シンガポールの成人におけるH1N1インフルエンザの抗体保有率

2009年春から2010年の冬にかけて、H1N1インフルエンザ(新型インフルエンザ)が世界的に流行しました。日本でも多くの人が感染しました。幸い、日本では他の先進国と比べてもH1N1インフルエンザによる死者は少なくすみました。小学校、中学校では多くの児童が感染しましたが、当院のあるふじみ野市近隣の学校では、昨年秋から冬にかけて、インフルエンザ、あるいはインフルエンザ様症状(H1N1インフルエンザとは限りません、季節性インフルエンザも含まれている可能性があります)で欠席した児童は4分の1から3分の1に達しました。不顕性感染(ウイルスは体の中に入っても症状を来さないケース、この場合も免疫はつきます)もあるとすると約半数の児童は感染し、免疫を獲得したといえるのではないかと推測します。しかし、実際には血液中の抗体価を測ってみなければわかりません。今回紹介する論文は、シンガポールでの研究で、様々な集団の、H1N1インフルエンザウイルスに対する抗体価の保有率を検討したものです。JAMA 2010414日号(vol303,No 14, p1383- 1391)に発表されました。

一般人(平均年齢43歳)583名、軍隊(平均年齢22歳)636名、急性期病院の職員(平均年齢34歳)537名、介護施設の職員と入所者(平均年齢56歳)250名について検討しました。20096月と同年10月にH1N1インフルエンザウイルスに対する抗体価を測定し、4倍以上の上昇のみられた人をこの期間中に感染した人と推定しています。その結果、一般人の13.5%、軍隊の29.4%、急性期病院職員の6.5%、介護施設の1.2%に抗体価の上昇が認められました。論文の著者らは、軍隊の中で感染率が高かったのは、年齢層が若いことや集団生活であることなどが関係しているだろうと述べています。病院の職員に少なかったのは、病院に患者さんが入るまでに、熱や症状の有無で患者さんをふるい分けたり、マスク、手荒いなどの予防措置が十分とられていたためだろうと、推察しています

結論として、抗体保有率(人口の中で抗体を有している、つまり、H1N1インフルエンザに免疫がある人の割合)はまだ低く、免疫のない人が多いので、今後も流行の第二波が来る可能性は高い、と述べています。

過去の例でも、新型インフルエンザの流行には、第二、第三波があり、第一波では主に小児が感染し、第二、第三波では成人の感染が多くなるといわれています。

シンガポールと日本とでは事情は異なるかもしれませんが、それほど大きな差はないだろうと思います。厚生労働省も、第二波は必ず来ると警告しています。今回の流行で身につけた感染予防習慣を忘れることなく、今後も注意していくのがよいでしょう。

ホームへ