第7回 健康講座 基本健診の結果の見方

7月から11月にかけて行われた基本健診の結果について、数字の見方や、正常値について、また、異常値だったときの考え方などについて解説しました。
基本健診の結果の見方についてはすでにこのホームページでも紹介しました(こちら)が、今回は2001年の日本動脈硬化学会でコレステロールの基準値や治療目標が発表されましたのでその内容も盛り込んで、改めて紹介します。

まず、検査結果を利用していくつか計算を行うとさらに詳しい情報が得られますのでやってみましょう。

計算しましょう
標準体重の計算=身長(m)x 身長(m)x 22 (男性)または 21 (女性)
肥満度(%)の計算=(体重/標準体重x 100)-100
BMIの計算=体重/(身長(m)x 身長(m) )
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の計算=総コレステロール-HDLコレステロール-(中性脂肪/5)       

では、基本健診の結果表の順に解説しましょう。

. 身長、体重

身長体重からは肥満度がわかります。肥満は動脈硬化や高血圧、糖尿病と関連が深く、食事、運動療法などにより解消したいものです。現在の体重を知り、減量の目標としましょう。

肥満の基準

・ 肥満度が +20%以上は肥満
・ BMIが25以上は肥満


. 体脂肪率

今回、当院では基本健診の際に体脂肪率も測定しました。

・ 身長と体重が同じでも筋肉質か脂肪が多いかによって動脈硬化のなりやすさが異なります。 内臓脂肪蓄積型の人は動脈硬化が進みやすいのです。また、体脂肪の多い人はインスリン抵抗性が高く、糖尿病になりやすいことも知られています。
・ また、内臓脂肪蓄積型かどうかの簡単な調べ方として、ウエスト周径があります。男性では85cm以上、女性では90cm以上の人は内臓脂肪蓄積型の可能性があります(1999年、日本肥満学会)。
・ 体脂肪率は 電気抵抗を利用して調べているため、日内変動しやすいといわれています。経過を追う場合は、早朝空腹時など測定条件を一定にした方がよいでしょう。

血圧
・ 血圧には上と下があり、収縮期血圧と拡張期血圧です。
・ 病院で測る血圧は、自宅で測る血圧より高めになりますし、健診の時はいろいろな検査がありましたので緊張もされていたと思います。その分は差し引いてもよいと思いますが、自宅での血圧も、 収縮期血圧140以上、あるいは拡張期血圧90以上であれば高血圧と考えられます。

140と90が基準となった理由は、日本で血圧と脳梗塞の関係について1960年代から行われた疫学調査(久山町研究)の結果、血圧の高い人ほど脳梗塞になりやすく、脳梗塞の頻度が増えるのが血圧140、90を越える人たちだったというデータなどに基づいています。

高血圧コントロールの目標

では、高血圧の人はどのくらいに血圧を下げたらよいでしょうか。高齢者の場合はあまり下げすげてもよくありません。また、糖尿病のある人ではより厳重に下げた方がよいことが知られています。以下のような目標が提唱されています。

収縮期血圧 拡張期血圧
若年、中年、糖尿病患者 130以下 85以下
60歳代 140以下 90以下
70歳代 150〜160以下 90以下
80歳代 160〜170以下 90以下

尿検査
・ 尿蛋白陽性の場合:腎臓障害の可能性。
・ 尿糖陽性の場合:糖尿病の可能性
・ ウロビリノーゲン陽性の場合:肝障害の可能性(正常は±、または正です)
・ 尿潜血陽性の場合:腎臓障害、腎臓・尿管・膀胱で炎症、結石、腫瘍などの可能性。体質的なものの場合も多い。
・ いずれも1回だけでははっきりしないので、再検の必要があります。

正常値とは

・ここから血液検査にうつりますが、ここに書いてある正常値について解説します。“正常値”というからにはそれをはずれたら異常と考えがちです。しかし、実は正常値というのはあくまでも健康成人の平均値にすぎません。ですから、年齢や基礎疾患によっては平均をはずれていても必ずしも病的ではないこともあります。 その人にとってのよい数値、悪い数値は異なります。
また、逆に、正常範囲内にあっても短期間で数値が変動した場合は要注意です。


白血球数
・ 正常より多い場合:風邪、気管支炎、腸炎などの炎症のある場合。極端に多い場合は血液疾患の可能性もある。
・ 正常より少ない場合:もともと少な目の場合は心配なし。そのほか、膠原病、ウイルス感染症、薬の影響なども考えられる。
・ 前回との比較も大切。

赤血球数・血色素・ヘマトクリット
・ 正常より多い場合:多血症という病気の場合もあるが、あまり心配はいらない
・ 正常より少ない場合:いわゆる貧血。最も多いのは鉄欠乏性貧血。女性では生理の量が多い、不正出血があるなどの場合におこる。慢性的な出血(胃潰瘍など)があっても貧血になりますのでさらに詳しい検査を受けましょう。
・ 医学的な貧血という言葉と、一般によくいわれる脳貧血(貧血を起こして倒れた、などの場合)とは異なりますので注意してください。

