私のめまい体験

先日、ひどいめまいを経験しました。私自身が経験しためまいについて紹介しましょう。めまいにはいろいろな原因がありますが、私のめまいは、「良性発作性頭位変換性めまい」。頭の位置を変えたときに起こるめまいです。めまいの原因としてはもっとも多いといわれるものです。

きっかけは、私の寝相にありました。2006年4月13日木曜日の夜、どうやら私は、ベッドの右の縁から頭が半分ずり落ちたような体勢で寝ていたようです。その体勢でおそらく何十分か、あるいはもしかすると一時間以上寝ていたんだと思います。その体勢でふと目が醒めて、左にぐっと寝返りを打ちました。その瞬間、グラグラとめまいが起きました。どんな感じかというと、子供の頃、自分の体をグルグル回してぱっと立ち止まって、立っていようとしても目が回って立っていられないのを面白がって遊んだことがありますが、そのような感じです。その感じが寝ていて突然おそってきました。めまいに関する知識があったので、脳梗塞ではないか、などと不安になることはありませんでした。その後も少し眠ったと思いますが、朝目が醒めて起き上がろうとして、再びぐらっと来ました。壁を伝って洗面所に行き、顔を洗おうとしましたが、下を向くとまたぐらぐら。しかたなく膝をついて顔を下に向けないで顔を洗い、髭をそりました。髭をそるときも、顎の髭をそるためにちょっと上を向いただけでまたぐらぐら。頭を少しでも動かすとめまいが始まります。とにかく頭を動かさなければいいんだと思いました。しかし、続けて起こるめまいに脂汗が出てきました。鏡を見て自分の顔色が真っ青なのに気づきました。そしてなぜか便意を催し、トイレに行きましたが、そこでもまた、困難が待っていました。ズボンを下ろすときどうしても下を向いてしまうため、そのときにまたぐらぐら。ウォシュレットのボタンが便座の右に付いていますが、そのボタンを見ようと右下に顔を向けたら、また激しいめまいにおそわれました。洗面所で床にしゃがんでめまいが鎮まるのを待ちました。そして、何とか、着替えて身支度は整えました。いつもなら車を運転して診療所に行くところですが、その日はタクシーにしました。玄関まで妻が鞄を持って見送ってくれました。結婚以来初めてのことでした。診療所に着く頃にはだいぶ治まっていましたが、常に車酔いをしたような感じは抜けませんでした。仕事中も、カルテを書くときはできるだけカルテを前の方に置いて、真下を向かないで書くようにしました。診察の時も、たとえば患者さんの足を診るとき、イスに座ったまま顔を下に向けるとぐらっと来るので、イスから下りて診るようにしました。女性や小児の診察の時は、その都度イスの高さを変えて顔を上や下に向けなくてすむように工夫しました。夕方6時に診療が終わってから市内のS耳鼻咽喉科で診ていただきました。7時まで診療されているので助かりました。やはり、良性発作性頭位変換性めまいという診断で、私の場合は左下にして12時間寝るようにといわれました。初期は安静が大切ということで、2日後にはS先生とも一緒にゴルフにいく予定でしたが、今回は断念しました。もっとも、スイングはおろか、ティーアップやボールを拾い上げることもままならなかったでしょう。診断も確定し、薬を3種類処方して頂きました。気分的にも落ち着いたと思った矢先、エレベーターに乗ったときに上を向いたら、エレベーターの加速と相まってまた激しいめまいが起きてしまいました。

とにかく、下を向かない、上を向かない、首を傾げるような動かし方はしない、などに気をつけて生活しました。言われたとおり、左下にして眠りました。毛布を丸めたものを背中に入れて横向きを保つようにしましたが、途中でどうしても仰向けになってしまっていました。その都度向きを変えるのですが、そのときにもぐらっとめまいを感じました。

専門書には自然に治るが、治るまでに1〜2ヶ月かかると書いてありました。S先生にも同じようにいわれていましたので焦らないことにしました。

しかし数日の間に徐々に軽くなっていることは実感しました。下を向いても短時間ならぐらっと来なくなりました。とはいってもまだ、上を向くのと首をかしげるような動きではめまいが起きました。なるほどこんな感じでよくなってくるんだなと思い、次のようなシートを作り、ここに○(大丈夫)、△(ちょっとめまいを感じる、乗り物酔い程度)、×(かなりめまいを感じてその体勢のままではいられない)を記入して、徐々によくなっていることを実感するようにしました。

 <私が考えためまい改善確認シート>

  ○月○日 ○月○日 ○月○日
寝返        
 仰向けから右下
 ×
 ×
× 
 
 仰向けから左下
× 
 △
 △
 
 右下から仰向けへ
 ×
△ 
 △
 
 左下から仰向けへ
 ×
△ 
 △
 
ベッドからのがり
 ×
× 
 △
 
いて
 ×
× 
 ×
 
をかしげる
 
 
 
 
 
 ×
× 
 ×
 
 
 ×
× 
 ×
 
 
 
 
 
 
 △
 △
 
 
 △
 △
 ○
 
から
 
 
 
