関節リウマチ患者さんにおけるインフルエンザ予防接種の効果

インフルエンザシーズンの前には、予防接種を受けることが推奨されていますが、関節リウマチ患者さんでは、抗リウマチ薬、ステロイドなどが投与されていることが多いですし、さらに、最近では生物学的製剤なども使われている患者さんも多く、予防接種の効果が十分得られるかどうか、あるいは、関節リウマチに対して影響がないかどうかについて、これまでにもさまざまな議論がありました。今回紹介する論文では、82例という比較的小規模ではありますが、リウマチ患者さんのインフルエンザ予防接種の効果を検討するには十分なデータが得られていますので、紹介します。

Annals of the Rheumatic Diseases 2006年2月号(2006; 65: 191- 194)に掲載されたものです。82例の関節リウマチの患者さんと30人の健常人にインフルエンザ予防接種を行い、関節リウマチの状態の変化と、6週間後のインフルエンザウイルスに対する抗体価の上昇を調べています。ワクチンの予防効果を評価するためには、インフルエンザの罹患率で評価すべきなのだとは思いますが、それにはかなり多くの患者さんについて調べないと有効なデータが得られないため、このように抗体価で効果を調べるのが現実的なようです。

予防接種として用いたのは、B香港、Aパナマ、Aニューカレドニア株のワクチンで、これは日本でも一般的に用いられているインフルエンザワクチンと同じです。これを一回接種しています。ワクチン接種後の、リウマチの活動性については、自覚症状(HAQ、朝のこわばり、痛みの評価)、関節所見(圧痛および腫脹関節数)、赤沈、CRP値などを評価していますが、いずれもワクチン接種によって悪化の所見は認めていません。つまりワクチン接種のためにリウマチが悪くなったということはないということです。そして、インフルエンザウイルスに対する抗体価ですが、ワクチン接種後に著明に上昇が見られました。ただし、その程度は、健康な人の方が高く、関節リウマチ患者さんでは、やや低い傾向が見られました。しかし、使用している薬剤、つまり、ステロイド、メソトレキサート、生物学的製剤などの使用によって、抗体価の上昇が特に低くなるという傾向はありませんでした。

つまり、インフルエンザワクチンは関節リウマチ患者さんにおいて、抗体価の上昇がやや低い傾向はあるものの十分効果が期待でき、また、それによって関節リウマチが悪くなることはない、という結果が得られたといえます。

ワクチン接種後に関節リウマチの症状が悪化したなどの症例報告が散見されたため、これまでにもさまざまな検討がされてきました。これまで報告では、たとえば、ステロイドを服用していると抗体の上昇が低い傾向はあるが、それによって関節リウマチや膠原病が悪化することはない(Journal of American Medical Association 1979, 242(1): 53-56)、治療内容にかかわらず、ワクチンの効果は得られるので関節リウマチ患者さんもインフルエンザ予防接種計画に組み込むべき(Journal of Rheumatology 1994, 21: 1203-6)などでした。つまり、まれに予防接種でリウマチの症状が悪化するような人もいるが、その頻度は決して高いわけではなく、ワクチンの効果は十分得られるというものでした。さらに、最近は生物学的製剤が広く使われるようになり、感染予防に対する対策を強める必要があります。その点、この論文でも、今までと同様に、インフルエンザワクチンの効果、副作用について、健常人とそれほど変わることはないことが示唆されました。

この検討では、インフルエンザワクチン接種は一回ですが、健常人でも、我が国では、一回で効果が十分得られると証明されているのは65歳以上の人たちであり、65歳以下の人たちは二回接種が推奨されています。したがって、関節リウマチ患者さんに関しても、二回行えば十分抗体価が上がり、有効性も確実になることが期待できると思います。

いずれにしても、関節リウマチそれ自体やその治療薬のために、インフルエンザワクチンをうつ意味がない、などというようなことはないことを強調したいと思います。

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