メタボリックシンドロームとは
2005年4月の内科学会総会で、”メタボリックシンドロームの定義と診断基準”が発表されました。ウエスト周囲径を重要視した基準となっており、新聞でも取り上げられましたので、ご存知の方も多いと思います。その診断基準は次のようなものです。
<診断基準>
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どうしてこのような基準が必要なのか
高血圧、高脂血症、糖尿病が、動脈硬化の原因として重要なことは明らかとされていますが、実は、血圧がちょっと高めだったり、コレステロールは正常だけどHDLコレステロールが低めだとか、糖尿病の気がある(糖尿病の診断基準は空腹時血糖126mg/dl以上、正常は110mg/dl未満なのでその間の場合など、境界型といわれます)というような人たちも、動脈硬化を起こしやすいことがわかってきました。そのような人たちの場合、病気として重大に考えていないことが多く、知らず知らずのうちに動脈硬化を進めてしまっている場合があります。そのようなことを予防するため、注意を喚起する目的でメタボリックシンドロームが提唱されたものです。海外ではすでにいくつかの診断基準があったのですが、内蔵脂肪を測定する必要があるなど簡便なものではなく、その点、今回の日本の基準は、大変簡便で、分かりやすい基準だと思います。
ウエスト周囲径が重要なわけ
この基準では、ウエスト周囲径が必須項目となっています。それにはどんな意味があるのでしょうか。それは、内蔵脂肪蓄積と関係があり、インスリン抵抗性という病態と深く関係があるのです。インスリン抵抗性とは、インスリンは出ているけれど身体がインスリンを感じ取らなくて、インスリンが効かない状態です。インスリンは血糖値を下げるホルモンです。食事をするとすぐに膵臓から分泌されて血糖値を下げてくれます。インスリンが血糖値を下げるのは、身体の細胞がインスリンを感じ取り、細胞内に血液中のブドウ糖を取り込むからなのですが、細胞がインスリンを感じ取れなければ、ブドウ糖を細胞内に取り込むことはなくなり、血糖値は下がりません。そのような病態をモインスリン抵抗性があるモというのですが、その場合、糖尿病になりやすいことや、動脈硬化が進みやすいことがわかってきたのです。特に、診断基準項目にあるような検査異常も伴うような場合は特に進みやすいため、注意が必要なのです。
どんな意味があるのか
高血圧、高脂血症、糖尿病にはあてはまらなくても、メタボリックシンドロームと診断されたら、動脈硬化が進みやすいですよという注意信号だと思ってください。
実際に、欧米ではすでに多くのデータがあり、メタボリックシンドロームと診断される人は、高血圧、高脂血症、糖尿病と同じように、動脈硬化のリスクが高いことが知られています。日本でも、メタボリックシンドロームと診断される人は、心筋梗塞などの心血管疾患の発生率が1.8倍高い(40歳以上の男性、8年間で)というデータがあります。
いわゆる高血圧、糖尿病、高脂血症とはどう違うのか
高血圧、高脂血症、糖尿病にはそれぞれ診断基準があり、それらと診断されたら、動脈硬化の予防のために治療を受けてほしいと思います。しかし、検診などで、それらのいずれにもあてはまらなくても、メタボリックシンドロームにあてはまるならば、動脈硬化のリスクが高い状態、ということですから、同様の対策が必要と考えてください。今までは”予備軍”というような呼び方をされていましたが、それは、まだ大丈夫、という意味ではなく、すぐに治療を始めましょう、ということを意味しているのです。
治療は?
では、メタボリックシンドロームと診断されたら、どうしたらいいのでしょうか。治療の効果はあるのでしょうか。
まず、病態の中心はインスリン抵抗性ですから、それを改善するため、食事療法、運動療法が必要です。
食事では、総カロリーを減らし、脂肪、特に動物性脂肪を減らし、塩分を減らしましょう。そして、緑黄色野菜を多くとり、食物繊維、カルシウムを多くとるようにしましょう。
運動は一日20〜30分のウォーキングなどの有酸素運動を行いましょう。それらは、インスリン抵抗性を改善し、高血圧や糖尿病の発症を予防する効果があります。
体重と一緒にウエストも時々測って、効果を確認しましょう。体重より早く効果を実感できると思います。
<参考文献>
日本内科学会雑誌2005年4月日号、メタボリックシンドロームの定義と診断基準、メタボリックシンドローム診断基準検討委員会、vol 94, p188-203, 2005