ピロリ菌と胃がんの関係

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)という細菌が胃潰瘍の原因として注目されるようになったのは1984年頃からです。現在では、胃潰瘍の患者さんには胃内視鏡検査やその他の検査によって、ピロリ菌の感染があるかどうかを確認することが通例となっています。そして、ピロリ菌が確認された場合は除菌療法という治療を行って、ピロリ菌を胃内から排除することが胃潰瘍治療の重要な位置を占めるようになってきました。さらに、このピロリ菌は胃潰瘍だけでなく、日本人に多い胃がんとも関連があるのではないかということが以前から言われていました。

今回、New England Journal of Medicine誌に発表された日本人の論文(N Engl J Med 2001; 345: 784-789)ではその可能性がより濃厚となる結果が示されました。その内容はこうです。

1526名の胃潰瘍または十二指腸潰瘍の患者さんを対象に追跡調査を行いました。このうち、ピロリ菌が検出された人が1246名、検出されなかった人が280名でした。この人たちを7.8年間追跡したところ、36名に胃がんが発生したことがわかりました。そして、それはすべてピロリ菌が検出された人たちで、ピロリ菌が検出されなかった280名の中からは一人も胃がんの人は出なかった、というのです。これはピロリ菌と胃がんとの関連が濃厚であることを示す重要なデータです。観察期間が短いため、この論文ではあまり強調されていませんが、ピロリ菌が陽性で除菌療法を行った253名の患者さんからは胃がんは発生していなかったことも述べています。

この論文は新聞などでも紹介されましたので、除菌をすれば胃がんにならなくてすむのではないかと考えた方も多いのではないかと思いますが、そのように結論づけるにはまだ証拠が足りないかもしれません。というのは、ピロリ菌は40歳代の人の34%、60歳代の人の61%、80歳代の人の73%、だいたい日本人の半分以上に検出されるもので、これらの人たちがみな胃がんになるわけではないのです。ちょうど喫煙と肺がんの関係に似ているかもしれません。ピロリ菌だけが胃がんの原因なのではなく、ピロリ菌の感染に何らかの因子が加わったときに発がんするのだろうと考えられます。あるいはまた、ピロリ菌がつきやすい人と胃がんになりやすい人との間に何らかの共通する性質があるだけのかもしれません。この点はそう遠くない将来明らかになるでしょう。そして、もしかすると、ピロリ菌によって胃がんになりやすい人のタイプが明らかとなり、がん予防のための除菌が行われるようになるのかもしれません。

ピロリ菌の今後の研究に期待したいと思います。また、安全で副作用の少ない除菌療法の確立についても今後進展が期待されます。みなさんにとって有益な情報であればいち早く紹介したいと思います。

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