高血圧の薬は、飲むのをやめてしまうとどうなるのでしょうか?

“血圧の薬は飲み始めたら一生飲まなければならないから、”といって治療の開始を遅らせてしまう患者さんがおられます。確かに、治療の目的は低い血圧を維持していき、高血圧の合併症を防ぐことですからそのためには薬(降圧剤)も飲み続けなければならないケースがほとんどであることは確かです。しかし、ある程度の期間治療し、薬を止めても血圧が上がらないケースもあることも確かです。どんな場合に血圧の薬が止められるのでしょうか、その点について調べた研究が発表されました。

オーストラリアの研究で、British Medical Journal誌2002年10月12日号(Vol325,815‐820)に発表されたものです。

これまでの研究では、軽症の高血圧で、降圧剤も1剤だけで長期間にわたりよくコントロールされた患者さんでは1年たっても血圧の上がらない人が42%ほどあるといわれています。この研究では、比較的高齢の高血圧の患者さんで、投薬中止後も正常血圧を維持できる人たちはどんな特徴があるかを検討しています。

対象となったのは65歳〜84歳の高血圧患者さん503人です。降圧剤を中止して2週間は正常血圧を維持できた人たちです。この人たちを1年間フォローしています。

降圧剤を中止して1年たった時点でも血圧が正常だった人は181名(36%)、高血圧に戻ってしまった人は273名(54%)でした。

高血圧に戻ってしまった人の半数は、降圧剤中止後70日以内に高血圧になっています。正常血圧を維持できた人たちは、高血圧に戻ってしまった人たちと比べると、以下のような特徴があったそうです。年齢が若い(65〜74歳)、もともと降圧剤服用中の収縮期血圧(上の血圧)が低い、治療に使っていた降圧剤は1剤だけだった、ウエストヒップ比(ウエストとヒップのサイズの比、肥満の程度を表す指標)が大きい、などです。逆に高血圧に戻った人たちは収縮期血圧が高い傾向がありました。そして、最初の70日でも正常血圧を維持できていることはその後を予測するのに重要であると示唆しています。

このような特徴のある人たちが正常血圧を維持できた理由として、若い人は白衣高血圧などの要素があり、もともと薬がなくてもよかった可能性、肥満傾向の人は減量によって血圧をコントロールできる可能性があることなどが考えられると述べています。

そして、もし降圧剤をやめたとしても、上記のように、早期に高血圧に戻る人も多いため、定期的な診察は欠かせない、と述べられています。最初の2週間は毎週、2ヶ月は2週間ごと、6ヶ月目までは毎月、それ以後は6ヶ月ごとの診察が勧められると述べています。また、1年以上フォローしたらどうなるのか、つまり、2年あるいは3年たってから高血圧に戻る人もいるのか、といったことはまだ明らかにはなっていません。

高血圧治療には食事療法、運動療法、体重コントロールなどが大切なのはいうまでもありません。それらが奏効すれば薬を飲まなくてもすむ場合もありますし、薬を止めることも無理ではないのです。しかし、薬を飲まない場合でも厳重なフォローは必要です。その際、自宅血圧の測定も大きな力となるでしょう。

ホームへ