関節リウマチ患者さんはがんになりにくい?

最近、様々な病気や治療法の予後について、平均寿命や死亡率、死亡原因などがどうなるかという視点で論じられるようになり、様々なデータが示されるようになりました。関節リウマチ患者さんについても、平均寿命や死亡原因などのデータが発表され、一部では、平均寿命が関節リウマチでない人よりも10年くらい短い、といったデータも発表されましたし、一方で、治療の進歩で平均寿命が延びているというデータもあります。リウマチ患者さんにとっては心配の種かもしれません。関節リウマチそのものは命に関わる病気ではないものの、合併する感染症や臓器障害などが関連するのではないかと考えられていますが、まだ十分解明されたとは言えないようです。また、骨折(関節リウマチに限らず)と死亡率との関連、非ステロイド消炎鎮痛剤と心血管系疾患との関連など、関節リウマチ患者さんを対象としたデータではないものの、リウマチ患者さんのトータルケアを考えるうえで重要なデータも集積されつつあります。

今回発表された論文は、関節リウマチ患者さんの死亡原因について、関節リウマチ患者さんの兄弟(関節リウマチではない)、変形性関節症の患者さんなどと比較して何が違うかを検討したものです。Journal of Rheumatologyの2007年8月号(2007; 34; 1695- 1698)に掲載された論文です。

英国で1991年から行われた研究で、257名の関節リウマチ患者さん、371名の関節リウマチで患者さんと同性の兄弟、485名の変形性股関節症または変形性膝関節症の患者さんを比較しました。

観察期間に全体で398名の方が亡くなっており、その内訳は、関節リウマチ患者さん139名、その兄弟105名、変形性関節症患者さん154名でした。死亡時の平均年齢は、それぞれ72.2歳、73.4歳、78.0歳でした。死亡原因の分析によると、関節リウマチ、変形性関節症患者さんで、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)による死亡が多いことが示されました。一般統計に比べ、相対危険は関節リウマチでは1.66、関節リウマチの兄弟では1.05、変形性関節症では1.96でした(数値が大きいほど虚血性心疾患になりやすいことを意味します)。ところが、興味深いことに、がんによる死亡が関節リウマチでは有意に低いことがわかりました。相対危険は関節リウマチで0.62、関節リウマチの兄弟で1.33、変形性関節症では1.00だったというのです(数値が1というのは、がんによる死亡が、一般人口ののがんによる死亡と同程度、1より少ないということはがんによる死亡が少ないことを意味します)。つまり、関節リウマチ患者さんはがんで亡くなることが少なかった、という結果でした。

関節リウマチ、変形性関節症患者さんで虚血性心疾患が多くなる理由は、関節痛のために運動不足となってしまい、肥満、脂質異常(高コレステロール血症)をきたし、動脈硬化がおきやすくなるからではないかとか、非ステロイド消炎鎮痛剤との関連などが指摘されています。さらに、炎症が動脈硬化を進めるのではないかということも最近分かってきて、関節リウマチの患者さんは炎症のために動脈硬化が進みやすく、虚血性心疾患が多いのではないかといった推測がなされています。

一方、がんについては、非ステロイド消炎鎮痛剤にはある種のがん、特に胃がん、大腸がん、乳がん、肺がん、脳腫瘍、膀胱がんなどに対してはある程度の予防効果(この薬を飲んでいるとそれらのがんにはならない、という意味ではありません。あくまでも統計的に、飲んでいる人の方が少ない、というデータです)が報告されています。ですから、非ステロイド消炎鎮痛剤を使っているからがんが少なかったのではないかという推測もできるのですが、そうだとすると同様にその種の薬を使っていた変形性関節症患者さんでは一般統計と差がなかったという点が説明しきれません。今後、もう少し大規模なデータが蓄積され、結果が出るのを待ちたいと思います。

また、今回のデータだけでは、虚血性心疾患、がん以外にはどのような原因で亡くなるケースが多かったのかとか、使っていた薬との関連はどうだったのかといった細かい解析が発表されておらず、今後、発表があるかもしれません。その点はぜひとも知りたいところです。また、欧米人と比べ日本人では、虚血性心疾患の発生率が低く、このような統計データがそのまま日本人には当てはまらないのではないかと思います。

関節リウマチの治療は、新しい治療薬、抗TNF薬(抗サイトカイン療法、生物学的製剤)の登場で大きく進歩してきました。しかし、ここで示したようなデータはあくまでも多くの患者さんを対象にした統計の結果ですので、それらを参考にしながら、患者さん一人一人に、元気で生活をエンジョイしていただくために最もよい治療方法は何かを患者さんとともに考えていきたいと思います。

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