ちょっと高めの血圧”は大丈夫か?

WHOなどの国際的な基準で、高血圧の定義は収縮期血圧140以上、または拡張期血圧90以上とされています。正常血圧は収縮期130未満、拡張期85未満とされています。その中間、つまり収縮期血圧が130〜139、拡張期血圧が85〜90は“正常高値血圧”と定義されています。140と90が高血圧の基準となったのは、それを越えると高ければ高いほど高血圧の合併症、心疾患(心筋梗塞、狭心症、心不全など)、脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)の頻度が高くなるからです。

しかし、実際には、ちょっと高め、WHOでいうところの正常高値血圧の人たちが多いことも事実です。そのような血圧の方に対して、一応正常だからということでそのままにしていてよいのか、薬を使った方がいいのか、あるいは、食事療法だけで様子を見ていてよいのか、といった点にはまだ未解決の部分があります。今回、New England Journal of Medicine誌2001年11月18日号に発表された論文(2001; 345, 1291- 1297)では、正常高値血圧の人たちの心疾患の発生頻度が比較的高いというデータが発表されましたので簡単に解説します。

対象となったのはフラミンガムスタディという疫学調査で、1956年から登録を開始した正常高値血圧と診断された6859人の方です。調査開始時に正常高値血圧だった人たち(35歳〜64歳)で10年間に心疾患を発生した頻度は、女性で4%、男性で8%でした。血圧が正常だった人たちと比べると女性では2.5倍、男性では1.6倍だったそうです。つまり、正常高値血圧の人も心疾患を合併しやすく、注意が必要であることが示されたわけです。しかし、このような血圧を下げたら心疾患の合併は減るのかという点についてはまだこれからの課題だと述べられています。

正常高値の血圧でも動脈の壁が厚くなり、心臓の機能にも変化が起こるということは以前から指摘されていて、この研究で心疾患の発生率にも影響することが示されたことになります。しかし、この研究は欧米での研究で、欧米人では心疾患が日本人より多く、塩分摂取量も日本人とは異なるため、この研究結果をそのまま日本人にあてはめることはできないかも知れません。また、論文の著者らも述べているように、この程度の血圧を下げることによって合併症が減るかどうかはまだわかっていません。さらに、高齢者では血圧の下げすぎによるふらつきなどの副作用が起きやすいのも事実です。ですから、このような結果をすぐに日本人の高血圧治療にあてはめることはできないかも知れませんが事実として大変重要だと思います。

高血圧の薬は飲み始めたらずっと飲まなければいけないから、といって治療を先延ばしにされている患者さんもおられます。塩分制限や運動療法を行っても血圧が下がりにくい時は、やはり、合併症を防ぐために治療は必要だと思います。このような論文の結果もふまえ、さらに、患者さんの年齢、家族歴、生活習慣(食生活、運動習慣、喫煙、仕事内容など)などをトータルに考え、治療の必要性を十分検討し、患者さんにも納得していただいて、治療に当たっていきたいと思います。

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