レントゲンによる検診の効果

胸部レントゲンによる肺がん検診は私たちの地域も含め、日本全国で行われています。年に一回、胸のレントゲン写真を撮り、肺がんなどを早期発見し、手遅れにならないうちに手術したり、治療したりしようというものです。私たちも、この検診の方法によって、早期の肺がん、すなわち、症状が現れない小さい肺がんが見つかり、早期治療に役立つと信じて行っています。実際、そのようながんが見つかり、無事に手術を受け、元気にしていらっしゃる方がたくさんいます。しかし、その方式の検診について、疑問を投げかける論文が発表されました。JAMA2011年11月2日号(306(17):1865-1873)に発表されたものです。

アメリカで行われた研究で、55歳から74歳の男女、154,901人を対象に、毎年胸部レントゲンを4年間にわたって撮るグループと、通常のケアだけを受けるグループとに分け、調査を行ったというものです。調査は13年間にわたって続けられました。その結果、毎年レントゲンを撮っていたグループからは、肺がんで亡くなった方が年間1万人あたり20.1人、通常のケアだけ受けていたグループからは、19.2人だったというのです。つまり、肺がんによる死亡率を減らす効果はなかった、というわけです。したがって、毎年レントゲンで検診をしても、肺がんによる死亡は減らない、ということになるのだそうです。

これだけを読むと、肺がん検診をやる意味がないんじゃないか、と思いたくなります。しかし、肺がんの中には、進行の早いタイプとそうではないタイプがあります。進行の早いタイプの場合は、ある年のレントゲンで異常がなくて、一年後の検診で、見つかったときにはもう手遅れで、検診を受けていてもいなくても変わりない、ということは残念ながら言えるのかもしれません。
しかし、毎年検診を、もっと長期にわたって受け続けていれば進行の遅いタイプのがんでは、やはり検診を受けていた方がよい、というデータが出るかもしれません。
日本では、このように、はじめから2つのグループに分けて研究の対象とするような調査はできないのが現状で、本来なら全国的に肺がん検診が普及している日本ではどうか、というデータがほしいところです。

当地域の肺がん検診は、がんを見つけるのが主目的ではありますが、同時に、肺結核、肺気腫、心拡大、大動脈瘤なども指摘するようになっています。健康のためにはメリットは他にもたくさんありますので、受けることをお勧めします。

また、肺がん検診では胸部レントゲン1枚を撮るだけですので、放射線被曝量はごくわずかです。一回で65マイクロシーベルト、であり、成田ニューヨーク間の飛行中に浴びる放射線量(約86マイクロシーベルト)より少ない量です。

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