ニンニクの血清脂質改善効果は果たして?

ニンニクは最も広く使われている香辛料であり、また、古代より様々な薬効があると考えられている食材です。特に、最近では、ニンニクの心血管系疾患予防効果を指摘する報告があり、注目されています。今回紹介する論文は、ニンニクを食べることによって血清中の悪玉コレステロールであるLDLコレステロールが低下するかどうかを検討したものです。生のニンニクと、市販されている、いわゆるニンニクサプリメント2種類とそれらをとらない場合(プラセボ)の4通りの効果を比較しています。Archives of Internal Medicine 2月26日号(2007; 167: 346- 353)に発表されました。

アメリカでの研究です。広告で募った192人の成人が対象です。対象となった人たちの血清LDLコレステロール値は130〜190mg/dlとやや高めです。(我が国では、心血管系疾患のリスクのない人のLDLコレステロール値は140mg/dl以下が目標値です。)4グループ、すなわち、生のニンニク、粉末ニンニクサプリメント(商品名Garlicin)、熟成ニンニク抽出物サプリメント(商品名Kyolic)、プラセボの4グループに分け、週6回、6ヶ月間摂ってもらいました。ニンニクの量は生ニンニク4gで、サプリメントの量もそれに相当する量としています。4gというのはいわゆるニンニクひとかけに相当します。

結果は、6ヶ月後のLDLコレステロール値を始める前と比べて、生ニンニク、粉末ニンニクサプリメント、熟成ニンニク抽出物サプリメント、プラセボはそれぞれ、平均値で+0.4、+3.2、+0.2、-3.9 mg/dlで、4グループ間に差は認められませんでした。

ニンニクのコレステロール低下作用の根拠というのは、ニンニクに含まれるalliinaseという酵素の働きでallicinが作られ、それがコレステロール合成を抑制する働きがあると、試験管レベルで確認されているからなのですが、実際に動物に投与した実験などでは、一定の結果が得られていませんでした。そして今回の検討が行われたのですが、残念ながら、ニンニクの悪玉コレステロール低下作用は認められませんでした。また、サプリメントにしてしまうと失われる生ニンニク固有の効果も認められませんでした。

しかし、論評の中で、ニンニクには他にも様々な生物学的作用を有する物質があり、血栓抑制効果、抗血小板作用、LDL酸化抑制効果、血管内皮細胞の接着分子発現への効果などが指摘されており、LDL低下作用が認められなかったからといって、心血管系疾患の抑制効果が否定されたわけではない。審判はまだ下っていない、と述べられています。


ところで、欧米の研究のすごいところは、このような食品の効果を、科学的に認められた方法でしっかり検証し、結果を出しているところだと思います。たとえば、このような実験を行うときには、対象者には、自分が何を摂っているかわからないようにしないといけません。つまり、自分はニンニクを食べるグループなのか、サプリメントをとるグループなのか、あるいはプラセボグループなのかということがわからないようにしなくてはいけません。そのため、この検討では、サンドイッチと錠剤を用意し、生のニンニクを入れたサンドイッチと入れないサンドイッチを用意し、また、サプリメントを含めた錠剤と含まない錠剤を用意し、いずれかのサンドイッチといずれかの錠剤をとってもらうという方法で、対象者たちには自分が4グループのうちどのグループに属しているかはわからないようにしています。テレビ番組で、ある食材の効果を示す実験が行われることがありますが、このような方法はとっておらず、そういった点からも信頼できる科学データとは言えなません。まあ、そのくらいは娯楽番組として見れば許容されるのかもしれませんが、現実には、実験データねつ造や専門家のコメントの差し替えなどが行われていたことが明るみにされ、社会問題となりました。この件は、Natureという一流の科学雑誌にも取り上げられてしまいました(Nature 445, 804- 805, 22 February 2007)。その中で特に問題視していたのは、専門家のコメントを差し替えた点でした。また、日本のテレビ番組の利益優先、視聴率優先主義も批判されていました。日本でも、日本固有の食材に関して、商業的でない、科学的にしっかりした疫学的調査が行われることを期待したいものです。

ホームへ