インターネット膠原病教室

第2回 慢性関節リウマチの新しい治療薬

リウマチの治療も進歩してきています。現在(2000年秋現在)治験が行われている薬のいくつかをご紹介します。治験中ですので効果、副作用がまだ十分評価されていませんが、新しい薬が開発されることを待ち望んでおられる患者さんのために、現在わかっている情報をお知らせするものです。特に、生物学的製剤は、アメリカではすでに広く用いられ、劇的な効果を認めています。今後のリウマチ治療の主役となると考えられます。

薬剤名 薬剤の系統 特徴
非ステロイド抗炎症剤
セレコキシブ サイクロオキシゲナーゼ2選択的阻害剤 胃に対する副作用が少ない
rofecoxib サイクロオキシゲナーゼ2選択的阻害剤 胃に対する副作用が少ない
抗リウマチ薬
レフロマイド イソキサゾール系 アメリカではメトトレキサートより有効率が高いといわれている
免疫抑制剤
シクロスポリン 腎移植後の拒絶反応抑制に使われていた薬 単独の効果は弱く、他剤との併用に期待
タクロリムス シクロスポリンと似た作用
生物学的製剤
infliximab anti-TNF-alfa キメラ抗体、点滴投与 劇的な効果を示すといわれているが、副作用としてSLE様の病態を誘発。メトトレキサートとの併用により効果が増す。感染症の副作用が問題か。
eternercept sTNF-alfa 受容体-IgG1Fc結合体、皮下注射 早期のリウマチに効果が期待される。感染症の副作用が問題か。

<解説>

サイクロオキシゲナーゼ2阻害薬とは

消炎鎮痛剤は、痛みに深く関わっているプロスタグランジンの合成を抑えます。プロスタグランジンは、体内のアラキドン酸という脂肪酸から作られます。炎症が起こるとサイクロオキシゲナーゼという酵素の働きが高まります。この酵素は、アラキドン酸をプロスタグランジンに変化させる最初の段階を進める働きを持っています。消炎鎮痛剤は、サイクロオキシゲナーゼを抑えることにより、プロスタグランジンの合成を抑え、痛みや腫れを抑えるわけです。

ところがプロスタグランジンにはいろいろな種類があり、胃の粘膜の血流を増やしたり、腎臓への血流を増やしたりする働きのあるプロスタグランジンもあるのです。薬でサイクロオキシゲナーゼを抑えてしまうと、それらのプロスタグランジンの合成も抑え、その結果、胃の粘膜の血流や腎臓の血流も減らしてしまうおそれがあります。これが、消炎鎮痛剤によって胃が荒れたり、腎機能障害が起きたりする理由なのです。

その後研究が進み、サイクロオキシゲナーゼにも2種類あり、炎症に関わっているサイクロオキシゲナーゼはサイクロオキシゲナーゼ2というもので、胃や腎臓の血流に関わるサイクロオキシゲナーゼ1とは異なることがわかってきました。今までの消炎鎮痛剤を発展させ、サイクロオキシゲナーゼ2のみを抑えて胃や腎臓への影響は排除しようという目的で、これらの薬が開発されています。すでに市販されているものもあり、胃に対する副作用は確かに少ないようです。これからの鎮痛剤は、サイクロオキシゲナーゼ2を選択的に阻害するものが主流となると考えられます。

生物学的製剤について

最後に挙げた生物学的製剤はこれまでの薬とは全く異なる種類のものです。慢性関節リウマチの炎症では、さまざまな過程を経て前述したプロスタグランジンなどの物質が痛みや腫れを起こすわけですが、この過程の最初の方の段階にTNF-αという物質が関わっています。言い換えると、リウマチの原因に非常に近いところに関わっている物質がこのTNF-αと考えられています。ですから、このTNF-αを抑えてしまうことができればリウマチの症状は軽くなりや変形も抑えられることが期待されます。そこで作られたのがこれらの薬です。

