血液中のコレステロール値の季節変動について

血液中のコレステロール値は動脈硬化の発症と深い関係があり、検査の結果コレステロール値が高ければ治療が必要となります。しかし、結果が予想より高ければもう一度測ってみて欲しい、と思うのは誰しも同じでしょう。多くの場合、測り直してもあまり変わらないのですが、変動が見られる場合もあります。短期間に食事療法の効果が認められた場合、運動療法の効果が見られた場合、などがありますが、季節変動という現象もあるのです。

コレステロール値に季節変動があることは以前から指摘されていました。それまでの報告では、高コレステロール血症の患者さんについて検討され、春、夏に比べ、秋、冬の方が高くなるということが指摘されていました。季節間の気候変化の大きいフィンランドの報告では、季節間のコレステロール値の変化は大きい場合100 mg/dlにもなる、ということも言われています(Lancet. 1958,: 2:175- 178)。

冬のコレステロール値が高くなるのは、クリスマスシーズン(日本では忘年会、正月)で、食べすぎて、寒くて運動不足にもなるからだろう、と私は考えていましたが、どうもそれだけではないようです。今回発表された論文(Archives of the Internal Medicine 2004; 164: 863- 870)は、健常人のコレステロール値の変動について検討し、食事内容、運動量などについても検討した結果、新たな事実が判りました。また、論文の著者らは、冬場のコレステロールだけ見ると高コレステロール血症を過剰診断するおそれがあることも指摘しています。

調査の対象となったのはマサチューセッツ州在住の517名の健常人。データがとれたのは、男性244名、女性232名でした。3ヶ月ごとに血液中コレステロール値などの血液検査、身長、体重、ウエスト、ヒップ周径を測定し、食事内容、運動量、日照時間などについても検討しています。

その結果、男性244名の平均コレステロール値は、222mg/dl、季節間変動は3.9mg/dlで、12月が最も高く、女性232名の平均コレステロール値は、213mg/dl、季節間変動は5.4mg/dlで、1月が最も高い、という結果が出ました。季節間の変動は、コレステロール値の高い人ほど大きい傾向があり、男性より女性で大きい傾向がありました。

季節変動の原因ですが、季節ごとの摂取カロリーも調べていますが、季節間で差はなく、つまり、食事とは別な要素が関連していることが示唆されます。運動量は夏の方がやや多い傾向はありますが、それだけでは説明がつかないと言うのです。論文の著者らは血液中のヘモグロビン値、相対的血漿量に着目しました。その結果、血漿量が季節間のコレステロール値の変動に関連があると指摘しています。どういうことかというと、血漿量は、気温、運動量などの影響で変化し、夏は多くなります。それが血液中のコレステロール値の季節変動に関係があるだろうというのです。

また、興味深い試算も示しています。アメリカでは、成人の29%、5200万人が高コレステロール血症とされています。一年間に均等に診断されているとすると、冬場に高コレステロール血症と診断される人は1300万人になるわけですが、上述したような季節変動を考慮すると、冬場に診断された高コレステロール血症の人の22%、つまり286万人は過剰診断である可能性があるとも述べています。

確かに、そのような現象は、患者さんの検査結果を見ていても気づくことがあります。ですから、コレステロール値がちょっと高いというだけですぐに薬を使うのは、避けなければいけないのだろうと思います。しかし、一方、高コレステロール血症を放っておいて脳梗塞や心筋梗塞になっている人がいることも事実です。さらに、閉経後の女性の場合、年々コレステロールは上がる傾向があります。検査の数字だけでなく、家族歴、栄養状態、運動能力なども考慮して診断し、もっとも適切な治療を考えていきたいと思います。

ホームへ