ホームヘルパー養成研修 難病の基礎知識 I
朝霞保健所 2008年10月30日(木)
介護福祉士、ホームヘルパーの方を対象とした研修で講義をさせて頂きました。私が担当したのは「難病の基礎知識 I 」という項目で、特に膠原病を中心にお話しさせて頂きました。
難病患者さんの介護の特徴
- 年齢が若い
- 身体面、精神面、両面からアプローチが必要
- 疾患に特有の介護が必要な場合も
- 疾患の理解が不可欠
膠原病とは
- 膠原線維に異常(フィブリノイド変性)が認められることが特徴の疾患群として定義された
- いくつかの病気の総称
- 共通する症状、共通する免疫異常がある
膠原病に含まれる病気
- 関節リウマチ
- 全身性エリテマトーデス
- 強皮症
- 多発性筋炎・皮膚筋炎
- シェーグレン症候群
- 混合性結合組織病
- 抗リン脂質抗体症候群
- 血管炎症候群
- 成人スティル病
- その他
膠原病の症状の特徴
- 発熱、関節痛、筋肉痛、こわばり、倦怠感など
- 関節変形(関節リウマチの場合)
- レイノー現象(指先などが寒冷刺激に対して敏感に反応し、血流が低下し、指先が冷たく真っ白になる)
- 乾燥症状(シェーグレン症候群の場合)
関節リウマチの症状
- 脱力感、微熱、全身の痛み、こわばり
- 関節症状:朝のこわばり、複数の関節が腫れる、痛む、動きが悪くなる、変形
- 皮膚にしこりや潰瘍。
- 手・足のしびれ血管に炎症が生じ、内臓の障害がみられる場合に、「悪性関節リウマチ」(特定疾患)と呼ばれることがあります。
強皮症の症状
- レイノー現象
- 皮膚が硬くなると手指がこわばる、つっぱる感じ、しわが少なくなる、関節を曲げたり伸ばしたりすることが困難、を大きく開けられない、指先が短くなる、潰瘍ができやすい、皮膚の色が黒ずんだり白くぬけてくるなどの症状
- 食道病変:げっぷや胸やけがするなど
- 肺病変:せき、息切れなど
- 腎臓病変:高血圧
- 強皮症の症状
全身性エリテマトーデスの症状
- 発熱、だるい、体重が減る、関節が痛む、リンパ節が腫れる、レイノー現象など
- 皮膚症状:顔に蝶形の紅斑がでる、指、手のひら、耳、前胸部、足の裏などに紅斑がでる、日光過敏、脱毛、口の中に潰瘍ができやすい
- 尿に蛋白や血尿がでてむくむ
- てんかん様のけいれん
皮膚筋炎/多発性筋炎の症状
- 発熱、脱力感、体重減少、関節痛、レイノー現象
- 腕や肩、頚、胸部、腰、大腿などの筋力が低下するため、起床時起き上がるのが困難、物を持ち上げられない、立ちしゃがみができにくい、階段の昇降ができにくい、歩くのが困難など
- 皮膚症状では顔面の紅斑、上まぶたのむくみを伴う紫紅色の紅斑、関節の背部紅斑
- 肺病変:せき、息切れ
膠原病の経過
- 「寛解」と「増悪」を繰り返すことがある
- 膠原病患者さんの訴え
- 倦怠感、痛み、微熱
- 不安、うつ、孤独感
- 皮疹、関節炎、関節変形
- ムーンフェイス、肥満(ステロイドの副作用)
- その他
患者さんの声
- リウマチは人生を変えてしまう程の病気だと思います。(27歳、女性)
- ー日として痛みのない日はありません。いつも重い大きな石を背負っているようです。(54歳、女性)
- 不自由は慣れるけど、毎日毎日の痛みは人間性まで変えてしまいます。寿命は縮んでも痛みのない日を送りたい。笑顔は消えました。(57歳、女性)
- 「ありがとう、すみません、申し訳ない」、この言葉を日に何回も言わなければならない自分に腹が立ち、もう嫌です。(73歳、女性)
- 自分が痛くて辛いので人に優しくなれない。性格が悪くなりそうです。感謝しながら毎日暮らしてはいるが、無理解、無神経な人も多く、参ってしまう事がある。仕事、家族、おしゃれなど、大切なものを根こそぎ奪わわていきました。(36歳、女性)
- 頑張っても不可能な事と少し頑張ることで機能を維持できることがありますから、つねに精神的なバランスが難しい。痛みが強いときとそうでないときの精神状態も大きく違う。・・・(60歳、女性)
- ケアマネージャーに思う
- 精神的に傷つけられた。
- 頼めば来る。威張っている。
- 利用者の性格なども分かって欲しい。
- 良い人だと思うが勉強不足。
- へルパーに思う
- 40代からへルパ一さんに助けてもらっています。へルパーさんは同世代の方が多く、リウマチを「気の病」と誤解している元気な人が多いのには困ります。(50歳、女性)
- へルパーさんとお話をするが、リウマチの事を理解する人は殆どいないと言ってよい。(59歳、女性)