薬といっても、この二つは、抗体であるという点が今までの薬とは異なっています。例えば、はしかなどに一度かかると二度かかることはありません。それは、はしかのウイルスに対する抗体が作られ、再度同じウイルスが体に入っても、抗体によって中和され、ウイルスが体の中で増え、発病することはないからです。

TNF-αは、本来からだが持っているものなので、これに対して抗体が作られることはありません。ですから、その抗体を人工的に作り、投与して作用を中和させようというのがこれらの生物学的製剤のめざすところなのです。

infliximabの場合、点滴を4〜8週間に1回、etanerceptの場合は皮下注射を週2回行います。これにより、効果は、概ね1ヶ月以内に現れ、痛み、関節腫脹などが著明に改善するといわれています。特に、関節破壊の進行阻止という点では今までの薬剤になかった明らかな効果が認められています。開発当初は、治療抵抗性の、かなり進行した患者さんを対象としていましたが、最近では早期からこれらを使い、関節の変形も予防した方がよいという意見もあります。将来はリウマチの患者さんが、月に1回(あるいは2ヶ月に1回)、大学病院に行って点滴を受けるとか、週2回、自己注射をするとか、そんな時代になっていくのかもしれません。

一方、問題点も多く残されています。これらの抗体は非常に高価で、アメリカでは一人の患者さんあたり年間10000〜12000ドルかかるといわれています。アメリカでは健康保険がなく、民間の保険会社がどこまでカバーするかといった問題も生じています(New England Journal of Medicine2000; 343, 1640-1641)。また、中止するとリバウンドが起こるといわれ、いつまで続けるのかという問題がありますし、長期使用に伴う副作用の問題も残されています。さらに、本来、TNF-αは、感染症や腫瘍に対して体を守るために働くものなのですが、このTNF-αを抑えてしまうことで感染症や、発ガンの問題がでてくるのではないかということが危惧されます。また、併用するメトトレキサートも副作用が強く、使用にあたっては十分な問診、診察、検査と定期的な受診が不可欠になるでしょう。

これまでの多くの報告では、副作用には、注射局所の発赤(etanercept)、アレルギー反応(infliximab)、上気道感染などがあげられております。重症な感染症も起きており、慢性の感染症を有する患者さんには投与しない、ということになっています。長期間投与の安全性はまだ未知の部分があります。多くの論文はメトトレキサート単独投与との比較を論じており、感染症の発生はメトトレキサート単独投与の場合と変わりがないといった結果を報じております。しかし、メトトレキサート自体副作用の多い薬剤であり、メトトレキサートがすでにリウマチの治療の標準となっているアメリカと単純に比較することはできないかもしれません。

発ガンも報告されており、1年間の観察で、 342例中5例(2例は再発、3例は初発)に癌が発生したという報告もあります。この頻度は一般の発ガン頻度と大差ない(同年代の健常者を1年間観察すれば同じくらいの癌患者さんが発生するという意味)、とその論文では述べられています(New England Journal of Medicine2000; 343, 1594-1602)が、本当に安全かというとまだ検討の余地がありそうです。今後は安全な投与量や使用法の確立が研究の中心となり、より安全で、より有効な治療法となっていくものと期待されます。

1949年にHenchらがはじめてステロイドをリウマチ患者さんに投与し、その劇的な効果を報告して以来の新しい治療と考えられている生物学的製剤は、これからのリウマチ治療の柱となっていくことは確かだと思います。今後の研究に大いに期待したいところです。

薬にはどうしても副作用があります。その多くは、患者さんのアレルギー体質で起こるかあるいは、薬が、目的とする物質以外にも働いてしまうために起こります。今回紹介したサイクロオキシゲナーゼ2阻害薬や生物学的製剤は、目的とする物質がこれまでの治療薬よりさらに限定されています。つまり、抑えるべきところだけ抑え、それ以外の作用は非常に少ないというものとなっています。

今後はこのような薬が増え、患者さんの抱える多くの不安の一つである薬の副作用についての不安を減らすことになると期待されます。

今後も新しい知見についてはこのホームページでもとりあげていきたいと思います。

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