“大腸癌検診ー便潜血検査”の意義

市の基本検診と同時に大腸癌検診が行われています。会社の健診や人間ドックでもよく行われる検査です。これは、便に血液が混じっていないかを見るためのもので、これで陽性となった場合、肛門、大腸のどこかから出血していることを示します。検査を受けた方は、この検査で陽性だった場合、自分は大腸癌にちがいないと誤解される方が多いようです。確かに、”大腸癌検診で異常が見つかった”のですから無理もないでしょう。

では、便潜血検査で陽性だった場合、大腸癌が見つかる率はどのくらいなのでしょうか。このあたりのことを解説したいと思います。

便潜血検査を2回行い、1回でも陽性だった場合を検査陽性者とするとそのうち約65%は異常なし。30%の人には大腸ポリープがあり、3〜5%の人に大腸癌が見つかるといわれています。その大腸癌の中でも進行癌は50%で、50%は早期癌といわれています(斉藤博、からだの科学増刊: 85-88, 1997)。早期癌であれば多くの場合、内視鏡で切除することができます。大腸癌は非常に予後がいいのでこれで完治となる場合がほとんどです(もちろん定期的な検査は必要ですが)。実際、無症状の人が、大腸癌検診を受けることにより大腸癌による死亡を60%減らすことができたというデータもあります(樋渡信夫、他:がん検診の有効性評価による研究班報告書、平成10年度: 259〜287, 1998)。また、大腸癌の多い欧米の同様の研究でも23%減らしたとされています(B Towler他 British Medical Journal: 317: 559〜565, 1998)。これは、早期癌の発見率が高くなるからということもありますし、大腸の場合は、ポリープが後に癌になることがあり(胃のポリープは胃癌になることはまれです)、ポリープの段階で見つけて切除していることも大腸癌による死亡を減らしたことと関連があると考えられています。実際、毎年、または2年ごとの便潜血検査を行って陽性者については精査、治療を行うことにより、大腸癌の発生自体が80%前後に減ったという報告(JS Mandel他 New England Journal of Medicine: 343, 1603〜1607, 2000)もあります。

これらのデータは、検査を受けた集団を全体で見た場合の結果ですが、これを個人にあてはめて考えると、大腸癌検診で異常があっても癌である可能性はかなり低い、ポリープの段階でとってしまえば癌の発生も防止できる可能性が高い、しかし、もし癌であっても、早期癌が多く、助かる可能性は高い、といえるかと思います。

そのあとに行う検査は少し大変ですが、頑張って受けて頂きたいと思います。

かつては消化管出血の検査というと、オルトトリジン法、グアヤック法などといった化学反応を利用したものが使われていました。この方法は血液中の鉄分に反応するため、動物の血液にも反応してしまうため、肉を食べても陽性となってしまい、正確に消化管出血を調べることができませんでした。ところが、現在用いられている検査法は、人の血液中のヘモグロビンに反応する抗体を用いているため動物の血液には反応しません。この検査で陽性であれば、確かにどこかから出血していると推測できるわけです。しかし、痔からの出血など、癌やポリープでなくても陽性となってしまうという欠点があります。ところが、最近では、便中の癌遺伝子を検出する方法が開発中で、これだとより正確に直腸癌、大腸癌を見つけることができると考えられています。いずれこのホームページでも詳細を紹介できる日が来ると思います。

化学反応を用いた検査から抗体を用いた検査、遺伝子診断へと確実に進歩しているんですね。

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