中年期の喫煙と認知症の関連

喫煙が発がんや動脈硬化と深い関係があることはよく知られています。今回紹介する論文は、喫煙と認知症との関係を検討したものです。Archives of Internal Medicine誌、20101025日号に掲載されたものです。

アメリカ、カリフォルニア北部で行われた調査で、1978年から1985年の間に登録された、当時5060歳の21,123人を対象としています。そして、全員に対して1994年と2008年に認知症の検査がされています。つまり、20年にわたって行われた追跡調査ということになります。その中で、認知症の発症と調査開始時の喫煙量との関連が検討されました。

また、いわゆる認知症には、アルツハイマー病と、脳の動脈硬化に伴って起こる脳血管性認知症の2種類がありますが、その両者について検討を行っています。その結果、平均23年の観察期間の間に、5,367人に認知症が発症し、そのうち1,136人はアルツハイマー病、416人は脳血管性認知症でした。年齢、性別、教育レベル、人種、配偶者の有無、心疾患、脳卒中、飲酒歴などを調整した結果、アルツハイマー病、脳血管性認知症のいずれも、非喫煙者に比べ、2箱以上の喫煙をしていた人の方がなりやすかった(ハザード比それぞれ2.57, 2.72)という結果でした。

今まで喫煙と認知機能の関係については、様々な検討がされてきています。台湾の研究では、10年間の観察期間ですが、喫煙者の方が認知機能は保たれる、という結果のものもありました。中年期の喫煙量との関連をみたものでは、中年期の喫煙が多いとアルツハイマー病の危険性が高まるというものや、特定のアポ蛋白を有する人では喫煙との関連が認められたとするもの、認知機能低下で入院に至ったケースと喫煙量は関係がなかったというものなど様々でした。観察期間が短い、高齢者が対象になっていたなどの問題があり、長期間の大規模な前向き研究が望まれていたわけですが、この研究はその点を解決したものの一つといえます。

最近は、禁煙治療の目的で受診する方が増えています。たばこの値上げなど、きっかけは様々だと思いますが、健康を意識して禁煙に取り組まれることは有意義なことだと思います。禁煙外来では、発がんや動脈硬化の進行などが喫煙の弊害と説明してきましたが、そればかりでなく、認知症との関連も禁煙を考える重要な要素となりそうです。今後は、喫煙していてもやめれば認知症のリスクは非喫煙者並に低下するのかといったデータも望まれます。また、副流煙によるリスクがあるのか、といった点も気になるところです。

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