高血圧の食事療法、減塩以外にも重要なこと
高血圧の食事療法には減塩が重要なことが知られています。一日の塩分摂取量を一日7g程度とすることが目標とされています。塩分摂取量は少なければ少ないほどよいのですが、日本人の食習慣に照らし合わせてこの目標値は考え出されたもので、いわば妥協案ともいえる数字です。さらに、塩分以外にも重要な要素があります。それは、肥満にならないようにし、アルコール飲用は控え、カリウム、マグネシウム、カルシウム、食物線維を多くとり、 コレステロールの少ない食事とすることなどです。どうしてこのようなことがいわれているかというと、以下のような疫学的調査などが根拠となっています。
1)塩分摂取量の多い民族(戦前の東北地方の人々など)では高血圧が多い。
2)ブラジルのインディアン(ヤノマモ族)は塩分を全くとらない食生活をしているが、血圧が非常に低い。
3)菜食主義者には血圧が低い。
4)大量にアルコールを飲む人は血圧が上がる
5)高血圧の人には肥満タイプが多く、体重を減らすことにより血圧も下がる。
などです。さらに、動物実験やヒトでも研究が重ねられ上記のような食事の効果が期待されているわけです。
では、実際にそのような食事をすると血圧は下がるのでしょうか。最近、欧米でそのような研究成果が続々と発表されています。そのうち最も新しい論文をちょっとご紹介しましょう。
New EnglandJournal of Medicineの2001年第1巻の最初のページに掲載された論文です。21世紀最初の掲載論文が食事療法に関するものというのは、これからの医学は薬物療法ばかりではないことを示唆するもののような気がします。
さて、この研究では、412名を対象に食事療法の効果を検討しています。まず、欧米の普通の食事の第1グループと”高血圧予防食(DASH食、後述しますが、減塩食ではありません)”の第2グループの二つに分け、さらに塩分量についても3段階に分けました。塩分量は高塩分量は一日8.7g、中塩分量は5.8g、低塩分量は2.9gをそれぞれ目標としています。 二つのグループ全員に、まず2週間、高塩分量の食事をしてもらい、その後30日間、高、中、低いずれかの塩分量の食事をしてもらいました。
ここでいう高血圧予防食、DASH 食 (theDietary Approaches to Stop Hypertension)とは、果物、野菜を多く含み、脂肪を少なくしており、 穀粒、鶏肉、魚、ナッツを含み、肉、お菓子、砂糖を含んだ飲物などは少なくしてあります。これにより普通食に比べて、総脂肪や飽和脂肪酸は少なく、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物線維、蛋白は多くなっています。
この研究でわかったことは、普通食でもDASH食でも、塩分を減らすと、血圧がもともと正常の人でも高血圧の人でも血圧は下がり、塩分は低ければ低いほど血圧も下がるということと、減塩にさらにDASH食を組み合わせると血圧はさらに下がるということです。普通食で高塩分のままの食事(要するに普通の食事)に比べ、DASH食で低塩分の食事を30日間続けると、収縮期血圧が、血圧正常の人では7.1、高血圧の人では11.5低下しました。ここで言う高塩分でも一日8.7gですから、日本人にとっては充分な減塩食かもしれません。高塩分(一日8.7g)の普通食を、塩分は同じでDASH食とした場合でも(塩分8.7gのままDASH食をとり入れた場合)収縮期血圧が5.9低下しています。
ですから、DASH食のような食事も大事であることがおわかり頂けるでしょう。DASH食についてもう少し詳しく、どんな食事なのか紹介しましょう。少し前の論文ですが(New England Journal of Medicine 1997; 336: 1117-1124)、DASH食(この論文ではCombination Dietといっています)と普通食の成分を比較したものがありますので参考になるかと思います。
普通食 | DASH食 | |
栄養素 | ||
---|---|---|
脂肪(総カロリーに対する%) | 37 | 27 |
飽和脂肪酸 | 16 | 6 |
1価不飽和脂肪酸 | 13 | 13 |
多価不飽和脂肪酸 | 8 | 8 |
炭水化物(総カロリーに対する%) | 48 | 55 |
蛋白質 (総カロリーに対する%) | 15 | 18 |
コレステロール(mg/日) | 300 | 150 |
食物線維(g/日) | 9 | 31 |
カリウム(mg/日) | 1700 | 4700 |
マグネシウム(mg/日) | 165 | 500 |
カルシウム(mg/日) | 450 | 1240 |
ナトリウム(mg/日) | 3000 | 3000 |
食品(一日平均の食品数) | ||
果物、ジュース | 1.6 | 5.2 |
野菜 | 2 | 4.4 |
穀粒 | 8.2 | 7.5 |
低脂肪乳 | 0.1 | 2 |
普通脂肪乳 | 0.4 | 0.7 |
ナッツ、種子、豆 | 0 | 0.7 |
牛肉、豚肉、ハム | 1.5 | 0.5 |
鶏肉 | 0.8 | 0.6 |
魚 | 0.2 | 0.5 |
脂肪、オイル、ドレッシング | 5.8 | 2.5 |
スナック、菓子 | 4.1 | 0.7 |
このようになっています。
果物、野菜は多く、脂肪は少なく、 穀粒、鶏肉、魚、ナッツを含み、肉、お菓子、砂糖を含んだ飲物などは控える、といった食事も高血圧の治療にも大切なのです。