運動と認知機能について

近年、認知症が問題となることが多くなりました。「予防法」なるものも巷ではいろいろいわれています。たしかに、日常生活の工夫などで何とか予防できないものかと思います。なかでも、運動は認知機能低下の予防によいのではないかといわれてます。運動が高血圧や糖尿病、高脂血症などを予防し、その結果動脈硬化を予防するということも考えられますが、どうやら、運動そのものによって、脳によい効果があるらしいのです。

今までわかっている知見をまとめた論文がありましたので紹介します。Exercise and Sport Sciences Reviews 2012年 ,vol. 40, No3, p. 153- 158 に発表されたものです。
運動の効果はまず第一に、脳血管に対して現れます。運動によって酸素の運搬能がよくなり、ストレスを軽減し、一酸化窒素の活性を増し抗酸化物質を増やします。また、血圧を下げ、血管内皮細胞の働きを改善するといった効果もあり、これらによって脳血流が増し、脳血管の予備力が増えます。血管の予備力というのは、脳に負荷がかかって脳に血流が普段以上に必要となった場合でも十分血液を送ることができるかどうかということを指します。脳の動脈硬化が進むと、こういう予備力がなくなります。さらに、BDNF(脳由来神経栄養因子)の活性が増し、神経細胞同士の連絡がよくなることなどが加わり、脳の機能、特に認知機能の低下を防いでくれるものと推測されるそうです。記憶に特に関係するのは、海馬といわれる部分ですが、海馬の細胞は、中年以降一年間に1〜2%減っていくといわれています。運動によってこれがある程度予防できるだろうと推測されますが、どのくらい予防できるのかはこれからの研究結果を待たなくてはいけません。また、実際に、運動をした人としない人とで、認知機能の低下具合を比較したというような研究はまだありません。理論的には運動の効果は期待できても実際にはどのくらいの効果があるかはまだわかっていないのです。

アメリカでも60歳以上の人で、適切な運動量といわれる「週5日以上、30分の適度な運動を続けられている人は5%程度といわれています。日本人で3人のうち2人が運動不足だといわれており、運動量がたりないことは深刻だと思います。少しでも時間を見つけて、体を動かしましょう。運動が苦しい、と思わず、脳にいいことをしているんだという気持ちを持って運動するのがよいでしょう。

Tweetシェア

ホームへ