血清脂質を改善させるための運動とは

運動不足が生活習慣病の発症や悪化に関係することは明らかで、また、逆に運動をすることによって生活習慣病の改善が得られることも確かなようです。高血圧については一日30分の、ちょっと早足の”ニコニコペース”のウォーキングに効果があることが証明され、高血圧治療の国際的なガイドラインにも組み込まれています。
では、高脂血症についてはどのくらいの運動に効果があるかということは、十分なデータがありませんでした。我々も高血圧に準じた運動を指導するというのが現実でした。今回発表された研究は、血清脂質を改善させる運動の量と質(運動強度)について検討したものです。

ちょっと問題が複雑になってしまいますが、血清脂質とひとことで言ってもいろいろな分類があります。もっともよく使われるのは、総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールという分け方であろうと思います。実は、コレステロールと中性脂肪はアポ蛋白とよばれるタンパク質と結合したリポ蛋白という粒子として血液中に存在しています。油であるコレステロールそのものが血液に溶けているわけではないのです。そして、リポ蛋白には主に3種類あります。VLDL、LDL、HDLの3種類があります。大ざっぱに言うとLDLは動脈硬化を進め、HDLはそれを防いでくれます。HDLが善玉といわれるのはそのためです。最近の研究では、同じHDLやLDLでも、粒子の大きさの違うものがあることがわかってきました。簡単にいうと善玉のHDLは粒子の大きいほどより善玉であり、悪玉のLDLは粒子が小さいほど悪玉である、ということがかってきました。

今回紹介する研究では、これらのリポ蛋白を、HDLやLDLの量だけでなく粒子の大きさも含めて、よりよい状態にする 運動は、運動量が大切か、運動強度が大切かということを調べたものです。New England Journal of Medicine誌 11月7日号, vol 347, p.1483- 1492に掲載されたものです。

対象となったのは40〜65歳の肥満傾向(BMI 25〜35)の男女159名です。血清脂質はLDLは130〜190、HDL男性40以下、女性45以下という、動脈硬化のリスクは比較的高い人たちです。この人たちにそれぞれプログラムされた運動を行ってもらいました。8ヶ月後に検討対象として残ったのは84名でした。

運動メニューで以下の4グループに分けています。

最大酸素摂取量については以下に解説します。

8ヶ月後の血清脂質の状態は図に示すようになりました。

LDLコレステロールの量、LDLのサイズ、HDLコレステロールの量、HDLコレステロールのサイズなどについて、いずれも運動強度が強いほど、運動量が多いほど良い方向に変化することがわかります。特に、HDLについては、改善が見られたのは高強度高運動量のグループだけでした。以下の様になりました。

従ってここからいえることは、運動は血清脂質を良い方向へ変化させるが、善玉コレステロールも悪玉コレステロールもいずれも良い方向に変化させるには運動量が重要ということになるかと思います。この論文の著者らは、週17km程度のウォーキングやジョギングよりも、週27〜29kmの中等度の強度で行うジョギングが血清脂質によい効果を与えるとしてそのような運動を勧めています。

運動が血清脂質を改善するメカニズムはまだ十分解明されていませんが、運動によりリポ蛋白リパーゼという酵素が活性化されることが関与していると考えられています。

それにしても、週30km弱のジョギングを続けるというのはかなり大変なことです。しかし、このデータはあくまでも、コレステロールなどをよくするための運動量ということで、それ以下の運動、つまり、20-30分のウォーキングや体操などの簡単な運動に意味がないというわけではありません。肥満解消、ストレス解消、血圧を下げる効果などは手軽な運動でも十分効果があります。

最大酸素摂取量の・・%の運動というのがどんな運動かを感覚的に理解する目安として、以下のようなものがありますので紹介します。(健康運動のガイドライン、日本医師会編より)

最大酸素摂取量の 感じ方 その他の感覚
100% 最高にきつい 体全体が苦しい
90% 非常にきつい 無理、100%と差がないと感じる、若干言葉がでる、息が詰まる
80% きつい 続かない、やめたい、喉が乾く、がんばるのみ
70% ややきつい どこまで続くか不安、緊張、汗びっしょり
60% やや楽であ いつまでも続く、充実感、汗がでる
50% 楽である 汗が出るか出ないか、フォームが気になる、物足りない
40% 非常に楽である 楽しく気持ち良いがまるで物足りない
30% 最高に楽である じっとしているより動いた方が楽

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