5時にも排便あり
朝5時(検査4時間前)ニフレック2リットルを飲む 5時50分より水様便の排便が始まる
水様便は7時45分頃まで計6回出た。それ以後は、おなかはやや張ってはいたものの落ち着いていた。
特に腹痛はない。
検査前に鎮静剤を注射 思ったほど眠くはならなかったが、検査後歩くとぼーっとしていることに気づいた
左横向きでファイバーが挿入された 特に痛みはない
S場結腸のところでちょっと手間取る 体の向きを変えたり、看護婦さんがおなかを押さえたりして通過
S場結腸をすぎたらすぐ回盲部に到達(挿入してから3分くらいか) 左横向きで寝ていればよい
回盲部からファイバーを戻しながら全結腸を観察 左横向きで寝ていればよい
検査終了、安静室で休む 1時間ほど眠る

終わってみて感じたこと、医療従事者として

検査を受ける人の緊張

今回私の場合は、自分で検査を受けてみようと思って受けた。下血の原因は痔によるものであることもほぼ確信していたので、不安はゼロではなかったがほとんどなかった。しかし、患者さんの場合、医師から、”おそらく痔によるものだと思うが念のため検査を受けては、”と言われても、”先生は本当はがんだと思っているんじゃないだろうか”、などと疑いを持っても不思議ではない。また、検査自体についての不安も大きいだろう。検査台に上がって次は何をされるのか、ということがまったくわからないのだから相当不安になるだろう。それに加えて結果についての不安もあればさらに大きい。私の場合、父の大腸がんは再発することもなかったが、もし家族に大腸がんで亡くなった人がいるような場合は不安はさらに大きくなるだろう。その点は自分でも経験してみてよかったと思った。

検査の必要性についての説明

検査をする以上結果を伴うわけだし、結果が悪いということもありうるわけだから、不安なく受けるということは無理だと思うが、余計な不安を減らすために、十分な説明が必要だろう。たとえば下血の原因が大腸がんである可能性は何%くらいあるのか、検査にかかる時間は平均何分くらいかといった具体的な数字を挙げることもよいかもしれない。

検査室の対応

最初の受付から看護婦さんの説明など、とても丁寧で見習うべきものがあった。予約が9時で、8時40分頃についたので待たされたという感じもなかった。胃内視鏡の説明のビデオを流していたがこれは患者さんにとってはいいかも知れない。検査室のフロア内にもトイレがあり、ウォシュレットもついていて、これは助かると思った。ちょっとしたわからないことも、誰に聞いていいかわからなくて困ったというようなこともなかった。

説明を受けるとき

検査前、ロッカーのことを説明され、その後安静室のベッドに案内され、着替えのことを説明されたが、この頃には多少緊張してきたのだろう。説明は聞いたつもりでもスリッパに履き替えるのを忘れるなど、上の空のところがあった。看護婦さんもこちらが医者だということであまりしつこく説明はしなかったのだと思うが、何度も念を押すように説明したほうがよいのだろう。

検査のつらさ

検査そのものは、S状結腸のところを通過するときの痛み以外はまったくなく、つらいという感じはなかった。時間も思っていたよりずっと短かった。この点は、検査をしてくれたTの技術によるところが大きいと思う。最近では大腸内視鏡も多くの施設で行われるようになったので、施設間での技術的な差は小さくなっているものと思う。

前処置

前日の毎食前に飲んだガスモチンと、夜8時に飲んだコーラックのおかげで、朝ニフレックを飲む前には便はほとんど出てしまったように思う。ニフレックを飲んでからの便は完全に水様性になっていた。ニフレックを飲んでからの排便も思ったほどつらくはなかった。おなかをこわして下痢をしたときのような痛みはまったくなかった。今回、私の場合、検査前日も休みだったが、これなら前日に仕事はできそうだと思った。

家からの距離

夜は病院の近くに泊まったが、それでよかったと思った。病院までの距離も、歩いて10分程度だったので楽だった。うちから受けに行ったとすると、病院までは電車で1時間かかる。検査は9時からなので8時前に家を出なければならない。8時にはまだおなかの方はすっきりはしていなかった。その時間に電車に乗って出かけるのにはちょっと不安がある。オナラのつもりでも水がシャーっと出る感じで出てしまう。前日はできるだけ近くにいたほうがいいだろう。家の近くで受ける場合も、歩いて20分以上などとなるとその間に腸が動いてつらくなるかもしれない。車で移動したほうがいいだろう。

今回、検査の中では比較的大変な検査を受けるという貴重な機会を持てた。この経験を通じて患者さんへの説明などに役立てていきたいを思う。

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