コーヒーと心筋梗塞の関係、実は遺伝子も関与

コーヒーの摂取量と心筋梗塞の発症率の関係については今まで多くの議論がなされてきました。多くは、コーヒーをたくさん飲む人ほど心筋梗塞の発症率が高い、というものでした。しかし、コーヒーに含まれる化学物質であるカフェインがその主な要因なのか、あるいは、コーヒーをたくさん飲むような人の生活習慣(夜遅くまで働くような人が多く、運動不足や食生活に問題がある?)が要因なのか、といったことははっきりしませんでした。今回発表された論文では、カフェインを分解する酵素の活性に注目し、カフェインとの関連をより明確にしたものです。

Journal of American Medical Association 2006年3月8日号(2006, 295, 1135- 1141)に発表されたものです。コスタリカにおける研究結果です。

カフェインには、覚醒作用があり、眠気を覚ましたりする働きがあるため、カフェインを多く含む飲み物としてコーヒーは、もっともポピュラーな嗜好品といってよいでしょう。カフェインは身体の中で分解されるのですが、それは、肝臓にあるチトクロームPという酵素が関係しています。その中でも特に、チトクロームP1A2という酵素がカフェインを分解します。このチトクロームP1A2の働きは、人によって、強い人と弱い人があり(ちょうどお酒の強い人と弱い人があるのは、アルコールを分解する酵素の働きが強い人と弱い人があるのと同じです)、それは遺伝子によって規定されています。それは特殊な検査で調べるとわかるのだそうです。その方法で、カフェインの分解酵素が強い人をrapid caffeine metabolizer、カフェインの分解酵素が弱い人をslow caffeine metabolizerと呼びます。

この研究では、1994年から2004年にかけて、心筋梗塞を起こした2014名と、起こしていない2014名(男性74%、平均年齢58歳)について、コーヒーの摂取量と、カフェインの分解酵素の強さとを調べ、心筋梗塞の発症との関連について検討しています。

心筋梗塞を起こした人たちの55%、起こさなかった人たちの54%はカフェイン分解酵素の弱い人たちでした。コーヒーの摂取量を(A)1日1杯以下、(B)1日1杯、(C)1日2〜3杯、(D)1日4杯以上の4グループに分けました。カフェイン分解酵素の弱い人たちだけで調べると、心筋梗塞を起こす危険率はA群を1.00とするとB群0.99、C群1.36、D群1.64となり、コーヒーの摂取量と心筋梗塞の発症率に相関が見られました。一方、カフェイン分解酵素の強い人たちで調べると、それぞれ、B群0.75、C群0.78、D群0.99とコーヒーの摂取量との間には相関は認められませんでした。この傾向は59歳以下の人たちだけで調べるとさらに顕著だったということです。

この結果から、コーヒーの摂取量と心筋梗塞の発症率との相関は、遺伝子によって規定されるカフェイン分解酵素の強さも関与することと、コーヒー摂取量と心筋梗塞の発症の相関を決めるもっとも大きな要因は、カフェインの作用であるということがいえる、と論文の著者らは述べています。

となると、カフェインを多く含むほかの嗜好品ではどうなのかという点が気になってきます。紅茶、緑茶、ウーロン茶などはどうなのでしょうか。これまでの報告では、紅茶を多く飲む人の方が心筋梗塞になりにくいとか、心筋梗塞後の死亡率が低い、といった報告もあり、それらでは、紅茶に含まれるポリフェノールが関与しているのではないかと推測されています。しかし一方で、それほどの関連はないとする報告もあるようです。この点は今後の研究成果が待たれるところです。

また、この論文の著者らの意図するところではないかもしれませんが、自分のカフェイン分解酵素の活性はどうなのかという点も調べてみたくもなります。分解酵素の活性が強ければ、たくさん飲んでも大丈夫、と考えたくなります。しかし、それは簡単に調べられるものではありませんし、コーヒーの飲み過ぎは胃にもよくありません。いずれにしても、嗜好品といわれるものの摂取量は、ほどほどがいいということなのかもしれません。コーヒーばかりでなく、紅茶、緑茶、ほうじ茶などいろいろなものを飲むようにして、一つの嗜好品に偏らないようにするのがよいのではないかと思います。

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