生活習慣を変えることにより糖尿病を予防

2型糖尿病の発病には遺伝的背景と生活習慣の双方の関与が考えられています。遺伝的背景を決める遺伝子が明らかとなったわけではありませんが、家系内に糖尿病の方がおられるケースが多いことなどから遺伝的な要素の関与が考えられています。それ以上に大切なことは生活習慣と考えられています。肥満と運動不足は2型糖尿病発病の大きな要因です。

境界型糖尿病は糖負荷試験で糖尿病と正常の中間の結果が出た場合をいいますが、糖尿病へ移行するケースが多いことが知られています。

境界型糖尿病の人たちに生活指導を行い、食生活を変え、運動不足を改善することにより糖尿病の発病を防ぐことができるかどうかを検討した論文が発表されました(New England Journal of Medicine 2001. 344: 1343-50)。

研究の対象となったのは522名の境界型糖尿病と診断された人たちです。肥満度を表すBMIは平均31(身長160cmの人では79kgに相当します)と、高度の肥満がみられます。2つのグループに分け、一方のグループには一般的な指導(食事療法のパンフレットを渡して年一回指導を行う)のみ行い、他方のグループには徹底的な指導が行われました。その指導内容は後述します。

平均3.2年間の観察期間中に糖尿病を発病した人は、一般的指導のグループで59人(23%)、徹底的な指導を行ったグループで27人(10%)でした。この研究では、生活習慣の改善により、次のような目標を設定していたのですが、一般的指導と比べ、徹底的な指導により、その目標を達成できた人が多かったことが示されています。その目標とは、体重5%以上の低下、脂肪摂取を一日摂取カロリーの30%以下までに減らす、飽和脂肪酸を一日摂取カロリーの10%以下に減らす、食物繊維摂取を1000kcal あたり15g以上摂取する、運動を週4時間以上行う、という目標です。つまり、このような目標を達成することが、糖尿病の発病を抑えることにつながり、そのためには十分な指導が必要であることが示されたわけです。

このような研究結果は当たり前のようですが、実は今まではっきり示されることはなかったのです。この研究では、あらかじめ境界型糖尿病とわかっている人たちに対する生活習慣改善の効果を検討しているのですが、対象者を、ランダムに分け二通りの指導を行い、その効果を明らかにしたことが優れた点です。

この論文の著者らも述べていますが、一般的な指導でも十分な効果は期待できるわけです。しかし、長年しみついた生活習慣を変えるには徹底的な指導も必要で、結果として、食事、運動療法を徹底し、体重を減らすことで効果があがることが示されました。体重の減少は平均4.2kgとわずかでしたが、糖尿病の発病予防という点では大きな効果がみられました。必ずしも標準体重まで減らさなくても効果は望めるともいえるかもしれません。

指導の内容とは

ところで、その徹底的な指導の内容とはどんなものだったでしょうか。先ほど述べた目標を設定し、そのために、食事では全粒製品、野菜、果物を多くとり、低脂肪乳、低脂肪の肉、マーガリン、植物油をとるように指導します。さらに、食事内容をチェックするために3日間の食事記録を栄養士がチェックし、指導するということを年間4回行いました。さらに、運動療法も、個別の運動処方により指導のもと行い一日30分以上の運動を習慣づけたというわけです。

当院でも健康講座として食事、運動療法についての啓蒙活動をこれからも充実させ、患者さん個別の食事指導、運動処方を提供していき、治療と予防のお役に立てるようにしたいと思います。