高齢者の運動量と死亡率の関係

"よく運動している人の方が長生きできる"、ということはよく言われていることだと思います。よく動くから長生きなのか、元気でいるからよく動けるのか、どちらが原因でどちらが結果かわかりにくいところもありますが、多くの統計調査が、よく動く人ほど長生きであることを示しています。しかし、その統計の多くは、聞き取り調査に基づくものであり、つまり、運動量は自己申告であるので、本当の運動量を表したものか疑問視されているところもあります。今回紹介する論文では、生活動作エネルギー消費法(Free- living activity energy expenditure)という方法で、酸素と水素を放射線で標識して、消費カロリーを求める方法により真の運動量を求め、、生命予後との関連を検討したものです。

米国医学会雑誌Journal of American Medical Association 2006年7月12日号(JAMA 2006; 296: 171- 179)に掲載されたものです。対象となったのは、70歳〜82歳の男性150名と女性152名の計302名です。1998年〜2006年までの平均6.15年フォローしました。消費エネルギーを、生活動作エネルギー消費法により測定しました。6.15年間の観察期間の間に、残念ながら55名の方が亡くなっています。運動量、すなわち消費カロリーによって3グループに分け、運動量との関係を検討しています。

運動量が521kcal以下の低エネルギー消費グループ、521kcal~770kcalの中エネルギー消費グループ、770kcal以上の高エネルギー消費グループに分けて検討しました。

その結果、低エネルギーグループの死亡率を1.0とすると、中エネルギー消費グループは0.65、高エネルギー消費グループ0.33というように、エネルギー消費の多い人ほど、つまりよく動く人ほど長生きであったことがわかります。そして、消費エネルギーが287kcal増えると死亡率は32%減るという計算になると著者らは述べています。

興味深かったのは、高エネルギー消費グループの人たちの日常生活は何が違っていたかということです。日常生活の中での運動に関しての調査結果を、エネルギー消費量と比較してみると、高エネルギー消費の人は、低エネルギー消費とに比べ、生活のための仕事をしている、階段を上っている、という点が違っていたということです。意外なことに、激しい運動や、運動としてのウォーキング、運動以外のウォーキング、ボランティア活動、介護の仕事などはエネルギー消費とはあまり関連がなかったということです。

おそらく、高エネルギー消費の人たちにとっては、階段を使うということは当たり前の習慣になっているのでしょう。そのくらい、体を動かす習慣がついているとよい、ということがいえるのかもしれません。この調査対象は70歳以上ですから、70歳になったときにそのような習慣が身についているためには、40代、50代、60代のころから階段を使うことを億劫がらない習慣をつけることが大切なのでしょう。

同じ号の患者さん向けのページには高齢者の運動について解説されています。要約すると、日常生活に楽しみながらできる運動を取り入れる、それは、子供と遊ぶことや、ガーデニングや掃除などでもよく、できるだけ毎日30分程度は行うようにするということです。ただし、高齢者の場合、胸の痛みや筋肉痛、息切れ、動悸などを感じたらまず医師の診察を受けるべきであることも推奨されています。ですから、運動を始める場合は、少しずつ運動量を増やし、徐々に進めていくようにしましょう。

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