生活習慣とアルツハイマー病のリスク

定期的な運動とバランスのよい食事が様々な病気の予防に役立つことはよく知られています。また、認知症の原因としても重要なアルツハイマー病に関しても、運動や食事が関係があるのではないかということが指摘されています。

今回発表された論文では、定期的な運動をしていることや、バランスのよい食事をとっていることのいずれか一方だけでもアルツハイマー病の発症のリスクを下げることを示したものです。Journal of American Medical Association誌8月12日号 (2009; 302(6): 627-637)に発表されたものです。この論文では、バランスのよい食事として、地中海食(Mediterrenian- type diet)を挙げており、それは、野菜、果物、穀類、豆類を多くとり、オリーブオイルを多く、飽和脂肪酸を少なく、乳製品を控え、魚を適度にとり、肉類は少なく、適量のワインはとるというものです。

この研究はアメリカで行われた研究です。1992年から2006年にかけてニューヨークの住人について行われた調査です。対象となったのは1,880人の高齢者(平均77.2歳、男性31%、女性69%)です。運動習慣、普段の食事などの調査を行い、平均1.5年毎に神経学的検査を行い、認知機能の検査を行いました。食事については、地中海食に近い食事をしているかを点数にする方法があり、それに基づいて食事をスコア化しました。スコアが高いほど地中海食に近いというものです。そして、平均5.4年間の観察期間に282人にアルツハイマー病が発病していました。運動習慣、食事について、それぞれ3段階に分けて検討したところ、最もよく運動していたグループの人たちのアルツハイマー病の発病は、運動が少ないグループの人たちの発病を1とすると、0.67と少なく、また、食事のスコアが高かった(地中海食により近い食事をとっていた)グループの人たちの発病は、そのスコアの低かった(地中海食と異なる食事をとっていた)人たちの発病を1とすると0.60でした。さらに、定期的に運動もし、食事のスコアも高かった人たちは、運動が少なく、食事のスコアも低かった人たちの発病を1とすると0.65と低いものでした。

この研究の中で、定期的に運動していたグループの人たちの”運動量”というのは、77歳の人で、積極的な運動を週1.3時間、または、中等度の運動を2.4時間、あるいは、軽い運動を4時間、という程度の運動量に相当します。ウォーキングなどは軽い運動に相当します。一日30〜40分程度のウォーキングをしていれば、定期的運動をしていたグループの人たちの運動量と同じということになります。地中海食は日本人にはあまりなじまない食事かもしれませんので、この結果をそのまま日本人に当てはめるのは無理があるだろうと思いますが、野菜と魚を中心とした、伝統的な日本食であれば、塩分のとり過ぎに気をつけて、オリーブオイルを取り入れれば、かなり地中海食に近いといえるかもしれません。

それにしても、この研究では、約6人に1人がアルツハイマー病を発病しています。この頻度の高さにはちょっとショックを受けますが、定期的に神経内科の専門医が診ていて診断したものですので、かなり軽症例も含まれていると思われます。

このような結果をふまえて、まず言えることは、運動をしている人は続けましょう、ということです。運動習慣のない人は、ウォーキングなどの軽い運動を始めましょう。そして、食事も、野菜や魚中心に変えていくようにしましょう。

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