学童に対するインフルエンザワクチンの接種の意外な効果

インフルエンザワクチンは、現在は高齢者、基礎疾患のある患者さんを中心に、希望された方に接種を行っています。かつては、1963年から1987年までの間、学童には接種が義務づけられていました。しかしその後、副作用の問題などが危惧され、1994年以降は、任意で行う現在のような接種方法となっています。接種が義務づけられていた期間を振り返ってみることで意外な事実が明らかになりました。New England Journal of Medicineの3月22日号に(2001, 344; 889- 896)掲載された論文を紹介します。

1949年から1998年までの50年間の日本と米国における死亡率を検討した研究です。すべての死因を合わせたもの、肺炎、インフルエンザによる死亡に限定したものについて、月別に検討しています。

日本では、冬季に死亡率が増える傾向を毎年繰り返し、その傾向は、肺炎、インフルエンザによる死亡に限定すると一層顕著になりました。さらに、、この冬季の肺炎、インフルエンザによる死亡増加は、1962年以降減少し、1994年以降再び増加しているのです。この死亡率のグラフを1000人あたりのワクチン使用量のグラフと重ねてみることにより、死亡率とワクチン接種率とが相反する推移をしていることが明らかとなりました。米国ではワクチン接種率は1990年以降増加しており、死亡率は一定の低いレベルで推移しています。

この死亡率の減少は、学童に対するワクチン接種により集団免疫が成立していたためで、計算上、ワクチン接種を受けた学童420人あたり1人の高齢者死亡を抑制した、と著者らは述べています。

つまり、学童への集団接種が高齢者のインフルエンザ感染を抑制したというわけです。

日本では、1957年のインフルエンザ大流行をきっかけに学童へのワクチン接種が検討されました。1962年から学童へのワクチン接種が義務づけられ、1970年代には学童におけるワクチン接種率は50〜85%に達しました。数学的には50〜70%の学童がワクチンの接種を受けていれば地域への伝染防止効果が期待できるとだろう推定されています。そこで、日本で学童へのワクチン接種が義務づけられていた期間はどうだったのだろうか、というのがこの研究の背景です。

1962年以降に死亡率が減少した要因には、経済、医療の発展が大きいことは当然考えられますが、それだけでは1994年以降の死亡率増加の理由の説明はできず、やはり、集団免疫の成立が大きいと結論づけています。また、他の先進国に比べて日本では、高齢者と小児の同居家族が多いことも重要な要素と考えられます。

この点をさらに明らかとするために、学童の85%と、18ヶ月以上の小児の50%にワクチン接種を行った場合、インフルエンザの流行にどのような効果が出るかといったことが現在検討中だそうなのでその結果を待ちたいところです。

予防接種は自分を守るためでもあり、家族のためでもあるといえるのかもしれません。インフルエンザワクチンは他のワクチンに比べ有効率が低いことや、副作用の問題が以前指摘されたこともあり賛否両論ありますが、集団免疫の効果という点も考慮し、今後は家族構成も配慮してワクチンを接種するか検討することも必要なのかもしれません。みなさんに有用性を十分理解していただいた上でワクチンの接種を受けていただけるよう、今後も十分な情報を確認して参りたいと考えています。

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