GOTGPTZTT・γGTP
・ いわゆる肝機能検査。
・ GOT・GPTは肝臓の細胞が炎症などで損傷を受けると肝臓の細胞内から血液中に出てくる。
・ γGTPはアルコール、胆石、脂肪肝などで上昇。GOT・GPTも上昇していたら要注意。
・ ZTTは慢性肝炎、肝硬変で上昇することがあるが、慢性炎症、多発性骨髄腫などでも上昇する。
・ 正常より低い場合:病的なものではないので心配ありません。

総コレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪

コレステロールは動脈硬化と深い関わりがあります。総コレステロールが高ければ動脈硬化が起こりやすいわけですが、特に動脈硬化と関わりが深いのは悪玉コレステロール(LDLコレステロール)といわれています。HDLコレステロールは善玉コレステロールといわれていて、これが低いと動脈硬化になりやすいといわれています。悪玉コレステロールは以下のように計算します。

・ LDLコレステロール=総コレステロール-HDLコレステロール-(中性脂肪/5)

中性脂肪は食事の影響を受けますので空腹時に測った数値でないとこの計算は正確にはなりません。

では、コレステロールはどのくらいだったら“高い”ということになるのでしょう。以下のような基準が2001年の動脈硬化学会で提唱されました。(以前の基準より少し甘くなっています)

高コレステロール血症 240以上
境界域高コレステロール血症 220以上
高LDL血症 160以上
境界域高LDL血症 140以上
低HDL血症 40未満
高中性脂肪 150以上

高脂血症の治療目標値

コレステロールが高いとわかり、治療をはじめたら、どのくらいまで下げるのがよいのでしょうか。それについても2001年の動脈硬化学会で試案が提唱されています。すでに狭心症・心筋梗塞など冠動脈疾患を持っているか、糖尿病があるかないか、年齢、高血圧があるかないか、喫煙習慣があるかどうかなどによって異なります。総コレステロール240以下、200以下、180以下、または、LDLコレステロール160以下、120以下、100以下と、治療目標が異なります。ここの患者さんについては外来で詳しくお話しいたします。この基準について、詳しくは日本動脈硬化学会のホームページの高脂血症治療ガイドラインのページ(こちら)を参考にしてください。

しかし、この治療目標値についてはまだ題点点がいくつかあると思います。年齢が考慮されていないいこともひとつです。また、この基準は、6年間の調査データをもとに作られていますが、6年ではまだ短いようにも思います。また、コレステロールの下げすぎについて、一部新聞などはやや騒ぎすぎの感もあるようにも思いますが、本当にそういう心配はないのかまだ十分解決していない、などの点です。今後もこのような基準は変わる可能性がありますので皆さんの治療には慎重を期して当たらせていただきたいと思います。

血糖値

・ 血糖値は食事をすると上昇します。
・ 糖尿病患者さんでは食事をする前から高いか、あるいは食前は正常でも食後に一時的に上昇する
・ 空腹時の血糖値が110以下なら正常。126以上なら糖尿病。その中間では糖尿病かどうかの確認が必要で、ブドウ糖負荷試験などが行われます。

尿素窒素・クレアチニン

・ 正常値より高い場合:腎臓障害の可能性。特にクレアチニンが高い場合は腎臓が悪い可能性あり。
・ 脱水状態でも高くなります。健診の日は朝から何も食べていないので、これらの数値は高くなりやすいので、もう一度調べた方がよいでしょう。
・ 正常より低い場合:病的なものではないので心配ありません。

尿酸

・ 尿酸が高い場合、痛風の可能性。
・ 尿酸値が8を超えると痛風発作を起こす危険ゾーン。
・ 痛風の治療中の方の場合、尿酸値が低くても発作を起こす可能性はありますので注意して下さい。

. HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)

・ HbA1cは約1ヶ月間の血糖値を反映。
・ これが正常値なら1ヶ月間は血糖値がほぼ正常だったことを意味する。
・ 空腹時の血糖値が正常でHbA1cが高い場合は食後に血糖値が高い可能性があり、これもやはり糖尿病の可能性あり。
・ 糖尿病の患者さんではHbA1cが6.5%以下であれば合併症も少なくなるといわれているのでそれを目標に!

. 糖尿病患者さんの場合の治療効果判定基準(日本糖尿病学会編、糖尿病治療ガイドより)

以下のような基準があります。優または良を目指して治療を進めていきましょう。

コントロールの評価 不可
HbA1c値 5.8未満 5.8〜6.5 6.6〜7.9 8.0以上
空腹時の血糖値 100未満 100〜119 120〜139 140以上
食後2時間の血糖値 120未満 120〜169 170〜199 200以上

心電図

心電図の欄に何か所見が書いてあっても、特に心臓の働きには影響はないものもたくさんあります。たとえば、 不完全右脚ブロック、完全右脚ブロック、心室性期外収縮、上室性期外収縮なでです。程度にもよりますがこれらはあまり心配ないことが多いです。
しかし、 高血圧、糖尿病、高脂血症などがあって、心電図で心筋障害、心肥大などの所見がある場合は治療をしっかり続けましょう。

基本健診を受けたら

検査は受けることが大切なのではなく、検査結果に応じた対策が大切です。

・ 自分のからだの問題点を知りましょう
・ 毎年の結果を保存しておくとよいでしょう(軽度の異常値があっても以前と同じなら心配なし)
・ 他の科にかかるときも持っていくと、診断や薬を選ぶときの助けになります
・ 健康手帳を利用しましょう

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