国民の塩分摂取量を減らすと心血管系疾患予防にどれだけ効果があるか

塩分摂取を控えることは高血圧の予防、治療に重要で、一日6g以下にすることが望ましいとされています。しかし、実際には日本人の場合、ふつうの食事でも一日10〜12gの塩分が含まれていると言われていて、よほど気をつけないと6gまで減らすことは難しいと考えられます。しかし、少し減らすだけでも効果はないのでしょうか。また、国民全体で塩分摂取量の減少が実現できたらどのくらいの効果があるのでしょうか。今回紹介する論文は、塩分摂取量を一日3g減らすことでどんな効果があるかを検討したものです。

New England Journal of Medicine誌2010年1月20日号に掲載された論文で、アメリカでの研究です。塩分摂取量が多いのは日本人に限ったことではなく、アメリカでも問題となっています。

論文の著者等は、様々なデータから、アメリカ人が、塩分摂取量を一日3g減らすことで、心血管系疾患がどのくらい減るかを試算しました。それによると、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)は60,000〜120,000人、脳卒中は32,000人〜66,000人、心筋梗塞は54,000人〜99,000人の、それぞれ年間の新規発症の減少が見込まれ、そして、原因の如何に関わらず44,000〜92,000人の死亡者数減少が見込まれるというのです。すべての年齢層、人種、性別でその傾向は認められました。また、それに伴い、医療費も大幅に削減できるという試算もしています。一日1gの塩分摂取量減少を徐々に実現していけば、すべての高血圧患者さんの高血圧の薬のコストより効果があるとも述べています。

アメリカではすでに、ニューヨーク市ですべての食品製造業者や外食チェーン店に対して、塩分使用量を25%減らすよう勧告を出していますし、カリフォルニア州では、学校や公共施設で出す食事の塩分量の上限を決めることも検討されているそうです(New York Times 2010年1月21日)。このような取り組みによって、心血管系疾患を中心とした疾患の死亡率や罹患率が減り、さらには、医療費も減らせるということが見込まれています。

ただ、塩分制限については、ただ減らせばよいというものではないという否定的な意見もあります。インスリン抵抗性やホルモンバランスに影響が出るというのが反対意見の根拠となっています。ただ、現在の塩分摂取量はかなり多いので、それをいくらか減らす程度であればそのような悪影響の心配はないように思います。

最近、マクドナルドのフライドポテトにかかっている塩の量がずいぶん減ったように思います。日本国内の外食産業もそのような取り組みを始めているのであればよいことなのではないかと思います。特に、子供のうちに濃い味付けになれてしまうのはできるだけ避けた方がよいだろうと思います。

いきなり塩分6gというのはハードルが高いですが、2割でも3割でもいいので少しずつ減らす、ということを目標にしてみてはいかがでしょうか。

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