フェニールプロパノールアミンについて

昨日(2000年11月7日)、NHKのニュースでも報道されていました、塩酸フェニールプロパノールアミンに脳出血の危険性があるという論文について簡単に解説します。

これはアメリカの医学雑誌New England Journal of Medicineの12月21号に掲載予定のもので、重要なニュースのため、雑誌掲載前にネット上で公開されたほどでした。

フェニールプロパノールアミンは日本では風邪薬に含まれる薬品です。アメリカではそれ以外に食欲を減らし、減量を目的にも使用されています。今回とくに食欲減退薬として用いた場合が問題とされました。

18歳から49歳までの、くも膜下出血、脳内出血をおこした患者さんのうち、30日以内にコミュニケーションがとれ、脳内出血のリスクもなく、脳内出血の既往もない702例を対象にそれ以前にフェニールプロパノールアミンを含む薬を使っていなかったかを聞き取り調査したものです。比較のために、一人の患者さんに対して平均2人の、年齢、性別の近い人を同時に選び、同じ聞き取り調査を行っています(つまり、35歳の女性がくも膜下出血で入院したとすると、35歳前後のくも膜下出血や脳内出血をおこしていない女性2人にも同じ聞き取りをしたということです)。

その結果、脳出血をおこした女性患者383人中21人(5.5%)にフェニールプロパノールアミンの服用歴がありました。16人(4.2%)は風邪薬として、6人(1.6%)は食欲低下を目的として服用していたものです。一方、比較のために行った脳出血のない女性750人については、20人(2.7%)にフェニールプロパノールアミンの服用歴があり、19人(2.5%)は風邪薬として、1人(0.1%)は食欲低下を目的として服用していたというのです。この中で特に、食欲低下を目的とした服用歴のある人は、脳出血をおこした女性の1.6%に対し、脳出血のない女性では0.1%となり、この差が統計学的に有意である、と判定されたものです。ちなみに風邪薬として服用した場合は4.2%と2.5%で、この差は統計学的に有意というほどではありませんでした。男性についてはこのような差は認められませんでした。使用量も問題となるため検討したところ75mg以上服用した人と、それ以下の人では明らかに差があるということでした。また、“一般的には35歳〜54歳の人で、脳出血は100万人中0.6人の割合でおこると計算されるが、フェニールプロパノールアミンを食欲減退薬として服用した女性の場合、3日以内に脳出血をおこす危険性は107,00人〜3,268,000人中1人と計算される”とこの論文の著者らは、述べています。

アメリカFDAはこの報告を受け、フェニールプロパノールアミンの製造販売を中止する勧告を出したそうです。以前からフェニールプロパノールアミンと女性の脳出血については何例かの報告はあったのですが、因果関係がはっきりしていませんでした。今回のこのような疫学的調査ははじめてで、フェニールプロパノールアミンと女性の脳出血について危険性の裏付けが得られたと判断したのでしょう。

日本の厚生省は、危険性は認めながらも、日本では風邪薬としてしか使用されておらず、このデータは食欲減退薬として使った場合の危険性を示したデータであるので、風邪薬として常用量を守れば心配はないので販売中止などの措置はとらないという見解を示しています(NHKニュース)。朝日新聞には対応を検討中と報道されていました。確かに、風邪薬としての使用についてこのデータをみればその通りだろうと思います。しかし、そういう情報を確認した上で、薬を選択することが必要でしょう。

フェニールプロパノールアミンは風邪、特に鼻水にはよく効き、眠気、口渇の副作用さえ気にならなければ大変よい薬で、私自身も服用したことはあります。ちなみに、病院で使われるフェニールプロパノールアミンは1カプセルあたりに50mgが含まれています。市販の風邪薬の一部にも含まれていますがその場合の量はそれよりも少ないはずです。市販の風邪薬を買うときは薬局でよく確かめましょう。

幸い、当院ではフェニールプロパノールアミンを含む薬は使用しておりません。

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