毎日の軽い運動が痴呆を予防

身体的活動が痴呆や認知障害のリスクを減らす(よく動く人ほど痴呆にはなりにくい)ということは知られていましたが、どの程度の運動ならそのような効果が得られるのか、という点についてはまだはっきりしたデータはありませんでした。しかし、今回、米国医師会雑誌(Journal of American Medical Association)9月22/29日号に掲載された2つの論文がその疑問に答えるデータを示してくれました。

最初の論文(JAMA 2004, 292: 1447- 1453)は、高齢の男性を対象にしたものです。1991年から1993年までの間に2257人の71〜93歳の男性を登録し、日常の運動量を記録し、その後2回(1994〜1996年と1997年〜1999年)にわたり、痴呆などの検査を行いました。その結果、158人に痴呆症が発症しました。そして、運動量との関係を調べると、一日の歩行距離が0.25マイル(400m)以下の人たちは、一日の歩行距離が2マイル(3.2 km)以上の人たちと比べると痴呆症発症のリスクが1.8倍だったというのです。単位時間あたりの速く歩く能力(1時間にどれだけ速く歩けるか)ということも痴呆の発症リスク低下と関連がありました。痴呆症は、アルツハイマー病と、脳卒中と関連が深い脳血管性痴呆とに分けられますが、運動量との関係はアルツハイマー病で特に強い相関(運動量が多いほど痴呆の発症が少ない)が認められました。

もうひとつの論文(JAMA 2004, 292: 1454- 1461)は、高齢の女性を対象にしたものです。1986年から18,766人の70歳〜81歳の看護職の女性を登録し、日ごろの運動量を確認し、1995年〜2001年、1997年〜2003年に2年間あけて2回の痴呆の検査を行いました。その結果、運動量がもっと少ない(5.2 MET- hours/week以下)人たちに比べ、運動量がもっとも多い人たち(26.0 MET- hours/week以上)の人たちの痴呆の発症率は20%と少なくなっていました。(METというのは酸素消費量から計算した運動強度の単位です。1METは安静に座っている状態に相当し、歩行は2〜4.5MET、サイクリングは3〜15MET、ランニングは7〜18METに相当します。)歩行時間で比較しても、週1.5時間以上歩いている人たちと週40分以下の人たちの間でも明らかに差が認められました。論文の著者らは、1マイル(1.6 km)を21〜30分の速度で週に1.5時間以上歩くのに相当する運動をしていると予防効果があるだろうと述べています。

運動がどうして痴呆を予防する効果があるのかについては、いろいろな機序が考えられています。運動によって、血圧が下がり、コレステロール値などが改善することや、血管内皮の一酸化窒素の産生が抑制されることや、脳循環が改善することなどが考えられています。

いずれの研究からも、少なくとも、8〜15年の観察期間では、身体活動が多いほど認知能力の維持、認知能力の低下の抑制効果があるということを示していると思います。

運動は、高血圧、糖尿病、高脂血症などのいわゆる生活習慣病の予防ばかりでなく、骨粗鬆症やがんの予防にも重要です。そして、痴呆の予防にも意味があることも判りました。猛暑の夏も終わりました。運動習慣のない方も、毎朝、あるいは毎晩、あるいは昼休みに、少し早足で歩く、ということをはじめてみてはいかがでしょう。

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