 
 から左上
 ×
 △
 △
 
 から右上
 ×
 ×
× 
 
うがいをする
× 
 ×
× 
 
粉薬む(一瞬く)
× 
 △
 △
 
真下
 ×
 △
 △
 
いすにって
 ×
 △
 △
 
ったまま
 ×
 ×
× 
 
いた
× 
 ×
 ×
 
さより位置のものを
 ×
 ×
× 
 

また、治療には薬だけでなく、頭を特定の方向に動かして行う理学療法があります。これは、良性発作性頭位変換性めまいが、三半規管の中にカルシウムの沈澱物が生じることが原因で、そのカルシウムの沈澱物を動かして三半規管の外に出そうという考えに基づいています。少しよくなっていましたので、かえって悪くなるといやだと思いましたが、何事も経験と思い、試してみました。ただ、それによってかえってめまいがひどくなる場合も想定して、休日を待って試すことにしました。ちょうどめまい発症から9日目の土曜日、私は学会で長崎のホテルに泊まっていました。方法は Brandt- Daroff法というもので、患者自身が行うものです。詳しくはこちらのホームページ(英語)が参考になります。ベッドの縁に足を下ろして座り、まず左下になるよう横になり、30秒その姿勢を保ち、体を起こして座り、30秒そのままで、今度は反対に右下にして横になり、同じく30秒そのまま。再び体を起こして座るというものです。ポイントは姿勢を変えるときにできるだけ早く動くことと、横になったときの顔の角度を45°に保つことだそうです。この”顔の角度を45°に保つ”は、6フィート(183cm)離れたところに人が立っていると考え、その人の顔を見つめながら体を動かすようにするとよいそうです。体を寝かせたときにぐらっとめまいが起きますが、その姿勢でしばらくたつとめまいは鎮まります。この運動を5セットを一回とし、一日3回行うというものです。幸いこの運動をしたためにめまいが悪化することはありませんでした。運動の要領はつかめたので、これから一日3回やろうと思いました。ところが翌朝大きな変化が起きていました。

寝る前はまだ軽いめまいはあったように思います。夜はホテル泊まりだったので、横向きで眠るための背中に入れる枕がないので、普通に仰向けで、枕は少し高くして寝ました。朝起きたとき、今まではそーっと起きないと、ぐらっと軽いめまいを感じたのですが、それが感じられませんでした。あれ?治っちゃったのかなと思いました。いろいろな方向に首や体を動かしてみましたが、どうやら大丈夫なようです。夕べのBrandt- Daroff法がよかったのでしょうか。それとも処方された薬が効いてきたのでしょうか、あるいは長崎の空気がよかったのでしょうか。理由ははっきりしませんが、どうもBrandt- Daroff法が効いたように思います。もしめまいが再発したら、今度は薬を飲む前にBrandt- Daroff法を試して、何がよかったのかはっきりさせたいと思います。その点は続報をお楽しみに。(といってもあのめまいは再発して欲しくはありませんけどね)

めまいに悩む方がこのページをご覧になって、Brandt- Daroff法などを試してみたいと思われるかもしれませんが、専門医の診断、ご意見を必ず確認してください。効果があるのは頭位変換性めまいだけで、メニエール病、突発性難聴などのめまいには効果はありません。また、頸椎の異常があるような場合には、首をひねることが危険ですらあります。

何はともあれ、一ヶ月は覚悟していためまいが思いのほか早く治まり、ほっとしました。しかし、今回、このような病気については、何が原因で起こり、治るまでどのくらいかかり、そのためには日常生活でどんなことに気をつけなければいけないかということを本人が知っておくことがいかに大切かわかりました。つまり、医者として患者さんにはどんなことを伝えるべきなのか、ということも学びました。”続報”は、ない方がいいですが、もし再発したらお伝えします。

めまいの続報

前回めまいが起きたのは2006年4月でしたから1年半ほど経過しました。今回、2007年11月19日朝からまた、あのめまいが起きました。きっかけは、前の日に娘の鉄棒の練習に付き合って、公園の鉄棒で前回りを1回、逆上がりを2回ほどしたのですが、どうもそのときの前回りがよくなかったような気がします。あるいは寝ている間に激しく寝返りを打っていたのかもしれません。そこで、今回、薬は使わずにBrandt- Daroff法を試してみることにしました。しかし、前回のように劇的な効果は得られませんでした。むしろ、身体を横にしたときのめまいが激しく、続けるのがつらく、本来は5回行うところが3回までしかできないほどでした。やはり急性期は安静を保って、薬に頼る方がいいように思いました。5日ほど経って少し軽くなってきたところでまた始めてみました。しかし、あまり効果はないようでした。2年前の劇的な効果はやはり偶然だったのかもしれません。また、私のやり方にも多少問題があったようで、もう一度前述のホームページ(こちら)で確認してみました。動画も収録されていましたので、それを参考にしました。私のやり方の間違っていた点は、座位からまず先に顔を45°左に向けてから身体を右側臥位にするという点と、側臥位になったときに頭は少し下がるようにするという点でした。その2点に注意してやってみると翌朝起きたときのめまい感が少し和らぎました。やはりちょっとしたやり方の違いで効果が違ってくるようです。そして、Brandt- Daroff法を行った後はあまり動かずにそーっとベッドで寝るようにした方がいいようです。2年前旅先でうまくいったのはホテルの狭い部屋の中であまり動かなかったのがよかったのかもしれません。また、やはり薬も効果はあるようで、午前中ちょっとよくても昼の薬を飲み忘れると夕方から再びめまいが悪化しました。

そんなわけで、良性発作性頭位変換性めまいの治療について、私の経験から言えることは、「初めの数日は薬を3回きちんと飲んで、安静にし、少し落ち着いて生きたらBrandt- Daroff法を正しい方法で行う、夜にBrandt- Daroff法を行ったらあまり動かないで床につく、そのときは枕を高めにする、」というのがいいように思いました。

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