さかなを食べるとからだにいい?

”おさかな天国”という歌がはやっています。その歌詞に出てくる”さかなを食べるとからだにいいのさ”を裏付けるような論文が発表されました。

一つ目は、魚に多く含まれる脂肪酸(ω3(オメガスリー)脂肪酸)を多くとっている人ほど冠動脈疾患にかかる率が低く、それによる死亡率も低いという論文です。これは以前から言われていたことですが、今回発表されたデータは、8万人以上の多くの対象者について、16年間という長期間にわたって行われた研究であることと、対象が女性である点が今までの研究とは異なります。アメリカ医師会雑誌(JAMA)4月10日号に発表されました。(JAMA2002, 287; 1815-1821)

研究は1976年に開始されました。対象となったのは84,688名の34歳から59歳の看護婦さんたちです。1980年を開始時点とし、1980年、1984年、1986年、1990年、1994年に、食事内容61品目について調査をしています。それぞれの食品について、一日に”全くとらない”から”6回以上とる”の9段階に分けています。食事の内容からω3脂肪酸をどれだけとっているかも計算しています。1996年に対象者の最終調査をしています。その結果、1513名の冠動脈疾患の発生があり、うち484名はそのために亡くなっています。

冠動脈疾患があったかどうか、致死的な冠動脈疾患だったかどうかという点を最終検討項目として魚の摂取量、ω3脂肪酸の摂取量との関係を検討しています。結論から言うと、ω3脂肪酸の摂取量が多い人ほど致死的、非致死的を問わず、冠動脈疾患の発生が少なかったというのです。

ω3脂肪酸の摂取量は、エネルギー摂取量のうちの何パーセントをω3脂肪酸からとったかによって5段階に分けています。最も少ないグループではエネルギー摂取量のうち0,03%前後、もっとも多いグループでは0.24%となっています。ω3脂肪酸の摂取量の最も少ないグループにおける冠動脈疾患の発生率を1とすると、ω3脂肪酸の摂取量が増えるほど冠動脈疾患の発生率は減り、最も摂取量の多いグループでは0.66となっています。冠動脈疾患の発生に影響すると考えられる年齢、喫煙、BMI、アルコール摂取量、閉経しているかどうか、身体活動性、アスピリンの服用量、ビタミン剤の使用、ビタミンEの使用、高血圧、高コレステロール、糖尿病などについては各グループで差が出ないように調整してあります。

魚の摂取量が多いと冠動脈疾患になりにくいということは、アラスカ、グリーンランド、日本などの漁村の住人には冠動脈疾患が少ないという疫学調査から推測されていました。そして実際に魚の摂取量が多いと冠動脈疾患が少ないということも明らかとなり、さらに、一度心筋梗塞などの冠動脈疾患にかかった人について、魚の摂取量を増やすと再発が少ないことが報告されてきました。しかしこれらの研究のほとんどは男性を対象にしており、観察期間も2年程度と短いものでした。その点、今回発表されたデータは女性について信頼性の高いものといえます。

ω3脂肪酸がどうして冠動脈疾患を防ぐのかについてはまだ十分わかってはいませんが、血清中性脂肪を減らす働きがあること、血小板凝集を抑制する働きがあること、不整脈を抑制する働きがあることなどが実験的にも確認されており、それらの機序により冠動脈の閉塞を防ぎ、冠動脈疾患を抑制するのだろうと考えられています。

ちょうど同じ時期に発表されたもう一つの論文では、血液中のω3脂肪酸の量と心疾患による突然死との関連が報告されています(New England Journal of Medicine2002, 346, 1113-1118)。ω3脂肪酸の摂取量ではなく体内(血液中)のω3脂肪酸の量との相関をみています。

1982年の時点で健康だった22071名の40歳から84歳の男性医師を対象としています。最長17年間の観察期間に94名が心疾患と考えられる突然死で亡くなっています。その人たちと年齢、喫煙などの条件が同じ人たちを比較の対象として、最初の段階での血液中ω3脂肪酸量について検討を行っています。その結果、ω3脂肪酸の量を4段階に分けると、もっとも少ないグループでの突然死の発生率を1とすると、ω3脂肪酸量が多くなるにしたがって発生率は0.52、0.19、0.10と低くなっていたというのです。
ω3脂肪酸が心疾患による突然死を抑える理由としては、ω3脂肪酸の抗不整脈作用にあると考えられています。この論文の著者らは、”心疾患による突然死の50%は心疾患の既往のない人におきており、心疾患の既往のない人たちにも予防をしっかりしなければならない。もしこの論文で明らかとなった関係が因果関係であるならば、魚をたくさん食べたり、サプリメントをとることによってω3脂肪酸の摂取量を増やせば低コスト低リスクの介入となるであろう”と最後に述べています。要するに、さかなをたくさん食べることは、お金をかけずに、心疾患による突然死を防ぐ手段となりうる可能性があるということだろうと思います。

”おさかな天国”の歌詞の最後の”さかなは僕らを待っている”が正しいかどうかはさかなに聞いてみないとわかりませんが、”さかなを食べるとからだにいいのさ”は科学的にも証明されつつあるようですね。

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