- 毎日代わるので疲れる。
- へルパー同士の連絡が悪い。
- 我が家のやり方に慣れたころ、人が代わってしまう。(63歳、女性)
- 別の訪問先の悪ロを言う。
- したいと思うこと
- 自分の身体を自分で洗いたい。(57歳、女性)
- 買い物をしたり、花を見たり、映画を観たり、ふつうのことがしたい。(59歳、女性)
- 思いっきり走りたい。ホノルルマラソンを走るのが夢でした。(58歳、女性)
- お寿司を箸で壊さないで品よく食べてみたい。(60歳、女性)
- 薬を飲んでいるにもかかわらず、どんどん変形(手足の指)が進んでいき、自分でできないことが増えていくのが辛い。この先年をとっていったときどうなるのだろう。(53歳、女性)
- 一見元気そうに見えるので、怠けているように思われるのが辛い。分かっていても痛みや変形や副作用が出るたびに辛くなります。終わりのない通院も、分かっていても病状が進むと、先生の力不足ではないかと思ったり、その気持ちは何となく伝わり、信頼関係が保てなくなったりすると、トンネルの中に入ったような気になります。(55歳、女性)
- 不安といえば不安、辛いといえば辛いのですが、楽天的に考え、家族やヘルパーさんに支えられて暮らしております。
- ピアカウンセリングについて学んでみようと思っています。(41歳、女性)『流』(日本リウマチ友の会の情報誌)のおかげで資格をとりました(40歳、女性)
- 身障者採用で就職でき、30歳過ぎてからの人生は良い方向に向かった
- MCTDと付き合って12年になります。外見は健常者と変わりないのですが、少し歩くと咳が止まらないので困ります。一番乗り会社である夫とお花見に行ったり札所巡りをして楽しんでいます。
- 在宅での仕事は、睡眠、休養のやりくりを可能にしてくれます。また、仕事の合間にヨーガと筋トレに励んでいます。
- 友の会に入会し本当に心強い一日が始まっています。いろんなことで悩んでいる時、人との出会いが解決してくれました。
2005年、リウマチ白書、埼玉県膠原病友の会機関誌より
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- これらの声から分かるように、患者さんたちは、病気のために毎日が辛い戦いを強いられているということを理解することは必要です。
- 利用者さん(患者さん)の性格が悪いんじゃないか、と感じることもあるかもしれませんが、患者さんもそのことで悩んでいることが感じ取れますし、病気がそうさせてしまっている、という部分があることを理解することが必要かもしれません。
- また、高齢者の介護では、動きたがらない方や、認知症の方に対して、自分でできることは自分でさせた方がよい、という考えで介護を行っているところはあると思いますが、リウマチなどの患者さんではそれとはちょっと違った視点も必要です。
- ケアマネージャーやヘルパーに対して厳しい意見がありました。基本的に、介護の仕事に就く人たちですから、人のために何かやってあげたい、という純粋な気持ちをお持ちだと思いますが、特に若い難病患者さんの場合、「人のお世話になる」ということを悔しいと感じている部分が大きい、ということに対して理解が必要なのかもしれません。特に大切だと思うのは、その日その日の病状を時間をかけてよく聞いて、理解することだと思います。
- 後半に出てくる意見のように、辛い状況の中から希望を見いだしている方もいらっしゃいます。その方達に共通するのは周囲に理解者がいることだと思います。理解者が家族である場合が多いと思いますが、それ以外に、同じ病気の仲間だったり、病院の看護婦さんだったり、ヘルパーさんだったり、ということもよくあります。良き理解者の一人となれるような関わりができたらすばらしいことだと思います。
膠原病患者さんの在宅介護における留意点
- 家族以外の理解者の一人であること
- 患者さんのプライドを尊重
- 明るい介護、コミュニケーション
- 栄養バランス
- 関節などの保護を考えた介護
- 褥瘡の予防
疼痛に対する理解
関節リウマチの場合
手関節、指関節の痛みのために困ること
- 物を握る、つまむ
- 顔を洗う、歯を磨く、髪をとかす
- ズボンをはく、靴下をはく、ボタンをはめる
- 箸を使う、ふたを開ける
- 字を書く
- お金を受け取る
肩関節痛のために困ること
- 服を着る
- ベッドから起き上がる
- 手を延ばして物を取る
- 排便のあと
膝関節痛のために困ること
股関節痛のために困ること
- 立ち上がり
- 床にある物を拾い上げる
