関節リウマチの発症と食事の関係

高血圧、高脂血症、糖尿病などのいわゆる生活習慣病では、食習慣とそれらの発病との関連はよく知られています。関節リウマチについてもいくつかの疫学的な調査が報告されており、今回、それらをまとめた論文(Journal of Rheumatology 2004年7月号, 31:p1310- 1319)が発表されていましたので紹介します。

関節リウマチの原因はいまだはっきりしませんが、遺伝的要因(体質)に環境因子が加わって起こるのだろうと推測されています。環境因子としては、ウイルス感染がとくに重要視されていますが、食事が影響している可能性も指摘されています。過去に多くの疫学的調査が行われていますが、そのなかで、比較的大規模で、データのしっかりした調査を選んでまとめたものを著者等は紹介しています。

油脂類について

魚の脂に抗炎症作用があることから関節リウマチに対する治療効果は多数報告されていますが、関節リウマチの発症との関連については、魚を多く食べていた人の方が、関節リウマチになりにくかった、という結果が2つの調査から出ています。魚の栄養分の中でも脂が関係があるのかをより明らかにするため、脂肪酸の摂取量との関連を調べた調査があります。それによると、魚に多く含まれるω3不飽和脂肪酸の摂取量が多いほど関節リウマチにはなりにくい、特にリウマチ反応陽性の関節リウマチとそのような関係が認められたそうです。魚の脂だけでなく、植物油についても調査したものがあり、ギリシャの調査ではオリーブオイルの消費量が多い人ほどリウマチになりにくかったという結果が出ています。どのくらいの差かというと、それらをあまりとらない人たちと、非常に多くとる人たちで比べると、オッズ比0.3前後、つまり、多くとっている人たちの中から関節リウマチを発症する人の割合は、あまりとらない人たちの3分の1くらい、ということになります。

コーヒー、紅茶、カフェインなど

フィンランドの、16歳以上の男女を対象とした研究で、カフェイン入りのコーヒーの消費量が多い人ほどリウマチ反応陽性の関節リウマチになりやすいという傾向が認められたそうです。一日4杯以上飲む人は3杯以下飲む人より2.2倍、リウマチになりやすい、という結果です。一方、アメリカの、55〜69歳の女性を対象としたIowa研究では、カフェイン抜きのコーヒーの消費量と関節リウマチ(特にリウマチ反応陽性)発症と相関が認められ(4杯以上飲む人は飲まない人たちの2.4倍)、カフェイン入りのコーヒーでは関連は認められなかったそうです。紅茶は一日3杯以上飲んでいた人ではリウマチの発症が少なかったというデータもありますが、症例数が少なく、評価に疑問も残ります。アメリカの35〜59歳の女性を対象としたNurse Health Studyでは、コーヒー、カフェイン抜きコーヒー、紅茶、カフェインいずれも関節リウマチ発症と相関は認められませんでした。したがってこれらの嗜好品と関節リウマチの発症には一定の結果は出ておらず、関連は指摘できないようです。

アルコールについて

オランダの研究では、アルコール摂取量が多いほど関節リウマチになりにくいという結果が出ています(全く飲まない人に比べ、3杯以上飲む人からの発症率は0.31)が、Iowa研究ではアルコールの摂取総量、アルコールの種類と関節リウマチ発症との間に関連は認められませんでした。Washington研究では、現時点でのアルコール摂取と関節リウマチ発症との間に相関はなく、閉経後女性に限るとアルコールの摂取総量が多いと関節リウマチ(特にリウマチ反応陽性)の発症が少ない(オッズ比0.7)という傾向はありました。アルコールについてもやはり一定の関連性は指摘できないようです。

果物、野菜、抗酸化ビタミン

3つの研究で、果物、調理した野菜(生野菜は除く)、アブラナ科の野菜の摂取量が多いとリウマチの発症は少ない(オッズ比0.3〜0.6)、という結果が示され、そのうち2つの研究で、果物、野菜の中のβクリプトキサンチン、カロテノイド、ビタミンCにリウマチ発症抑制効果があるのだろうと述べられています。Iowa研究ではビタミンDの摂取が多いと関節リウマチの発症が少なく(オッズ比0.72)、他の抗酸化物質、カロテノイドとの関連は認められなかったという結果が出ています。

これらの抗酸化ビタミンなどは血中濃度が測定でき、当然、抗酸化ビタミンの摂取量と関連すると考えられます。血清抗酸化βカロテン、レチノール、αトコフェロール、セレニウムなどの濃度は、リウマチ患者さんで低い傾向が認められました。フィンランドの研究では、血清中αトコフェロール、βカロテン、セレニウム濃度が低いと関節リウマチの発症率が高く、特に、抗酸化指数(血清中αトコフェロール、βカロテン、セレニウムから計算する指数)と強い相関がみられたという報告もあります。

総カロリー、蛋白摂取量、その他

総カロリー摂取量が多いと関節リウマチの発症が多い(オッズ比1.62)とか、タンパク摂取率(摂取総カロリーに占めるタンパクの比)が多いとリウマチ少ない(オッズ比0.65)といった報告もありますが、否定的な報告もあります。乳製品、繊維、シリアルでは相関は認められませんでした。

このような疫学調査の問題点

このような疫学調査では、食事の内容については本人の記憶を頼りにデータをとっていることが多く、データの信頼性に欠けることや、関節リウマチの発症率が多くないために、少数例の疫学調査ではあまりあてにならないという問題点を著者らも指摘しています。つまり、たとえば100人の調査をして、2人が関節リウマチになったとして、その2人の食事内容が他の98人に比べてどうだった、といっても偶然性を否定することができず、やはり、何万人という規模で調べたものでなければ十分とはいえない、ということが問題点ととして指摘されています。さらに、調査によって対象年齢が異なることも一定の結果が得られにくい要因なのかもしれません。また、関節リウマチといっても、リウマチ反応陽性の関節リウマチと、陰性の関節リウマチでも食事との関連性が多少異なり、病因の違いも指摘されています。

食事と関節リウマチ発症のメカニズム

魚の油、オリーブオイルなどのいわゆる多価不飽和脂肪酸には、抗炎症効果があるといわれていますので、そのため関節リウマチにもなりにくいのではないかと考えられています。

抗酸化ビタミン類については、体内の酸化的障害を抑制するといわれており、炎症を抑える効果が期待され、関節リウマチ発症を抑制したとするとおそらくそのためだろうと考えられています。

アルコール、コーヒー、紅茶、カフェインについては、上述の疫学調査も一定の結果は示されておらず、関節リウマチとの関連のメカニズムはわかっていません。

関節リウマチの予防のために・・・・

これらの結果から、関節リウマチの発症に食事は何らかの影響を及ぼしていることは考えられますが、高血圧や糖尿病などに比べると影響力は少ないようです。しかし、たとえば、近親者に関節リウマチの人が多い人や、リウマトイド因子が高値の人は、それ以外の人に比べると関節リウマチ発症の可能性が高いかもしれませんから、そういう場合、予防のために何か方法はないか、ということになるだろうと思います。そのような場合に、食事について推奨するとすると、このようなデータからは、肉より魚、動物性脂肪より植物性脂肪、特にオリーブオイルを多くとり、野菜、果物などビタミン(特に抗酸化ビタミン)の多いものをとるように心がける、といったことがあげられるでしょう。結局、生活習慣病の予防にも共通する、いわゆるバランスのよい食事がよい、といえるのでしょう。

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