アルコールで顔が赤くなる人は、食道がんになりやすい?

東アジア人にはアルコールを飲むと顔が赤くなる人が多いことが知られています。日本人、中国人、韓国人の人口の約36%の人がそのような体質を持っているといわれています。これは、アルコールを体内で分解する際に必要な酵素の活性が低下しているために起こります。アルコールはアルコールデヒロドゲナーゼという酵素でアルデヒドになり、アルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)という酵素で酢酸に分解されます。しかし、この2つ目のALDH2の活性が低下していると、体内にアルデヒドがたまりやすく、その作用によって顔の血管が拡張し、顔が赤くなるのです。この酵素の活性は、遺伝的に規定されています。問題は、この酵素の活性が低下しているにもかかわらずアルコールを飲むと、アルデヒドが増え、顔が赤くなるばかりでなく、食道がんのリスクが高まるというのです。

先日、当院を休診させて頂いて出席した米国内科学会日本支部講演会で、亀田総合病院のGremillion先生の講義の中で紹介され、私もさらに調べてみましたので紹介したいと思います。

このことが最初に報告されたのは1996年のことで、横山先生という方が日本人の調査結果を発表されました。その後、日本、台湾でさらに同様の研究がされ、、ALDH2の活性の低下している人が飲酒をした場合、食道がん発症のリスクはオッズ比で3.7〜18.1倍になるそうです。さらに、前向きの疫学調査でも、ALDH2の活性が正常の人に比べ、ALDH2の活性が低下している人の上部気道消化管のがん(喉頭がん、咽頭がん、食道がんなどの総称)のリスクは12倍になるというデータも報告されました。

今回、日本人の最初の疫学調査をされた横山先生がPLoS Medicine 2009年3 月号(vol 6, 258- 263)にこのことについての総説を発表されています。この記事は、New York Times 2009年3月23日号にも取り上げられていました。その論文の中で、なぜ食道がんになりやすくなるのかというメカニズムが解説されていました。飲酒によって発生したアセトアルデヒドは唾液腺の中に集積し、唾液中のALDH2濃度は血中濃度の10〜20倍になるそうです。適量の飲酒後、ALDH2活性の低い人ではALDH2活性が正常の人に比べて唾液中のALDH2濃度は2〜3倍になっているそうです。このような状態が何度も起こると、唾液にさらされる咽頭、喉頭、食道にがんが発生しやすくなるというのです。

一方で、ALDH2活性が低くてもアルコーを飲む人が増えていて、1979年にはアルコール中毒患者さんのうち、ALDH2活性が低いタイプの人は3%に過ぎなかったそうですが、1986年にはそれが8%に、1992年には13%になっているというのです。最近の東京都の調査では、週400グラム以上のアルコールを飲む飲酒家の26%がALDH2活性の低い人であるという報告もあるそうです。

ALDH2活性が低いかどうかは、次の2つの質問でわかるとされています。(1)ビール1杯飲んだ後すぐに顔が赤くなりますか? (2)アルコールを飲むようになって最初の1〜2年の間は、ビールを1杯飲むと顔が赤くなるという経験がありますか? 以上の2つの質問です。どちらか一方でも答えがハイであるならば、ALDH2活性は低いことが考えられますので、食道がんの予防のために飲酒は控えた方がよいでしょう。ALDH2活性の低い飲酒家の人たちが飲酒を控えるだけで、食道がんの53%が予防できる計算になるそうです。

食道がん自体はそれほど多いがんではありませんが、最近増加傾向にありますし、早期発見が難しいがんといわれています。ちなみに、私自身も飲むとすぐ赤くなるタイプです。飲酒は控え、がんの予防をするにこしたことはなさそうです。

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