- 車いすへの移乗
- 寝返り
足関節痛のために困ること
強皮症の場合
全般的に
- 頭痛
- 筋肉痛
- レイノー現象
- 寒冷刺激、精神的ストレスなどが誘因となり、四肢末梢の血管が収縮し、血行不良となる
- 痛みを伴い、四肢末梢は白色、紫色になる
- 暖めることで回復
乾燥症状
- シェーグレン症候群の特徴
- 目の乾燥
- 涙液の分泌低下による
- 角膜に傷ができ、視力の低下につながることもある
- 口の乾燥
- 常に水分が必要
- 食事の工夫も必要
- 虫歯の原因となる
- それにともなう慢性的なイライラ感
感染予防
- 免疫異常に伴い、感染症にかかりやすい
- 使用しているステロイドや免疫抑制剤により感染症にかかりやすい
- うがい、手洗い
- 早目の受診を促す
じょくそう
- 関節リウマチ患者さんでは、足や腸骨部などにもできやすい
- 強皮症患者さんでは指先の潰瘍ができやすく、じょくそうと同様の注意が必要
- 体位交換に伴う痛みに注意
- 関節リウマチ症例の足の褥瘡
不安、うつ
- 診断
- 得体の知れない病気
- 他人からのいろいろな情報
- 医療サイドの無理解
- 治療経過
- 慢性的
- いつになったら・・・
- 仕事、家庭、将来・・・
服薬
- 薬の数が多いケースが多い
- たくさんの薬を飲んでいることに対して患者さんは何とかしたいと思っている
- 副作用の不安を常に抱えている
家族の関わり
- 家族が病気を理解しているかどうか は重要
- 嫁姑関係
- 無理解に対する反発
- 家族の世話になることを嫌がる人もいる
まとめ
- 家が一番、と思える関わりを
- 患者さんとよく話すこと
- コミュニケーションは患者さん8割くらいでよい
- 何か小さくても目標を持てるように
- 介護者が「ありがとう」といえるような関わりを
- 明るい介護を
<質疑応答>
Q:リウマチの新しいいい薬ができたと聞きました。若い人に使うと治ると聞きました。私が担当している方は発病して20年以上で年齢も若くはないのですが、そういう薬は使えるのでしょうか?
A:いわゆる生物学的製剤のことだと思いますが、確かに、発症早期の方に使うと、治療の必要がなくなるくらいよく効くことがあることが報告されています。もちろん、発病してからの経過が長い人でもその薬の適応はありますし、よく効く場合もあり、痛みから解放されて喜んでいる方も多くいらっしゃいます。ただ、確かに、高齢者では内臓の合併症などをお持ちのケースが多く、副作用の面でちょっと心配はありますが、経過が長いとか高齢だというだけで使えないわけではありません。
Q:今、脊髄小脳変性症の方を受け持っています。徐々に歩行障害などが出てきていて、介護ベッドやポータブルトイレの使用を進めていますが、受け入れようとしません。自分で起きあがることもできないので、ヘルパーたちも音を上げています。先生からも本人にそうするよう説明して頂いたのですが、受け入れてくれません。何かいい方法はないでしょうか?
A:なかなか難しいケースだと思います。ある意味では前向きな部分もあるのですから、頭から「もう歩くことはできないんだから」と言ってしまうのは可哀想でしょう。ヘルパーや家族のために受け入れて欲しい、とこちらからお願いするようなアプローチの仕方もあるかもしれません(すでに行ったとのこと)。それから、私の経験した同じようなケースでは、家族があまりその方に関わろうとしなくて、ヘルパーさん任せにしていたケースがあり、家族の関わり方に原因の一部があったケースがありました。やはり、患者さんとしては、徐々に病気が進行して、歩いたり起きたりする自由が効かなくなってきて、孤独や絶望の縁にいらっしゃるわけです。患者さんと一緒に悩んだり、苦しんだりする姿勢を家族が示さないと、患者さんとしてはそんな風にして自己主張したくなるのかもしれません。「私と一緒に苦しんでよ」というメッセージなのかもしれません。それまでのその人と家族との関わり方とも関係することなのではないかと思いますので、簡単に答えは出せませんね。あとは時間が解決してくれることを根気よく待つことでしょうか。いい答えができなくてすみません。
<使用テキスト>
- 難病患者等ホームヘルパー養成研修テキスト、改訂第7版
- 監修:厚生労働省特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究班・疾病対策研究会
- 社会保険出版社
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