壮年期の体重と老後の予後について

高血圧、高コレステロール血症、喫煙などが動脈硬化の原因となり、心筋梗塞や心血管疾患を併発し、生命予後を悪くしや入院回数を増やす要因となることはよく知られています。肥満も、同様に危険因子となるのですが、高血圧、高コレステロール血症などがない場合、太っている人と標準体重の人で差があるのか、あるいは、高血圧、高コレステロール血症のレベルが同じくらいだったら体重によって予後が違ってくるのか、という点についてはあまり検討されておらず、私も疑問に思っていました。つまり、血圧やコレステロール値がよくコントロールされていれば、多少の肥満はそのままでもよいのか、あるいは逆に多少太っていた方が予後はいいんじゃないか、という疑問があったわけです。

今回紹介する論文は、その疑問にある程度答えてくれるものだと思います。Journal of American Medical Association米国医師会雑誌2006年1月11日号、vol 295, 190-198に掲載されました。

研究は、17643名の31〜64歳の男女を対象に行われました。その人たちが65歳になったときに、冠動脈疾患、心血管疾患、糖尿病などによる、死亡率と入院歴の率について検討しています。対象者は、まず、BMIによって、18.5〜24.9の正常群、25.0〜29.9の過体重群、30.0以上の肥満群に分け、つぎに、、動脈硬化のリスクについても、低リスク群、中等度リスク群、高リスク群に分け、それぞれの群で、肥満度とその後の転機との関連を検討しています。低リスク群は、血圧120以下/80以下、コレステロール200以下の人たち、中等度リスク群は血圧121〜139/81〜89、コレステロール200〜239で非喫煙者の人たち、高リスク群は血圧140/90以上、コレステロール240以上、喫煙のうち一つ以上を持つ人たちです。

BMIの計算式

BMI=体重(kg)/(身長(m)x身長(m))

結果は、いずれの動脈硬化のリスク群でも、BMIの高い人ほど死亡率や入院する率が高いという結果がでました。私の期待としては、もしかすると、動脈硬化のリスク(血圧、コレステロール、喫煙)が同じであれば、多少太めの方が予後はよい、つまり、死亡率などは低いという結果も出るのではないか、と考えていました。しかし、そうではありませんでした。やはり、肥満傾向のある場合の方が予後はよくないという結果となりました。特に注目したのは、動脈硬化のリスクが低い場合、BMIはどのように影響するのか、という点だったのですが、正常体重の人たちに比べ、冠動脈疾患による死亡、入院とも、過体重群は約1.3倍、肥満群は、死亡率1.4倍、入院4.25倍、心血管疾患では死亡率、入院とも過体重群は1.1倍、肥満群では死亡率1.29倍、入院2.3倍という結果でした。

やはり、血圧やコレステロール値が高くなくても、あるいはそれらが治療で下がっても、体重がオーバーであれば、それを減らすことで、いっそうの予後改善になる、ということがいえそうです。ちなみに、ここで標準体重と、過体重の境界となったBMI 25というのは、身長160cmの人では体重64kgです。検査結果に拘わらず体重はできるだけ標準体重BMI 22に近づけた方がよいということです。ただ、ここで検討したのは、冠動脈疾患、心血管疾患、糖尿病などによる、死亡率と入院歴の率であり、がんや感染症による死亡も含めるとどうなるのかという疑問もわきますが、その点は、BMIが提唱された時点で、最も死亡率が低いのがBMI 22だったというデータが出ていますので、やはり、太っているよりは標準体重のほうがよい、ということのようです。

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