第10回 健康講座 酒は百薬の長?
今回は嗜好品であるアルコールのことを勉強しましょう。
アルコール飲料にもいろいろあります。まずアルコール飲料の種類をみてみましょう。
- ビール:麦芽を粉砕して穀類・水とともに加熱し、糖化した汁にホップを加え、酵母を加え発酵させる
- 発泡酒:ビールに似ているが麦芽使用量が67%以下のもの
- 日本酒:白米にこうじを加えて発酵させてもろみを作り、濾過して作る
- 焼酎:日本酒製造の際のもろみ、酒粕を蒸留したもの
- ウイスキー:大麦、ライ麦、トウモロコシなどを麦芽で糖化し、酵母を加えて発酵させ蒸留する
- ワイン:ブドウの果汁を発酵させて造る
アルコールの作用の作用はどんなものでしょう
- 適量のアルコールにより麻酔作用が働き、緊張をほぐし、リラックスした気分になります。適量を超えてしまうとフラフラしたり、意識がもうろうとしてきたり、中枢神経の症状が出てきます。
アルコールの量は、アルコール飲料によって異なり、アルコール度数で表されています。
アルコール度数

アルコールは飲んだ後どのような吸収経路を通るのでしょうか
- アルコールは20%は胃で、80%は小腸で吸収されます。
アルコールは体内でどう変化するかというと
- 血液中を循環しながら肝臓で分解されます。
- アルコール→アセトアルデヒド→酢酸へと分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。
酒に強い、弱いとは
- 肝臓でのアルコール分解の速さには個人差がります。
- 分解に必要な酵素(ALDH2)がないとアルデヒドが分解されず、アルコールを飲むとすぐに赤くなり気分が悪くなります
- 日本人の10%はこの酵素が完全欠損、40%は部分欠損しているといわれ、このような人はアルコールに弱いことになります。
アルコール飲料のカロリー
- アルコールそのものにもカロリーはあります。
- アルコール1g=7kcalといわれています。
- アルコール飲料によりカロリーは異なります。


次に、各種疾患をお持ちの患者さんにとって飲酒をどう考えたらよいかを示しましょう。
アルコールと糖尿病
食品交換表によれば、
”アルコール飲料は糖尿病の治療や合併症の予防上いろいろな面で悪影響があるのでできるだけ禁酒”
となっています。なぜよくないのでしょうか。
アルコールが糖尿病によくない理由
- アルコール自体にもカロリーがある
- といって食事をとらずにアルコールだけとると肝臓に働いて低血糖の原因となる(特に沍^糖尿病)
- 無自覚性低血糖が起きやすくなる
- 少しのつもりでも、つい飲み過ぎたり食べ過ぎたりすることがある
- 末梢神経障害を悪化させる
- ビグアナイド系の薬を服用している場合、アルコールにより副作用のリスクが増す
などが挙げられます。しかし、主治医の判断で少量なら可能な場合もあります。その目安の一例を示します。
糖尿病でもアルコールが飲める場合
- 血糖コントロールが安定していること
- すい臓や肝臓の病気がないこと
- アルコールの量をコントロールできること
- アルコールのカロリーも計算に入れた食事療法ができること
- 許可される場合でも一日2単位まで、つまり以下が目安となります。
- ビール400ml
- ワイン200ml
- 日本酒150ml
- ウイスキーシングル2杯
これはひとつの目安ですので必ず主治医に確認してください。
アルコールと高脂血症
高脂血症との関係では以下のことがわかっています。
- アルコールの飲みすぎは中性脂肪を増加させる
- 適量のアルコールは善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やし、動脈硬化を防ぐ
従って適量の飲酒であればよいことになります。しかし、糖尿病と同様に、アルコールそのもののカロリーの問題や飲酒の機会につい食べ過ぎるなどの問題がありますので注意が必要です。
アルコールと高血圧
- アルコールの効果で血管が拡張し血圧が下がるが一時的
- 毎日飲酒した場合、量が多いと血圧が上がることが報告されている
従って、やはり、適量なら良い、ということになります。酒の肴となるものには塩辛いものが多いのでその点も注意しましょう。
アルコールと痛風
- 痛風、高尿酸血症の治療で大切なのは肥満の解消、アルコール飲料の制限、水分を多くとること、プリン体を多く含む食品の制限。
- アルコールは尿酸の産生を増加させる。
- アルコール飲料の中でもビールはプリン体が多い。
- 従って、尿酸が高い人、痛風の既往がある人ではアルコールは禁止、あるいは少量に抑える必要があります。
アルコールと肝障害
- 日本酒3合以上を週5日以上1年つづけると、50%以上の人が脂肪肝になる
- 7〜8合を飲みつづけると3日目で脂肪肝に
- 血液検査ではγGTPの上昇が特徴
- 大量飲酒を15〜20年続けると肝硬変に
- 4週間断酒すると肝臓の状態はかなり回復する
アルコール性肝障害があるとわかっている人ではまずは禁酒が大切です。
アルコールと膵炎
慢性膵炎とも関わりが深いことがわかっています。
アルコールとがん
アルコールは発がん物質としても位置づけられ、次のことがわかっています。
- 飲酒週間があり飲酒量が多いとがんのリスクも増す
- 特に上部口腔咽頭、食道がんとは関わりが深い
アルコール依存症とは
- アルコールによる慢性中毒
- 自ら求めてアルコールを摂取する行動が最優先され、他の大切な生活習慣が無視される
- 治療:解毒、リハビリの包括的、専門的治療が必要
“酒は百薬の長”であるために
- Jカーブ現象
- 飲酒量と死亡率の関係を調べると全く飲まない人より少し飲む人の方が死亡率は低く、それ以上飲む人はのむ量に応じて死亡率も高くなることがわかっています。適量のアルコールが身体によい可能性が示唆されるデータといえます。そのためには
- まず自分の体を知ろう
- 肝障害やその他生活習慣病がないか、それによってアルコールの適量も変わってきます。
- 自分にあった適量とは
- 糖尿病などカロリー制限の意味では
- ビール400ml
- ワイン200ml
- 日本酒150ml
- ウイスキーシングル2杯
- 肝臓に負担をかけない量は
- 日本酒で1〜2合程度まで
- ビール2本
- ワイン2〜4杯
- ウイスキーシングル3〜4杯
- 必ず休肝日をもうけることが大切です。
休肝日とは
- アルコールを飲まないで肝臓を休める日
- 週に2日は休肝日を

アルコールは人とのコミュニケーションにも欠かせないものです。適量を守り、からだに合った楽しい飲み方を心がけましょう。
<参考文献>
- 広辞苑
- 治療83、3028-3029、2001
- 標準薬理学
- 5訂日本食品成分表
- 食品交換表第5版日本糖尿病協会編
- さかえ42、2002
- 日本医師会雑誌126、716-722、2001