運動効果についての新しい研究結果

生活習慣病の予防や治療のためには運動が大切ですから、どのくらい運動をしているか、ということがまず大切ですが、運動がどのくらいできるか、つまり、どのくらい体力があるか、ということも重要です。普段から運動をしていればおのずと、「体力もある」ということになりますから、当然ともいえます。この「体力」(英語ではfitness)のレベルが低いということも心血管系疾患やあらゆる原因の死亡と関連が深いことが報告されています。

しかし、「体力」をつけるための運動というのは、なかなか続きませんし、だいいち、いまさら運動したって体力なんかつかない、と思っている方も多いと思います。

今回紹介する論文(Journal of American Medical Association 2007年5月16日号、vol 297, p. 2081- 2091)では、閉経後の肥満女性に対する運動効果を検討しています。運動は、すればするほど効果はあるようですので紹介します。

研究対象となったのは、464名の閉経後女性です。対象者のBMIは25.0〜43.0ですから、かなりの肥満のある方たちです。血圧は120.0〜159.9の間です。この人たちを4つのグループに分けました。第1グループは、今までの通りの生活、運動をしてもらう。第2グループは4kcal/kgの運動、第3グループには8kcal/kgの運動、第4グループには12kcal/kgの運動をしてもらいました。8kcal/kgの運動量というのは、一日30分の中等度の運度を週5日行うという、世界保健機構などが推奨している運動量に相当します。つまり、推奨されている運動量(第3グループ)と、その半分(第2グループ)とその1.5倍(第4グループ)の運動をするグループに分けたということです。その運動量を6ヶ月間続けてもらい、前後で体力を測定しました。体力は最大酸素摂取量で表しています。

人の体は運動をするとたくさん酸素を必要とします。必要なだけ常に供給できればよいのですが、人によってどのくらいの酸素を取り込むことができるか、ということが異なります。普段から運動をしている人はより多くの酸素を取り込むことができます。この酸素の取り込み量を最大酸素摂取量といいます。最大酸素摂取量は、普段運動をしている人では高く、運動不足の人では低くなります。ですから、最大酸素摂取量は、その人の体力(どのくらいの運動量まで耐えられるか)に相当します。

そして、研究の結果、運動をした3グループではいずれも最大酸素摂取量が増えており、第1グループに比べ、第2グループでは、+4.2%、第3グループでは+6.0%、第4グループでは+8.2%というように、運動量に比例して最大酸素摂取量が増えたことがわかりました。また、興味深いことは、体重、血圧、コレステロール(悪玉、善玉ともに)、中性脂肪、血糖値などの変化はほとんど見られなかったということですが、ウエスト周径は運動量に応じて減っていました。

つまり、推奨されている運動量は、体力を増すのに十分な効果があり、その半分でもある程度効果があり、また運動量を増やせばそれだけ効果も増えるということが示されました。閉経後の肥満女性で、運動不足の人を対象としており、日本でも最近増えている人たちといえます。今さら・・・といわず、少しでも運度をすると、効果が上がるということです。体力がつき、おなか周りも細くなります。また、食事に関しては、この6ヶ月間には特に変えないように指導されていました。つまり、運動だけの効果を確認したわけです。

体重を減らし、コレステロール値や血圧まで改善させるには食事療法も必要となりますが、運動だけでもこのようによい効果が得られます。

この研究では、対象者たちには専門のトレーナーがつき、運動量を確実に管理しています。運動もジムのサイクルエルゴメーターを使って行っています。そして、対象者たちには、運動をしっかり行ったかどうかに応じてお金も支払われたそうです。お金はこの研究費から出ており、信頼性の高いデータを出すための苦労が伺えます。

運動は、いかにして続けるかがポイントとなります。特にもともと体力のない方の場合、どうしても疲れると長続きしなくなります。一人でやるのではなく、パートナーを見つけて行うとか、ジムなどを活用するとか(ふじみ野市の場合は運動療法室が利用でき、指導もしてくれます)、運動をしたら、自分に何かご褒美をあげるようにするとか、続けるための工夫をするとよいでしょう。また、運動の効果を目で確かめることも大切です。この研究結果を見てわかるように、体重やコレステロール値には変化は現れないかもしれません。最大酸素摂取量も簡単に測れるものではありません。この研究で示されたように、ウエスト周径には変化が現れる可能性がありますから、ウエストを測るとよいかもしれません。また、最大酸素摂取量が増えてくると(体力がついてくると)同じ運動量でも心拍数が増えなくなってきます。心拍数もわかるサイクルエルゴメーターなどを活用し、同じ運動量での心拍数を記録しておくのもよいかもしれません。

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